
熱中小学校とは何だったのか。 ――廃校から始まった「大人の学び共同体」
橘川 幸夫 氏
(『イコール』編集長 / 一般社団法人参加型社会学会・代表理事 / 深呼吸学部塾長 / 元ロッキング・オン編集室長)
2015年、山形県高畠町の廃校から、「熱中小学校」は始まった。
戦後の日本は、人口増加と高度経済成長の中で、全国に数多くの小中学校を建設してきた。しかし、少子化と人口減少によって、多くの学校が役目を終え、統廃合されていく。都市部では商業施設や企業へ転用される例もあるが、地方では活用されないまま静かに残される校舎も少なくなかった。 その廃校に、新しい命を吹き込もうとしたのが、「もういちど7歳の目で世界を…」を合言葉に、堀田一芙氏が立ち上げた「熱中小学校」である。
しかし、それは単なる廃校活用事業ではなかった。熱中小学校が目指したのは、「学びたい大人たちの共同体」をつくることだった。 運営を支えたのは、地域の有志たちである。行政主導でも、大企業主導でもない。そして講師には、全国で活躍する経営者、大学教授、技術者、クリエイターたちが集まった。しかも多くの講師が、交通費程度の実費に近い形で参加し、地域の人々と直接向き合った。 そこでは、知識だけではなく、「経験」や「熱量」が交換されていた。
インターネットによって、情報は誰でも検索できる時代になった。しかし、「どんな人と出会ったか」「どんな空気を感じたか」「どんな雑談を交わしたか」は、ネットだけでは得られない。 熱中小学校は、その「人と人が混ざり合う場」を、日本各地に生み出していったのである。
10代から80代まで。職業も立場も異なる人々が、同じ教室に集まり、一緒に学び、語り、飲み、地域を歩く。その出会いの中から、新しい事業や地域活動も次々に生まれていった。 それは、単なる生涯学習ではない。 人口減少時代における、新しい共同体の実験だったのだ。
本書は、山形高畠熱中小学校のスタート時から事務局として運営に関わり、コロナ禍も含めた激動の日々を現場で支えてきた長谷川智之くんによる、実践の記録である。 現場で起きた喜びや葛藤、人と人とのつながり、地域に芽吹いた小さな変化が、当事者の視点から丁寧に描かれている。人口減少時代の地域社会のあり方を模索している人たちに、ぜひ読んでいただきたい一冊である。



