「もう治らないよ」と言われたら?
みなさんに、少しだけ想像してほしいことがあります。
もし、あなたや家族が病気やけがをしたとき、本当はもっと良くなる可能性があるのに「もう治りませんよ」と言われたら。わかっているのに「あの人、理解していない」と能力を過小評価されたら。大変なのに頑張っているのに、「もう大丈夫でしょう」と軽く扱われたら?
きっと、多くの人は心が折れてしまうと思います。そして、できることまでできなくなってしまうかもしれません。実は、これが失語症の人たちを取り巻く現実です。
失語症の人を取り巻く社会には、「回復しない」「わかっていない」「甘えている」という大きな誤解があります。その誤解によって、本当は能力がある人が「できない人」のままになってしまう。私は、この現実を変えたいと思っています。
自己紹介
はじめまして。言語聴覚士の多田紀子です。私は2003年に言語聴覚士となり、病院で失語症のある方と関わってきました。2018年には NPO法人りじょぶ大阪 を立ち上げ、2019年からは、言語聴覚士が少ない地域でも支援を受けられるように、オンラインを利用した言語リハビリも開始しました。NPO法人では、失語症・高次脳機能障害の啓発活動を、当事者の方々と行っています。
今年の1月に香川県で開催した「失語症」についての講演会。
前日には、当事者会会長の合田仁さんと、地元メディアや行政関係者にお会いしてきました。
活動のきっかけ
この活動の原点は、急性期病院で出会った一人の患者さんでした。40代で脳の病気を経験したその方は、退院後の生活を 6年間日記に書き続けていました。そこには退院後の生活の苦労、社会の理解不足、孤独が書かれていました。私はその日記を読んだとき、退院後の生活をほとんど知らないまま支援していたことに気づきました。さらに衝撃だったのは、一度回復した言語機能が、「話さない」生活によって悪化すること(廃用といいます)でした。医療の枠組みだけでは、生活を支えきれない。そう思い、地域での活動を始めました。

NPO法人りじょぶ大阪の設立のきっかけとなった本。
高次脳機能障害がある下川眞一さんのリアルを伝えるため、あまり編集せずに作成した。
そもそも失語症とは?
失語症とは、脳血管障害(脳卒中)や頭部外傷など、何らかの原因で、言葉をつかさどる「言語野」といわれる脳の部位が傷つくことによって起こる後遺症です。症状は、軽度から重度まで様々ですが、「聞く」「話す」「読む」「書く」そして「計算」が困難になります。
ただし、ことばが難しくなっただけで、知的能力とは関係ありません。英語などの外国語で会話するときを想像してみてください。言いたいことはある、状況もわかる、でも言葉だけがついてこない。それが失語症の方なのです。

私が見て来た失語症者の現実
退院後の生活を知ってもらうために、私は2022年から毎月2名の当事者やご家族へのインタビューを行い、これまでに 120名以上 の声を聞いてきました。その中で私が強く感じたのは、失語症の人の多くは「何もできない人」ではないということです。時間をかけて回復し、工夫しながら社会の中で役割を持ち続けている人がたくさんいます。一部の方を紹介します。
「復帰は無理」と言われたスポーツライター(2024年4月号)
入院したとき、医師から「復帰は難しい。職業訓練を受けて他の仕事を探してください」と言われました。しかし、彼は「自分のことは自分が一番わかる」と思い、力試しを兼ねて他の入院患者にインタビューを始めました。退院後は、オンライン言語リハビリを利用しながら回復し続け、なんと、半年以内に、病前に契約していた本を完成させ、スポーツライターとして復帰します。ご本人の能力を、入院生活で予測することは、難しいのです。
「歌えるのに話せない」オペラ歌手(2024年5月号)
発症直後は「コップ」も浮かばず、「あれ、あれ」を連発していた彼女。それでも、「カンツォーネなら歌えたと言います。入院患者を対象に、毎日、食堂においてあるピアノを弾きながら歌っていたそうです。退院後、オンライン言語リハビリを開始、2年後には日常会話は不自由なくできるようになりましたが、オペラの舞台で日本語で歌うのはとても苦労されていました。「できそうで、できない」「できなさそうで、できる」そんな葛藤を繰り返しながら、彼女は舞台に戻りました。
「最も得意とする分野」ITマーケター(2025年4月号)
