
いよいよプロジェクトが始動しました。
この物語がどんな温度感で、どんなリズムで刻まれているのか。それを知っていただくには、僕の言葉で説明するよりも、作品そのものを読んでいただくのが一番だと考えました。
今日から約40日弱、毎日この活動報告で『LOVE IS [NOT] DEAD.~おやじパンクス、恋をする~』の本編を少しずつ公開していきます。
最終的には全体の約5分の1程度、物語が大きく動き出すところまでお付き合いいただければ幸いです。
もし続きが気になったら、ぜひ本を手にとって(ご支援をいただいて)、最後まで見届けてやってください。
それではさっそく第1回目、どうぞ!

第1回『LOVE IS [NOT] DEAD.〜おやじパンクス、恋をする〜』
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妙なことを覚えているもんだ、と自分でも不思議に思ったんだが、予定よりも二時間くらい遅れて家を出ようとした時に、俺はあることを思い出した。
それは、本当に些細なことだ。例えば今着ているTシャツの柄みたいなもんで——Freedom is not Free.、赤いボディに黒字でそう書かれてある——いや、これは些細な事じゃあないな、なかなかの名言だと思う。つまりTシャツに書かれたメッセージよりも取るに足らないってことだが、まあ何かというと、ガキの頃によく行っていたレストランのことだ。
今の俺はレストランなんかにゃ縁がない。結婚してた頃にはたまには行ったが、嫁と別れて一人暮らしを始めてからは、行かなくなった。だいたい、行く理由がない。いや、それ以前に店のほうが嫌がるだろう。
何しろ俺ときたら、四十代にしてモヒカン頭で——しかもオレンジ色に染めてる——いっつも酔っぱらってて、服装は決まってTシャツとボロボロの黒ジーンズ、おまけにヘビースモーカーときてる。お上品なレストランが歓迎するわけがない。気取った店員に「お客様、申し訳ありませんが」とか何とか言われて、追い出されるのがオチだ。
まあ、だが、俺が今日思い出したそのレストランっていうのは、そういうかしこまった感じでもないんだよ。
食堂って言ったらさすがに失礼だけど、下町の洋食屋っていうのかな、値段だってファミレスとそう変わらなかった。カツレツが千円とか、オニオンスープが六百円とか、まあこれは適当だけど、だいたいそれくらいでさ。
それでいて雰囲気は悪くなかった。牛丼屋とかカレー屋とかああいうのの逆っていうか、ほら、そういうチェーン店って「重さ」がないだろ。ぶん殴れば割れちまいそうなプラスチックっぽいテーブルとか、いかにも大量生産しましたみたいなコップとか、店員の機械的な対応とかさ、なんか薄っぺらいじゃねえか。
そのレストランは、高級とは言わないまでも、まあまあいい感じの店だった。敷いてある絨毯は分厚くて物がよさそうだったし、テーブルにはいつもパリっと糊付けされた真っ白のクロスがかかってたし、店員も蝶ネクタイとかしてよ、水にはレモンスライスが浮かんでる、そういう店だったよ。味だって悪くなかった。
俺が好きだったのはマカロニグラタンで、特別変わってるってわけじゃないが、いつも頼んでた。親父も瓶ビールじゃなくてワイン飲んだりとかしてさ、母親も変に化粧とかしちゃって、あの頃の俺、つまり小学生とか中学生の俺にとっちゃ、ちょっとだけ特別な時間、そんな感じだったんだよ。
〜第2回に続く(明日公開)〜



