まちから文字が生まれる。都市フォントプロジェクト「横浜」

両見英世(りょうけんひでよ)です。私は、フォントメーカーであるタイププロジェクト株式会社のデザイナーとして、2009年から都市フォントプロジェクトのひとつである、横浜のまちをイメージしたフォント「濱明朝」の開発に取り組んでいます。

 

都市フォントは、都市が独自に持っている個性をフォントのデザインに取り入れ、様々な媒体を横断しながら一貫性を持って使うことで、都市のアイデンティティ形成への貢献を図るプロジェクトです。

 

▲ 日々、コンピュータに向かって文字を作っています。

 

横浜のエッセンスを取り入れたフォントを、まちを彩るポスター、道で困っている人を案内するサインや地図、日々の情報を届ける様々な媒体などで使って頂いて、まちと人とをつなぐ、コミュニケーションの一端を担うことができたらいいな、と思いながら取り組んでいます。

 

市販されているフォントの文字数は、一般的なもので約9,500字です。濱明朝は現在までに1,500字ができあがり、2017年6月の販売開始に向けて、これからの1年半で残りの約8,000字を制作する予定です。

 

▲ 2010年6月に公開した濱明朝の試作は「横浜開港」の4文字から作りました。

濱明朝のデザイン。往時をしのぶ、海上からのまち並みを表現

横浜をイメージしたフォントを開発するにあたり、フィールドワークを通して感じた横浜のイメージや、市民参加によるブランディング事業で出された言葉を参考に、「お洒落」「歴史とともに港がある」「伝統と新しいものの共存」といったキーワードを抽出しました。

 

 

これらのキーワードを元に、横画は港を往来するフェリーや水平線を、縦画は海上から望む建築群に見立て、縦画と横画の対比を際立たせた太い明朝体で表現をしています。開港以来、新しい風が港を通してまちに運ばれ、横浜の地と交じり合って育まれてきた風土を、現代まで続く横浜のアイデンティティのひとつと捉え、かつての船乗りが目印としたキング、クイーン、ジャックと呼ばれ親しまれてきた横浜三塔をはじめ、大さん橋、赤レンガ倉庫、ランドマークタワーなど、海上からみる「港のまち並み」をデザインに取り入れました。

 

 

▲ 今回提供開始する濱明朝 ミニセット(文字一覧PDF)に含まれる漢字は教育漢字(1,006字)に加えて横浜にゆかりのある地名や駅名、歴史的建造物の名称などの漢字(92字)を追加しました。

 

文字の形状以外のシステムや世界観にも、横浜という都市のスケールや特長といったものを取り入れています。ひとつは、太さのバリエーション展開です。試作をおこなった太い明朝体は、その形状からタイトルや見出しなどの比較的大きなサイズでの使用に限定されてしまいます。本文や注釈など、より幅広い用途での使用も想定して、一貫性を保ちながら太さのバリエーションを持たせました。

 

▲ 試作はヘッドライン Bから行い、全24種のフォントファミリーに拡張しました。

 

もうひとつは、縦画と横画の対比を際立たせたスタイル(ディスプレイ)の開発です。試作フォントから更に横画を細めました。横浜には、鉄道やアイスクリーム、ビールなど、今となっては身近ですが、実は日本で初めてといった物事がたくさんあります。それは開港以来、新しい文化を取り入れ、育んできた進取の気風によるものではないでしょうか。そのような背景に少しだけあやかるような気持ちでギリギリまで横画を細くしたスタイルに挑戦しました。

少しずつ広がっています

濱明朝の試作フォントは、馬車道商店街協同組合が公募した馬車道150周年記念ロゴタイプコンペで、天野和俊デザイン事務所が最優秀賞を受賞したデザインで使用していただきました。また、2014年の横浜のデザイナー×地元企業による新商品開発で、株式会社エクスポートとのコラボレーションによって誕生した、うちわ「浜風」が商品化され、マリンタワーや赤レンガ倉庫、東急ハンズ横浜店などで、ご覧いただける機会が増えてきています。

 

世界の都市フォント

世界のさまざまな都市でも、まちのために作られたフォントが誕生しています。まちのイメージをフォントに取り入れたものから、読みやすさなどの機能を中心に考えられたものなど、そのアプローチは様々です。

 

たとえば、イギリス南西部の港町ブリストルは、ブリストル・レジブル・シティ(わかりやすい都市ブリストル)という都市デザインプロジェクトの一環で新しいフォントを開発しました。このフォントはサインシステムや路上マップパネル、携帯歩行用マップ、ウェブサイトなど、一貫性を保ったまま使用され、まちと人とのコミュニケーションの礎となっています。

 

ローマでは、ミレニアムにキリスト教徒の参拝者をスムーズに受け入れるために、新しいサインシステムと共にフォントがつくられました。また、ソウルでは世界デザイン首都に選ばれたことをされたことをきっかけにソウルを代表する山と川を冠したオリジナルフォントが開発されています。

(参考:世界の都市フォント

これまでの活動を振り返り

タイププロジェクトは、日英バイリンガルのデザイン誌をひとつの書体ファミリーで組むためのAXIS Font(2001年)や、デジタル環境での読みやすさを追求したTP明朝(2014年)など、独自性の高いフォントを発表しています。また、2009年からは都市のアイデンティティを表現するフォントを「都市フォント」と名付け、名古屋、横浜、東京で取り組みを進めています。