今年の失語症イベントを統括する石渡達也さんは、長年外資系の会社でマーケターを担当、イベント開催などを行ってきました。脳出血のあと失語症となりましたが、失語症トレーニングサービスの開発や今年の「失語症の日」イベントの総指揮を務めています。友人がご本人に「最も得意とする分野じゃないですか」と伝えていたのが印象に残っています。能力は変わっていないことがわかります。
失語症・高次脳機能障害者の「退院後の生活」のインタビュー冊子
「脳に何かがあったとき」2020年発行、2023年には元アンアン編集長の能勢邦子氏のご協力で全面リニューアル
失語症に対する3つの誤解
一方で、復学や復職をしても、周囲の無理解のために仕事や学校を続けられなくなる人。デイサービスなどで「話せない人」として扱われ、周囲と関われないまま一人で過ごしている人。こうした状況から、社会参加をあきらめ、引きこもり状態になる人も少なくありません。これらは、失語症に対する理解が乏しいことが原因です。
失語症の人を取り巻く社会には、大きく3つの誤解があります。「回復しない」「わかっていない」「甘えている」です。
・失語症の多くは長い時間をかけて回復していく障害です。長期回復の論文も多々あります。しかし、今は、医療や介護制度の事情で、「リハビリは6か月まで」。それどころか、「これ以上は回復しませんよ」と入院中に言われて心が折れる人がたくさんいます。
・失語症者はスムーズに発話ができません。でも、「わかっていない」わけではありません。みなさん「頭の中にはちゃんと残っている」とおっしゃいます。
・失語症者でも日常会話ができる人はたくさんいます。人に説明することができる人もたくさんいます。でも、その陰には多大な努力と工夫があります。「治っているのに甘えている」ではありません。
「4月25日は失語症の日」これまでの歩み
こうした現実を見て、私達はまず 「失語症という障害を知ってもらうこと」 が必要だと思い、2020年にはクラウドファンディングで資金を募り、4月25日を 「失語症の日」 として広げる活動をスタートしました。

画像は2020年に実施したクラウドファンディング。沢山の方に応援して頂きました!
2021年には、失語症者と家族の声を集めた本を出版。「言葉を超えて」というタイトルは、ネットで募集、アンケートで決めました。
2020年の初回からコロナ禍によりオンラインのみの開催を余儀なくされましたが、2024年からはリアル会場をつなぐハイブリット開催が可能となり、全国6会場をつないで交流を図りました。
2025年には17会場で開催、また共催会社であるユースタイルラボラトリー株式会社と一緒に、厚労省で記者会見も開催しました。2025年の様子はこちらをご覧ください⇒失語症の日記念イベント開催
(左から)失語症協議会理事長:園田尚美氏 ユースタイルラボラトリー株式会社:梅田智起氏 NPO法人りじょぶ大阪理事:石渡達也氏 日本言語聴覚士協会会長:内山量史氏 NPO法人りじょぶ大阪理事長:多田紀子
参加者の声(抜粋)
・回復期リハ病院勤務のSTです。入院中の患者さんにも見てもらい、感想を話しあいました
・様々な年代の当事者の方のお話が聞けること、言語聴覚士や意思疎通支援の取り組みについて知ることができて、とても勉強になりました。
・看護学生として、「失語症」「高次脳機能障害」などという言葉については知っていましたが、実際に当事者の方のお話を聞く機会がなく、当事者の方が感じられている気持ちや苦労を知ることができました。
・失語症と向き合いながら目標や希望を持って生活されている姿を見て、勇気をもらえました。うことができました。
・どの方も失語症と真剣に向き合っておられて、家族の立場として今後の励みになりました。
・当事者の方が大勢参加されて、話を聞かせていただけたのはとても勉強になりました。
・主人の笑顔を久しぶりに見て、涙が出そうになりました。
2025年失語症の日イベントのようす
このプロジェクトで実現したいこと
今年で7年目になるこのプロジェクト、2026年には、次の3つのことを実現したいと考えています。
① 失語症の「長期回復」を知ってもらうこと
「失語症は半年しか回復しない」と言われることがあります。しかし、数年かけて回復し、社会参加を広げていく人がたくさんいます。その姿を届け、当事者や家族に 希望を持ってもらいたいと考えています。
