ごあいさつ 自己紹介
私・和田明美は20年以上、精神科病院の入院者が向精神薬や身体拘束で重症化したり死亡したりした事案を取材する記者活動をしてきました。近年、訪問看護による対話でケアをするアウトリーチや当事者のピア活動が増えています。これら「地域での回復」に転換するためのシンポジウムを来年夏から全国展開したいと考えています。ぜひ応援をお願いします。
プロジェクト立ち上げの背景
■「これは医療じゃない!」という理不尽
私は2000年代初めから、精神科病院に入通院していた人が多剤大量処方の影響で死亡したため遺族が訴訟を起こしたケースに複数関わり、遺族や弁護士らに資料提供するなど支援しましたが、処方薬中毒死という解剖結果がある事案でさえも勝訴することはできませんでした。私は「こんな理不尽があっていいのか」という思いを抱き続けてきました。
そのような中、私は2010年、遺族や悪化した人の家族らとともに厚生労働省に行き、多剤大量処方の改善を求める陳情書を提出し、診療報酬制度で睡眠薬など同種薬3剤以上を処方すると減算される改定(2012年)に結びつけました。この改定によって、向精神薬過量服薬(OD)による救急搬送数が大阪などで半分に減りました。また通院の人の処方の単剤化が都市部などで進み、副作用に悩む人はだいぶ減っていると実感しています。
しかし、入院の人の多剤大量処方はいまだ改善されず、強制入院や身体拘束(ベルトなどの拘束具で身体をベッドに縛り付ける処置)を長期に渡って乱用するなど根深い問題があります。
■「刑務所より酷い」 隔離・拘束の屈辱
日本弁護士連合会が2020年、精神科病院に入院経験のある1040人に行ったアンケート調査では、入院中に悲しい・つらい・悔しい体験をしたことがあると回答したのは8割。最も悲しい・つらい・悔しい体験と答えたのは、外出制限、隔離室が5割、薬の副作用、長期入院が4割、身体拘束、侮辱、面会・通信制限がそれぞれ3割でした。インタビューでは、「看護師にベッドにくくり付けられ、尿道に管を入れられオムツを着けられた。看護師に囲まれた時は恐怖を感じ、オムツは屈辱だった」「人間不信になった」など、隔離や身体拘束による屈辱、恐怖、絶望を訴えた人が極めて多い結果でした。
精神科病院の隔離室入り口。看護師がトイレの水を流すレバー(右)がある=2023年11月6日、宇都宮病院で撮影(西前啓子弁護士提供)
私が実際に話を聞いた入院経験者によりますと、隔離室は3畳ぐらいの広さで、ベッドが一つ、ドアや隔てがなく自分で流すことができない便器、手が届かない高さにある小窓のみがあるだけで、臭い匂いの中で、トレーで配膳された食事を床に座って食べていた、といいます。
トイレの悪臭がする隔離室の中=2023年11月6日、宇都宮病院で撮影(西前啓子弁護士提供)
退院して10年経っても当時の記憶のフラッシュバックがあり、「今でも怖くて病院に立ち入れない」と訴えています。
隔離・拘束を人権侵害と感じて抵抗しようものなら、逆に医師によって長期の拘束とされたり、注射でおとなしくされるなどで、精神的に追い詰めて自殺に追いやったと疑われる事案や、抵抗を諦めさせて施設症(無力化)に陥らせたと思われる人を生み出してきました。
筑波大名誉教授で精神科医の斎藤環氏は、多くの精神科病院で不必要な大量の向精神薬を使って患者をおとなしくさせる「薬縛」という問題があるといい、その大量の薬によって死亡することもあると述べています。また、患者の体や手足をベッドにくくり付ける身体拘束によって、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)に罹患すると、肺に血栓が詰まって酸素を取り込めなくなるため、肺の広範な領域が一気に壊死して、そのショックで死亡することもあると、重篤な副作用を指摘しています。退院してもトラウマ症状が長年残ることがあるのも大きな問題だとしています。
■欧米と比べ劣悪 長期拘束と入院
杏林大学の長谷川利夫教授らが行った調査研究によると、日本では、身体拘束は人口10万人あたり120人に行っており、米18人、豪6人、英1・9人と比べ極端に人数が多い状況です。入院患者1人に対する拘束の平均時間でも、日本は730時間、独8・2時間、米4時間、ニュージーランド1・1時間と突出して長い時間が示されています。
(杏林大学・長谷川利夫教授提供)
また、精神科病院に1年以上入院している社会的入院の人は欧米と比較してケタ違いに多く、全入院患者数も25万525人(2024年630調査)と、世界の精神科病院入院患者数を日本が押し上げています。欧米では、精神科病院入院者数は1カ国で2万人~5万人ぐらいです。