 

 

都市フォント構想に着手した2008年、横浜のまちは翌年の開港150周年を控えた沢山のイベントや、その準備が進められていました。また、長きに渡る都市デザインへの取り組みやクリエイティブ・シティ構想など、まちを見つめなおす機運の高まりとデザインに対する深い理解など、これまでの横浜が行ってきたデザイン活動に可能性を感じて、2009年から横浜での都市フォントプロジェクトをスタートしました。

 

プロジェクトのスタート後、困難は幾度も(今もですが)ありました。「濱明朝」の開発にあたり、私の学生時代の恩師を頼りに、いくつかのイベントやワークショップに参加しながら、少しずつ横浜への理解を深めていきました。その後はフィールドワークなどを行いながら、濱明朝の様式を定めて試作を発表するに至りました。2011年からは縁あって中華街に事務所を開設することができ、横浜での制作活動を開始しました。そこで様々なデザイナーの方と知り合うことができ、濱明朝を使ったロゴタイプや、商品など少しずつ形になってきています。

 

 

また、イベントやウェブコラム(関内外OPEN!リレーコラム Vol.11)等で濱明朝について伝える機会をいただけたことで、少なからず、取り組みを紹介できたこともあり、4年間の横浜での活動は意義ある期間だったと感じています。現在は馬車道にあるmass x massのシェアオフィス「TENTO」に制作拠点を移して制作をすすめています。

 

 

▲ 両見英世が語る「濱明朝プロジェクト」

支援の用途(概算)と濱明朝ができるまで

開発費(一部):200万円

お返し品制作費:40万円

FAAVO利用料:60万円

合計:300万円

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2016年4月中旬:濱明朝 ミニセットの提供

2016年6月:アルファベット、記号類完成

2016年12月:漢字完成

2017年5月:デザインチェック等完了

2017年5月:プロダクション、QA

2017年6月2日:製品販売(StdN)開始

たくさんの方にご協力して頂いています

今回はお返し品の制作に関して、横浜のたくさんのみなさまにご協力いただきました。ご賛同をいただいたみなさま、ありがとうございます。

 

▲ お返し品の打ち合わせで横浜帆布鞄さんにおじゃました時の様子です。

 

横浜帆布鞄:赤レンガ倉庫から歩いて5分、海沿いの古くからある倉庫「万国橋SOKO」に工房を構え、横浜で生まれた帆布を使った鞄づくりを手掛ける横濱帆布鞄さんに濱明朝をつかった手ぬぐい、トートバッグの制作でご協力頂きます。(http://www.usmc.co.jp/

 

テクノヤマモト:横浜関内エリアに近い、戦後から賑わうディープな下町として有名な末吉町で、創業87年の老舗印刷会社テクノヤマモトさんに濱明朝をつかった名刺作成でご協力頂きます。(http://www.techno-yama.co.jp/

 

まちなか社食(Local first wagon):馬車道駅近くにある横浜のコワーキングスペースmass×massで平日毎日オープンしている地産地消の横浜野菜を使ったお弁当&こだわり焙煎コーヒー&野菜マフィンを販売しているのが「まちなか社食」。この販売ワゴンに濱明朝プロジェクトを応援する横断幕を毎日掲載、横浜帆布鞄さんとのコラボバッグのベース生地となります。(http://lift45.jp/localfirstwagon/

いつしか横浜の風景に

横浜をイメージしたフォント「濱明朝」が、いつしか横浜を彩る風景の一部となることを目指しています。横浜の歴史やストーリーと共に、様々な媒体で10年20年と使われて、このまちで暮らす人や訪れる人の記憶にそっと残るものになればいいなと思っています。

 

完成に向け、ご支援どうぞよろしくお願いいたします。

フォント使用許諾について

濱明朝ミニセット及び濱明朝 StdNのフォント使用許諾についてはこちらをご覧ください。

タイププロジェクト株式会社 エンドユーザー使用許諾契約書

起案者情報

団体名:タイププロジェクト株式会社(WebFacebookTwitter

代表 :鈴木功

担当者:両見英世(FacebookTwitter

  • 2017/07/25 22:29

    2017年7月24日に製品版濱明朝の販売を開始するとともに、クラウドファンディングにてご支援いただいた皆さまへお返し品のご連絡をさせていただきました。 クラウドファンディング実施中に6月中のご提供をお約束していたにも関わらず、約1ヶ月遅れる形でのご提供となったこと、大変申し訳ありませんでした...

  • 2016/06/03 10:26

    こんにちは。両見です。 濱明朝×横浜帆布鞄 オリジナルトートバッグでご支援を頂いた皆様にご希望のトートバッグを発送いたしました。 今回のFAAVO横浜での取り組みにあたり、3種のバナーを作成し、募集期間中mass×massに設置されているワゴンに掲示させていただいたり、mass×massの...

  • 2016/05/13 19:14

    こんばんは。両見です。 横浜帆布鞄さんにお願いしてたトートバッグが完成いたしました。大型連休に裁断をするというご連絡を頂いていたのですが、あっという間に縫製まで仕上げてくださいました。完成の仕上がりがとってもきれいで、職人技の妙をここに見た思いです。お忙しいところ本当にありがとうございました...