
「なんか、フジサワ名店ビルとかで映画撮れたらいいなあって」
ほんの世間話のつもりで口にした一言が、あっという間に「いいね!」の連鎖を巻き起こし、映画『名店にて』は走り出しました。
子どもの頃から数え切れないほど通っていたフジサワ名店ビル。でも、そこでじっくりと時間を過ごしたことはありませんでした。
魚つるでお刺身を買って、有隣堂で雑誌を眺めて、たまにミスドの新作を横目でチェックして。あまりにも身近にありすぎて、何が特別なのかさえ分からなくなっていた場所。
そんな場所に、まさかこんな形で、こんなにも通うことになるとは。
4月に短編映画の撮影を始め、5月には上映会をやってみました。少しずつ、少しずつ、目に留めてくれる人が増えてきても、まだ「一応、映画撮ってまして」くらいの気分でした。
そんなぼんやりとしたイメージが、一気に極彩色に変わったのは、6月にオーディションの告知をしたときでした。
「応募が来たらいいなあ」くらいに思っていたら、あっという間に情報が拡散され、応募のメールが立て続けに届きました。
嬉しい反面、ちょっと怖くなっている自分もいました。
さらに、オーディションを受けてくださった一人ひとりからあふれ出る、名店愛、藤沢愛。「私よりもずっと名店好きじゃない?」と思う方ばかりでした。
どんな役でもやりたい、どんな形でも関わりたい、そんな言葉をいただくたびに、「あ、もう後戻りできなそう……」と実感しました。
こそっと始めたことなら、こそっとやめることもできたかもしれない。でも、もうみんな、自分の思い出や熱い気持ちを、映画という形に託し始めている。
もしかしたら、それくらい、みんな自分の気持ちをぶつけられる何かを探していたのかもしれません。「これだ!」と心に刺さってくれたのなら、それはやっぱり嬉しい。
すべての人が納得できる作品にはならないかもしれない。そもそも、すべての人を納得させることを目指す必要もない。
でも、だからこそ、全力を出して自分が思い描く作品をつくらないと。
そう腹をくくった瞬間でした。