■40年間の入院 人生を奪われる
福島県内の精神科病院に約40年もの間、入院させられていた伊藤時男さん(74)は精神的に安定し、院内の労務作業もまじめにこなしていました。しかし、複数回の退院申請は受け入れられず、2011年の東日本大震災で病院が被災したため、後に退院できることになりました。
伊藤時男さん(左)の著書(やどかり出版提供) 伊藤さんは「震災がなかったら、一生を病院で過ごして、そのまま最期を迎えていたと思う」と述べ、長期入院によって平穏な人生が奪われたこと、社会での就労、恋愛、結婚、家族を作るといったことができなかったことなどを民事訴訟で訴えました。自分と同じ病院にいた人たちの中には、「どう見ても入院の必要がないと思える人も長期入院だった。退院させてもらえないことを苦にして自殺した人もいた。入院してすぐに不審死した人もいた。このような人たちを救ってほしい」などと法廷で述べ、国のこれまでの制度・政策の改善を求めました。しかし、東京地方裁判所は国の責任を認めませんでした。
■良質なアウトリーチを広げよう
病院や刑務所に閉じこめる収容政策ではなく、地域で暮らしながら回復していくためのケアACT(Assertive Community Treatment 包括型地域生活支援)やアウトリーチ(訪問支援)への転換が少しずつ進んでいます。
作業療法士、看護師、精神保健福祉士、ピアスタッフ、精神科医、就労支援専門家、心理士ら支援職が、当事者や家族が必要とする時に自宅に訪問して、薬はなるべく使わず、対話によるケアをするACTチームが治療の成果をあげています。
九州のACTチーム「Q-ACT 」の支援。支援者が作る治療計画ではなく、支援者が
本人と一緒にリカバリープラン(将来の計画)を作成する(図はQ-ACTのHPより抜粋)
また、ピアサポート(当事者による支援)といって、精神疾患から一定程度回復したピアサポーターが同じような疾患で苦しんでいる人を支援することで、社会復帰のお手伝いをする取り組みが数年前に始まっています。
このような社会資源が連携して、地域社会に根付いていき、安心できる居場所を創りあげていくのが理想だと考えています。ベルギーなど欧米の成功例を参考にして、回復への効果が出る質の高いアウトリーチへ転換できたらと考えています。
■ピアサポーター活躍社会へ
精神症状が安定している、または、ある程度快方に向かったピアの方々は、近年、精神科病院から退院するための支援活動を行っています。多くのピアの方が、こういった活動を「もっと行いたい」と述べています。やる気次第で、ピアサポート活動だけで経済的に自立できるようにしたいと考えています。一方で、時々不安定になったりすることもありますので、その人の体調に合わせて無理のない範囲でピア活動に関われるように、柔軟な体制作りが望まれます。
同じ疾患を経験した者同士は、多くを語らなくても理解し合えるという強みがあります。支援する側も、される側も、お互いの力を引き出し合っていけるようにできたらよいですね。
金沢のACTチーム「G-ACT」メンバーが開いたバーベキュー会=2025年7月12日、和田明美撮影
また、精神疾患のある人の自宅訪問サービスでは、介護・支援職の方に来られるとかえってストレスになって良くないという声も少なくありません。この場合、ピアならば、理解し合って友人や仲間になれるという可能性があります。家事手伝いや買い物、外出など、サポートするうちに、されるうちに、安心できる関係性ができていくということが大切だと考えています。
■「日本版ドラッグコート」の実現
違法薬物などの薬物依存症の人たちは、刑務所に入っても出所したら、すぐに再使用して逮捕され再入所するということを繰り返しています。
薬物依存症回復支援施設「ダルク」のある施設長は、「長年、刑務所に入っていると、仕事に就いて結婚して家庭を作ってということができなくなり、自分はダメな人間なんだと自信喪失してしまう。刑期を終え出所しても元犯罪者という社会の差別や偏見があり、仕事に就くことが難しく、仕事に就けたとしても元犯罪者であることがばれて解雇されることもある。そうなると、ますます『ダメな自分』を忘れたくて、また薬を使ってしまうんです」と薬物依存症者の逆境を話しています。
