こんにちは、NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)、事務局長の楊井人文です。
ファクトチェックとは、社会に広がっている情報・ニュースや言説が、事実に基づいているかどうかを調べて、正確な情報を人々と共有する、とてもシンプルな営みです。FIJは、このファクトチェックの考え方と実践を日本でも広げていこうと、ジャーナリストや専門家、テクノロジー企業に呼びかけて、昨年夏に発足しました。
FIJは、来たる沖縄県知事選挙(2018年9月13日告示、30日投開票)に関連した情報のファクトチェック(真偽検証)を推進するため、【FactCheck 2018沖縄知事選】プロジェクトを実施します。
(追記)9月13日(告示日)に正式な特集サイトをオープンしました。
▼なぜ、沖縄県知事選でファクトチェックを行うのか
沖縄の基地問題などをめぐる対立が続く中、これまでにも事実に基づかない報道や批判などが飛び交うことがあったからです(一例)。今回の知事選は、基地問題で政府に方針転換を求めてきた翁長雄志知事の死去に伴って行われます。同時期に、長年危険性が指摘されてきた普天間飛行場がある宜野湾市でも市長選挙があります。選挙の期間は、事実に基づかない情報や批判が飛び交う可能性は十分あります。
FIJは、昨年秋の衆議院議員総選挙で、BuzzFeed JapanやGoHooなど4つのウェブメディアが参加する形で、日本で初めてとなるファクトチェック・プロジェクトを行いました。その結果、選挙に関連したニュースやネット上の情報、政党の公約や政治家の発言に、多くの事実誤認やミスリードな表現が見つかったのです(約20本の検証記事を発表)。
選挙になると人々も熱くなりがち。事実に基づかない情報が流布することで、公正な選挙でなくなるおそれがあります。このようなときこそ、冷静に事実を見極めるファクトチェックが必要なのです。
(FIJが昨年10月に実施した総選挙ファクトチェックプロジェクトの成果の一部。多くのメディアが注目した)
▼市民参加を促すプロジェクトにしたい
今回は、より多くのメディアの参加を呼びかけるとともに、メディアに属しない市民もファクトチェックに参加しやすい仕組みを作ります。情報をよりオープンに、プロセスをより透明にしたプロジェクトにします。
私たちが取り組もうとするファクトチェックとは、沖縄の選挙や基地問題について特定のスタンスを擁護したり批判したりするためのものではありません。どの意見が優れているかではなく、事実に関する検証に徹するものです。この原則を共有すれば、考えが異なっていても誰でも参加できます。
ポイントは、次の3点です。
(1)ファクトチェック記事を公募し、調査や記事作成をサポートします
沖縄県知事選の争点や候補者に関するニュースやネット上の情報、政治家や著名人などの言説を対象としたファクトチェックを、メディアやジャーナリスト、一般市民に広く呼びかけます。
FIJは、「公正」「透明性」といったファクトチェックの国際標準的な原則を踏まえ、ガイドラインを作っています。ガイドラインを満たした記事はFIJのサイトで紹介し、Yahoo! ニュースなどに配信できるウェブメディアに掲載してもらいます。報奨金を出し(1件あたり上限1万円)、取材・調査の必要経費も支援します(対象は個人応募のみ)。
ガイドラインを満たしていない不十分な原稿であっても、記事を完成させる意義があると判断したものについては、取材・調査や記事作成の助言や支援を行います。
(2)ファクトチェックしてほしい情報や、検証に有益な情報を集め、公開します
真偽が定かでない、事実と異なる疑いがある、そういった情報の提供を人々に呼びかけます。
こうして集められた情報は、ファクトチェックと無関係なものを除き、公開します。提供された情報が実際にファクトチェック記事化に活用されたときは、情報提供者に謝金をお支払いします(1件3000円)。
(総選挙ファクトチェックに参加した大学生らFIJのサポートチーム)
(3)サポートメンバーを一般から募集します
調査やファクトチェック記事の推敲、プロジェクトの広報活動の支援などを手伝ってくださる方を広く募集します。
大学やテクノロジー企業の協力を得て、真偽に疑いのある情報を自動的に検出するシステムの運用も始めます。ここから得られた情報を共有して、 取材や調査に取り組んでいただく方も募集します。
▼FIJのメンバーだけでなくメディアにも参加を呼びかけます
FIJのメンバーも、協力してくれるメディアとともにファクトチェックに取り組みます。私、楊井が大手メディアの報道の正確性を検証してきたGoHoo(ゴフー)。元NHK記者の立岩陽一郎・FIJ副理事長が率いる調査報道メディア・ニュースのタネ。一般市民から寄稿されたファクトチェック記事も、これらメディアの編集長の判断で掲載します。
昨年の総選挙プロジェクトにも参加したBuzzFeed Japanや元フジテレビ解説委員の安倍宏行さんが運営するJapan In-depthも協力に名乗りをあげています。日本記者クラブで記者会見するなどして、さらに多くのメディアやジャーナリストに参加を呼びかけていきます。
(FIJ総選挙ファクトチェック報告会セミナーで、参加したメディアの担当者どうしで検証事例について議論を交わした=2017年11月3日、東京都内で)
▼資金の使いみちと支援のお願い
このプロジェクトは報告会セミナー(10月27日)をもって終了する予定です。
情報の真偽を見きわめるには、地道な調査が必要です。ファクトチェックに貢献してくれた市民に少しでも報いつつ、誤った情報の拡散を防ぐために、このプロジェクトを企画しました。その費用として約150万円を見込んでおり、具体的には次のような用途になります。
・プロジェクトのためのウェブサイト作成・運営費:30万円