② 失語症を取り巻く誤解を解くこと
失語症の人は、「わかっていない」「甘えている」と誤解されることがあります。しかし、理解していても言葉が出ないだけ。話せていても、見えない努力と工夫があります。こうした誤解を解き、周囲の人や社会の理解を広げたいと思っています。
③ 当事者の声を社会に届けること
今年は 高次脳機能障害支援法が施行される年でもあります。「失語症の日」では、当事者や家族の「困り事と工夫」「あったらいいな」の声を集め、社会や行政に届けたいと考えています。
2022年、参加された方の声をテキストマイニングにしました。
今年はもっと多くの方からの声をあつめ、分かりやすくグラフィックにまとめます。
失語症の方は、ことばで自身の困り事や状況を発信しにくいために、その姿はまだ社会にほとんど知られていません。だからこそ私たちは、チームで当事者の声を社会に届けたいのです。このプロジェクトを通じて、「病気や障害があっても、もう一度活躍できる」社会の実現を目指したいと思います。
現在の準備状況
失語症の日開催に向けて、全国18か所の会場を決定!メイン会場は東京サイボウズ本社にあるイベント会場をお借りできました。当日のプログラムはこちら。
1部:6名の失語症者が「一歩踏み出したきっかけ」について、NPO法人りじょぶ大阪の多田がインタビューした動画を流します。現在、動画撮影中です!
2部:脳卒中フェスティバル代表の小林純也さんのファシリテートで、全国の会場をつないで交流+「こんなことがあるといいな」の声を集めます。最後に、自らも失語症となり「音読」によって言語の回復を遂げたフリーアナウンサーの沼尾ひろ子さんが作詞した「おんどくドクドク」を楽しく歌って踊ります。
3部:各会場で交流会。各会場の主催者が企画をしていますので、お楽しみに。
©テイチクエンタテインメント
失語症の日応援キャンペーンソング「おんどくドクドク」
楽しいミュージックビデオ+ダンスバージョンもYouTubeにアップされています!
資金の使い道
今回のクラウドファンディングで集まった資金は、全国で開催する「失語症の日」イベントの運営と、失語症のリアルを社会に届ける発信活動に使用させていただきます。
① 全国18会場の開催費(会場費+機材費+人件費) 50万円
今年の「失語症の日」は、全国18会場+オンラインで開催予定です。各会場では、・当事者の体験談・地域の交流会・オンライン中継を行います。そのための会場費・機材費・運営スタッフ費に使用します。
② 広報費(チラシ・SNSなど)30万円
失語症は、まだ多くの人に知られていない障害です。イベントを必要としている人に届けるため、チラシ印刷・発送費・SNS広告・広報制作に使用します。
③ 当事者インタビュー動画制作 10万円
私たちはこれまで120名以上の失語症・高次脳機能障害の当事者にインタビューを行ってきました。
その中から6名の方に「一歩踏み出したきっけ」を語って頂き、その動画を使って「失語症者のリアル」を発信します。
合計 80万円
リターンについて
1,000円 お礼のメッセージ
3,000円 お礼のメッセージ+開催レポート
10,000円 インタビュー冊子(紙媒体)1年間購読
10,000円 インタビュー冊子(WEB購読)会員期限は本事業が存続する限り
10,000円・30,000円・50,000円 失語症の日サイトロゴ掲載+イベントでCM動画
30,000円・50,000円 言語聴覚士不在の施設様向け研修
スケジュール
3月 各会場の決定・主催者ミーティング
3月下旬 失語症についてのアンケート調査開始
3月 24日 オンライン記者会見
4月14日~24日 失語症に関するオンラインセミナー開始
4月25日 失語症の日記念イベント
4月30日 クラウドファンディング終了
最後に
失語症は、誰でもなり得る障害です。言葉が不自由になっただけで、本当は「できる」のに「できない人」として扱われてしまう。それは本人や家族だけでなく、社会にとっても大きな損失です。誤解がなくなれば、失語症の人の可能性はもっと社会に広がります。その第一歩として「失語症の日」を広げていきたいと思っています。どうか応援をよろしくお願いいたします。






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