刑務所は、逆に社会復帰を困難にして重症化させているのが実情だと思います。刑務所に入らずに早期に回復支援プログラムにつながる「日本版ドラッグコート」を実現したい。米国やオーストラリアでは、違法薬物やギャンブルなどの依存症者は刑務所で服役させるのではなく、裁判官命令などで依存症専門回復支援施設で治療する「ドラッグ・コート」と呼ばれる司法システムです。
日本では、国立精神・神経医療研究センターが薬物依存症回復支援施設「ダルク」でプログラムを受けた薬物依存症者について調査を行いましたが、ダルク入所者の半年後の断薬率は87・4%と高い数値です。専門医療機関である精神保健福祉センターの認知行動療法プログラムを受けた人たちの断薬率は、半年後で54・5%というデータがありますが、これと比較してもダルクでの断薬率はかなり優秀といえます。

(国立精神・神経医療研究センター 嶋根卓也博士提供)
「ダルク追っかけ調査2018」=国立精神・神経医療研究センター 嶋根卓也博士提供
(以下をクリックすると、調査結果の全文が読めます)
https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/reference/pdf/darc_book.pdf
このように、同じ疾患で苦しんだ当事者同士の回復支援プログラムやピアサポートは、回復率が高く成果をあげるというエビデンス(科学的根拠)は世界的にも多く、欧米ではピアサポートやアウトリーチといった考え方や手法は当たり前になっています。
■発達障害の生きづらさ
発達障害の人たちは、聴覚や触覚、嗅覚が過敏だったり、人との距離感をどのように保って良いか分からないなどの特性を抱えていることが多いです。そのため、子ども時代から、さまざまな場面で生きづらさを抱えることがあります。薬物依存症者の3割が発達障害の併存障害があるという研究データもあります。こういった特性を理解して、犯罪につながらないように育んでいく専門的な認知行動療法プログラムや環境作りを具体化していく必要があると思います。また、大人になって犯罪を犯した場合の更生支援を行う専門職や弁護士など支援団体の活動も活発化しています。
■精神疾患は身近なもの
厚生労働省の患者調査(2023年)によると、精神疾患の患者数は489万6000人。また、自死者総数(2024年)は2万320人で、その原因は4割が精神疾患の悩みで、うつ4245人、統合失調症924人、アルコール依存症188人、薬物乱用44人となっています。
精神疾患は、とても身近なものとなっており、ある日突然、自分や家族など大切な人が精神疾患になって医療機関にかかる可能性があります。その意味でも、日本の精神科医療や司法システムは、なるべく早期に効果が上がる治療・ケアにつながる体制作りが求められているといえます。
プロジェクトで実現したいこと
精神科医療の実態を広く一般の人に知っていただき、「地域での回復へ転換」を実現するためのムーブメントを盛り上げるシンポジウムを全国10カ所で開催するのが目標です。
ひきこもりや体調不良で外出できない人のために現地参加だけでなく、オンライン参加できるハイブリット方式で行い、シンポジストと会場参加者、オンライン参加者が3方向で対話できる環境を整えたい。それにはプロの技術スタッフを雇わねばならず経費がかかります。
<シンポジウムの概要>
時期:
2026年7月~27年7月 札幌、仙台、東京近郊、横浜または川崎、名古屋、京都、大阪、岡山、金沢、福岡で開催予定
シンポジウムの日時・場所・プログラムは26年5月サイト上とメール送付で通知します
テーマ:
■アウトリーチへの転換
ACTなどに取り組む看護師、精神保健福祉士、臨床心理士など支援職、ひきこもりを克服した当事者、退院支援活動などに取り組むピアサポーターや弁護士、精神障害者家族会の家族らが登壇。
単なる「訪問看護」とは、まったく質が違う支援サービス「ACT」とは。克服した当事者の話。なぜピア活動なのか。家族のACTへの期待と不安などについて話し合い相互理解を深め、地域でのリカバリー(回復)に本格的に転換するには、どうしたら良いかを語り合います。
■日本版ドラッグコート実現へ
刑事政策の研究者が米国やオーストラリアの先進的プログラムや司法システムを紹介。依存症回復支援施設スタッフらが実体験から日本の司法システムについて課題を提起します。薬物・ギャンブル・アルコール・クレプトマニア(窃盗症)、性依存などが根底にあって違法行為で逮捕された人が、刑務所ではなく早期に依存症専門回復支援施設につながる「日本版ドラッグコート」について話し合います。
