1.はじめに《2つのヴァイオリンのための協奏曲》の最終楽章(第3楽章)は、躍動感と明るさにあふれています。バッハの音楽というと、「厳格」「重厚」「知的」といった言葉がよく使われますが、この楽章を聴いていると、そうした印象に少し風穴が開くかもしれません。2.駆け出すように始まり、最後まで止まらないこの楽章は、まるで走り出した列車のように勢いよく始まり、そのままテンションを保ちながら突き進んでいきます。2つのヴァイオリンは互いに模倣し、追いかけ合い、そして時にぴたりと重なります。リズムは歯切れよく、音型の繰り返しには力強さと遊び心が感じられます。バッハらしい対位法的な構造はもちろんありますが、それよりも音楽が"動く"ことの楽しさが全面に出てくる楽章です。3.真面目の中にユーモアを仕込むバッハバッハはとても信仰心のあつい人物でしたが、同時に音楽に対して非常に柔軟な発想を持っていた人でもあります。特に器楽作品では、時に「にやり」と笑いたくなるような小さな仕掛けや、演奏者を試すようなフレーズを含んでいることがあります。この最終楽章にも、そんなバッハの「ちょっとした遊び心」が顔をのぞかせています。形式にきちんと収まっていながらも、その中に自由なエネルギーが流れていて、聴いていても演奏していても、自然に身体が動いてしまうような感覚があるのです。4.南紫音のコメント3楽章は、2楽章の穏やかさとは打って変わって、まるでロックを感じる、ユーモアたっぷりの音楽です。バイオリンソロの2人、そしてオーケストラとの掛け合いも非常にスリリングで、現代を生きる私たちが聞いても、思わず笑みがこぼれます。演奏していてもある種、弾いている、というより音楽に没頭している、そんな感覚になる楽章です。5.小池彩夏のコメントバッハの音楽には、まじめさの奥にあるユーモアと遊び心が隠れています。弾いていると、突然微笑みたくなるようなリズムの工夫や、軽やかな旋律に出会うことがあります。彼は人生の喜びや、ちょっとしたいたずら心も音に託していたのだと思います。その自由さが、彼の魅力のひとつです。6.詳細は番外編でここまで読んでこられた方は、具体的にはどんな遊び心が隠されているのだろう?と思われるかもしれません。そんな方のために、こちらのリンク先に【番外編】として遊び心の一例をまとめましたので、興味のある方はちょっと覗いてごらんになると面白いかもしれません。7.次回予告次回の活動報告では、チェロ・コントラバス・チェンバロがどのように音楽を支えるのか──バロック音楽の“縁の下の力持ち”、通奏低音(バッソ・コンティヌオ)の世界をご紹介します。寄稿は、今回チェンバロ奏者として参加をいただく大井 駿さん。ヴィヴァルディやバッハの楽譜の中で、通奏低音がどんな役割を果たしているのか、そして今回の公演でどのように響くのかを、わかりやすく解説してくださいます。次々回にはその続編として、「バッハと通奏低音」をテーマに、即興性や音づくりの秘密にも触れていきます。どうぞお楽しみに!