・重要情報提供者への謝金:12万円(総額)
・ファクトチェック記事投稿者への報奨金:30万円(総額)
・ファクトチェック記事投稿者への経費支援金:30万円(総額)
・サポートメンバーへの謝金:15万円(総額)
・プロジェクトの広報費:10万円
・プロジェクトの報告会セミナー(10月下旬予定)の経費:8万5000円
・プロジェクト報告書の制作費:5万円
・オフィス代などプロジェクト運営事務経費:10万円(以上、合計150万5000円)
FIJには現在このプロジェクトの経費を賄えるだけの資金がないため、皆さんのご支援を仰ぐことになりました。
どうぞご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
(昨年のファクトチェック国際大会にて=スペイン・マドリッド。左から、立岩陽一郎副理事長、楊井人文事務局長、ジョン・ミドルトン理事)
本プロジェクトの責任者は、以下の3名となります。(このプロジェクトはクラウドファンディングの目標額に達成するかどうかにかかわらず、実施が確定しているものです。)
・瀬川 至朗(FIJ理事長、早稲田大学政治経済学術院教授)
・立岩 陽一郎(FIJ副理事長、「ニュースのタネ」編集長)
・楊井 人文(FIJ事務局長、日本報道検証機構代表、弁護士)
▼第2目標は300万円 到達すればファクトチェックを継続します
今回のプロジェクトは期間限定ですが、できれば継続的にファクトチェックを行いたいと考えています。近い将来、名護市辺野古への基地移転の賛否を問う県民投票が行われる可能性もあります。日本の重大なテーマの一つである沖縄に関するファクトチェックは今後も続けていく必要性が高いでしょう。
このクラウドファンディングで300万円に達したときは、FIJのウェブサイトを全面的に改修し、沖縄の基地・経済などをテーマにしたファクトチェック・プロジェクトを継続したいと思います。
何卒ご支援を賜りますようお願い申し上げます(FIJ会員登録や寄付をしていただける方はこちらからお願いします。FIJのプライバシーポリシーはこちらをご覧ください)。
最新の活動報告
もっと見るプロジェクト報告書が完成しました
2018/12/28 18:03FactCheck沖縄県知事選2018プロジェクトの報告書(12ページ)が完成しました。支援者やFIJの会員にお届けします。このたびは、本プロジェクトにご注目、ご支援いただいた皆様に改めて感謝申し上げます。FIJの活動報告書も公開しましたので、よろしければご覧ください。http://fij.info/activities来年もFIJをよろしくお願いいたします。良いお年を!FIJ事務局・役員一同 もっと見る
Yahoo!ニュース個人 月間MVA賞をいただきました
2018/11/17 11:18本プロジェクト責任者のFIJ事務局長、楊井人文がYahoo!ニュース個人に寄稿した「沖縄知事選 ファクトチェックして分かったこと」(上下2部作、2018年10月12日発表)が同編集部により月間MVA(Most Valuable Article)賞に選出されたことが、11月17日発表されました。選出理由と筆者のコメントは以下の通りです。まだご覧になっていない方は、ぜひご一読いただければ幸いです。選出理由:沖縄県知事選挙に際し、筆者が事務局長をつとめる団体で行ったファクトチェックに基づき、報道内容だけではなく公人や著名人・討論会での候補の発言まで具体的な検証内容をわかりやすく紹介。またファクトチェックについて『究極的には「事実を尊重する社会」を目指し、民主主義の基盤を強化すること』とその役割・意義も伝えました。氾濫する情報にどう向き合うべきか、深く考えさせられます。筆者による受賞コメント:月間MVA賞に選んでいただき、ありがとうございます。FIJが発足して1年余り、ようやく「ファクトチェック」という言葉が人口に膾炙するようになってきたと感じています。とはいえ、ファクトチェックはまだ始まったばかりで、発展途上です。ファクトチェックが特定の立場を攻撃するために行われているとの批判もあるようですが、FIJのサイトで紹介しているファクトチェック一覧を見ていただければ、そうではないことがわかるはずです。もちろん、人々の分断を助長する誤情報/偽情報を検出することを目的としたファクトチェックが、その営み自身によって新たな分断を生み助長することのないようにするにはどうすればよいか、という難題と向き合う必要があることは承知しています。それを克服するための一つの方法は、右も左も関係なく、多種多様な主体がファクトチェックの実践に参画することではないかと思っています。意見や立場の相違を超えて「ファクトチェック文化」を広めるためにどうすればよいか、今後も模索しながら実践を積み重ねていきたいと思います。(楊井人文) もっと見る
報告会セミナーは盛況に行われました
2018/10/30 17:5010月27日、FIJセミナー「沖縄県知事選ファクトチェックの成果と今後の展望」が開かれ、メディア関係者など約50人が参加し、活発に議論を交わしました。 以下のとおり記事が掲載されていますので、ご覧いただければと思います。 ◉ 公平性を気にして硬直化も 知事選報道、成果報告 東京でファクト検証巡り議論 生活や健康被害での事実検証望む声も(琉球新報) ◉ Twitter上での真偽不明投稿の90%が玉城デニー氏に対する攻撃だった。ファクトチェック団体FIJが警鐘を鳴らすこれからの選挙情報のありかた(選挙ドットコム) 収録した動画や配布資料はクラウドファンディングの支援者(1万円以上)やFIJ賛助会員(特別会員など)に配信する予定です。 もっと見る
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