■発達障害の子ども育成、更生支援の連携作り
発達障害のある子ども向けの専門的な認知行動療法プログラム、大人の更生支援プログラムを全国展開するには。これらに取り組む支援職や弁護士ら、発達障害の子をもつ親や当事者ら、依存症回復支援施設スタッフらが連携や展望を話し合います。
支援金の使い道
設備費(内訳:会場レンタル費) 52万円
人件費 205万円
(内訳:ハイブリット配信スタッフ費130万円 講師への謝礼・交通費60万円 現地協力スタッフ交通費15万円)
広報・宣伝費 48万円
(内訳:チラシ印刷費5万円 全国の家族会や当事者会研修に参加・広報宣伝費43万円)
リターン仕入れ費 85万円
(内訳:リターン仕入れ48万円 リターン梱包・送料37万円)
合計 390万円
リターンについて
精神疾患や知的・発達障害などがある人たちの就労や地域生活支援をする就労継続支援B型作業所に通う人たちが、創作・考案などに参加して丹精込めて制作したものをそろえました。
レジンブローチは、障害のある人がそれぞれの感性でビーズをちりばめる手製で一つ一つ少しずつ風合いが違います。
福岡県久留米市の久留米絣を使った紺色のマスクとポシェットは、布地の裁断によって模様の出方が違い、自分だけの1点ものとなる品です。薄緑色のマスクは写真よりも鮮やかで美しい色です。
当事者が創作・制作したリターンの品を、みなさまに選んでいただけるのは、喜びややりがいにつながります。ぜひ、お手に取って愛用していただけましたらと思います。
いずれのリターングッズも作業所のご挨拶状と和田明美の感謝状を同封して、お送りします。
*複数のリターンを選んでいただいてご支援の合計額が5万円を超える方または団体さま、和田明美の出張講演のリターンを選んでいただいた方または団体さまは、「和田明美と未来を創る会」が年1回、国に提出する収支報告書に、お名前(団体名)、ご職業、ご住所、ご支援の金額、ご支援いただいた日付を明記いたします。
現在の準備状況
過去20年以上の取材で得た知識。近年3年以上に渡って精神科医、精神科看護師、精神保健福祉士、ACTチームなどの学会に参加して精神医療界の最新情報や動向を調査してきました。また精神障害がある当事者団体やグループ、ピアサポーター、全国の精神障害者家族会、強制入院をなくすことを目指している弁護士グループなどの大会や総会、研修会などに参加して、どのようなことに困っているのか、どのようなことを望んでいるのか、などの情報収集や意見聴取を行ってきました。これらの情報を総合的に勘案して、シンポジウムの内容や登壇者を練っています。
シンポジウム登壇予定者としては、刑事政策の研究者、仙台・神奈川・関西・福岡エリアの依存症回復支援施設のリーダー、福岡・東京近郊・京都・大阪・金沢のACTチームのリーダー、名古屋の福祉施設リーダー、札幌のピアスタッフリーダーからシンポジウムへの参画を得ています。シンポジウム開催に向けて計画・準備を進めているところです。
スケジュール
2025年11月中旬 クラウドファンディング開始
26年 1月末 クラウドファンディング終了
2月 登壇予定者と相談 シンポジウム日時・会場決定
3~4月 登壇者と打ち合わせ シンポジウム詳細内容・プログラム決定
4月中旬 シンポジウム案内チラシ作成
5月 シンポジウム案内チラシをサイト上とメールでお知らせ
リターン発送開始
サイト上に「お名前掲示」の支援をいただいた方のお名前掲載
5月下旬 「和田明美とオンライン講演・対話」スタート(リターンの1つ)
「和田明美の出張講演」スタート(リターンの1つ)
7月 シンポジウム開催スタート
27年 7月 シンポジウム開催の終了
「和田明美とオンライン講演・対話」終了
「和田明美の出張講演」終了
最後に
シンポジウムは、精神疾患がある当事者、看護師や精神保健福祉士、臨床心理士、薬剤師といった支援職の方、家族、専門分野の研究者、弁護士など、さまざまな立場の方が一堂に会して話し合うことで、お互いの理解を深めて新たな気づきを得られる場にしたいと考えております。そして、これまで交流がなかった人たちとも連携を作り、連携の輪を広げていけたら、と願っています。
これまで精神科医療や司法システムに関わってこられた方も、まったく感知していなかったけれども知ってみたいという方も、シンポジウムに参加して、新しい出会いをみつけてみませんか?






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