
私はリムーバーになりたい
「リムーバー」というものをご存じでしょうか。
マネキュアのリムーバーとは違います。
医療用のストーマ装具や、粘着力の強いテープ、絆創膏などを、皮膚を傷つけないように優しく剥がすための剥離剤です。
今、転んでケガをした私の足には、水に濡れても大丈夫なように、粘着力の強いシートが貼ってあります。
でも、私は皮膚が薄いので、そのまま剥がすと痛い。
ケガをして痛いのに、シートを剥がすときにまで皮膚を傷めたら、痛みが二つになってしまいます。
そんなとき、リムーバーを使います。
少しずつなじませていくと、あれほどしっかり貼りついていたシートが、つるり、つるりと剥がれていく。
無理やり引っ張らない。
力ずくで剥がさない。
ただ、そっと間に入って、離れるのを助けてくれる。
ありがたい存在です。
リムーバーを使いながら、ふと20年ほど前のことを思い出しました。
息子が幼い頃、在宅酸素をしていました。
小さな子どもですから、鼻につけたカニューラを自分で外してしまいます。
だから、外れないように頬にテープで固定していました。
病院にはリムーバーがありました。
けれど、家にはありませんでした。
子どもの皮膚は柔らかくて薄い。
毎日のように貼って、剥がしてを繰り返すのですから、できるだけ傷つけたくありませんでした。
私は看護師さんに、
「これは、どこのものですか?」
とメーカーと商品名を教えてもらいました。
そしてメーカーに直接電話をして、どうにか手に入れました。
今なら、リムーバーは比較的簡単に手に入ります。
でも20年ほど前は、ひとつ手に入れるのにも、結構苦労したんですよ。
懐かしいなあ。
あの頃の私は、ただ必死でした。
息子が少しでも痛くないように。
小さな皮膚を、できるだけ傷つけないように。
そんなことばかり考えていました。
そして今、自分のケガにリムーバーを使いながら思います。
人にも、こんな存在があったらいいな、と。
誰かが傷ついているとき、
無理に引っ張るのではなく。
「頑張れ」と力を加えるのでもなく。
痛いところと、つらいものとの間に、そっと入り込む。
そして、できるだけ痛くないように、
つるりと離れるのを手伝う。
目立たなくていい。
大きなことができなくてもいい。
誰かの痛みを、もう一つ増やさない人。
できることなら、
私は、そんなリムーバーになりたい。



