FAAVO横手をご覧の皆さん、こんにちは。  横手市大沢地区でブドウ栽培をしている鈴木靖之と申します。代々続く果樹農家の長男として生まれ、小さなころから畑=遊び場という環境で育ちました。やがて中学、高校と多感な時期を迎えると、農業に対するネガティブなイメージばかりが先行し長男だから継がなければいけないという雰囲気に反発し仙台へ進学し逃げ出したこともありました。

「ブドウ園を継ぐ決意をした日」

 社会人として安定した生活を手にしたころから少しずつ世の中の事、農業の事が見え始めると気になる事がありました。「担い手不足から廃園となる農地」初めて自分事として捉えたことでした。ですが「親が農家であっても、自分に出来るものなのか?」「今の安定した生活を手放してやっていけるのか?」どれだけ月日が流れてもこの悩みが解決する事なく、たまに帰省した時に見る父母の姿にその迷いは深くなり、継ぐ決心も継がない決心も付けられずにいました。  その迷いを拭うため、生まれて初めて父を喫茶店に呼び出し話をするうちに、自然と「継ぐ」意思を固め、伝えていました。後にも先にもこれっきり。それ以後二人で喫茶店に入る事は未だありません。 ▲収穫数日前。最終仕上げに気が抜けません!▲ ▲地元広報誌に載せてもらった時のものです▲

「行きつけの農家と常連さんの関係を築きたい」

 日々農作業に取り組む中、現状の課題と将来の方向性を模索する中、いくつかの夢が出来上がりました。「つらく、厳しく、稼げない」農業を少しでも「楽しく、夢を持って所得に繋がる」農業にするために日々、想いを巡らせています。  その中の一つに私、生産者とお客様である消費者の皆さんとより密に繋がる事で、(生産技術の向上と?)責任を持ち、おいしいブドウをお届けし、お客様にはまた食べたいなと思っていただけるように、今までの生産者と消費者の関係から「行きつけの農家と常連さん」の関係を築くことを使命としております。 ▲主催する「農楽交」の一コマ  生産者と消費者が交流する場を毎月開催▲

「大事に育てた娘には花嫁衣装を着せてあげたい。」

 私はブドウを我が子のように感じています。家族よりも多くの時間を共にし、世話をし続ける間にはとても多くの手間がかかります。花が咲きブドウが実を結ぶまでに自然に任せていてはブドウの房は取れません。いい花を咲かせるために樹を管理し、咲いた花を確実に受粉させ、ブドウの粒が綺麗に配置されるよう出来上がりをイメージし、不要な粒を取り除き、形を整え、病害虫から守るために袋を一房毎に掛ける。ブドウ一房に掛ける簡単な手間です。これを何千、何万房と手作業で行わなければなりません。もちろん、そこには人間の都合は関係なく、ブドウの生育に人間が合わせていかなくてはならず、物言わぬブドウ達を前に注意深く観察し、天候にも気を配りながら気の休まる時はありません。 ▲ブドウの満開の様子花びらが無くちょっと拍子抜け▲ ▲一粒一粒間引いて形だけでなく甘さも行き渡るように娘の顔を作る時▲ ▲狙い通りに綺麗にそろった時は嬉しくて売りたくないです!▲

「葡萄屋 久兵衛に賭けるおもい」

 そのようにして収穫を迎えたブドウを送り出す時は、どこか娘を嫁に送り出す感覚に近いのかなと感じています。そんなブドウたちを送り出す際に着せている衣装(荷姿)がどこにでもあるありきたりな箱。それではブドウに対して失礼ではないかと、嫁入りならば花嫁衣装を着せて送り出すべきではないか。それも一目でどこのブドウかわかる衣装を。  今まではブドウそのものの出来に注力してきましたが、これからはブドウに込めた思いを一つの形としてデザインし送り出したいと思います。 ▲いよいよ嫁入り(出荷)の時  この時の衣装をプレタポルテではなくオーダーメイドで▲  そこでまず決めたことがあります。今まで父の代までは「鈴木果樹園」として営んでおりましたが、これを機に「葡萄屋 久兵衛」として新たにスタートしていこうと思います。久兵衛とは、代々受け継がれてきた「屋号」でございます。この地域に根付いた「久兵衛」という名前で、長く続く農家のせがれとしての誇りと自覚を持ち、新しいことばかりを追うのではなく、先人たちの思いや知恵も継承していきながら前に進んでいきたいと思ったからです。 ▲友人に作ってもらった「久兵衛」のロゴ▲  また、この「葡萄屋 久兵衛」にはもう一つ拘らければならない理由が一つあります。2011年3月、まだ記憶に新しい東日本大震災の時でした。当時仙台で暮らしていた私は被災し、避難所暮らしを余儀なくされ瓦礫の除去や行方不明の仲間の所在を探していたりと、その日どうするか必死でした。一度は家業を継ぐことを諦め、仙台の復興の為に仕事をしようとさえ思いました。しかし、仲間はそれに強く反対しました。「長く思い悩んで、新たな道へと決心したことを簡単には変えてはならない。仙台は必ず復興する。その時にお前の作ったブドウを食わせてくれ。」と今思うと叱咤激励だったんだと思います。その際、共に未来を描き生まれたのが「葡萄屋 久兵衛」の名前でした。自分の思い、仲間の思いに報いるためにも「葡萄屋 久兵衛」の名を確かなものにしなければなりません。そのための第一歩として花嫁衣装を九兵衛の冠を付けて生み出したいと思いました。

「ブドウは食べる芸術品」

「ブドウは食べる芸術品」これは私のブドウ栽培に掛ける信念です。 私の師匠である父は横手ブドウを17年という長きに渡り先導しつづけてきた人でした。  常に新たな品種、栽培方法の模索と挑戦を続け広めてきた経緯があります。そのため人一倍責任感が強く、いつも厳しい言葉を掛けられます。おそらく、私に早く独り立ちできるようにとの思いだと思われます。そんな師匠が若いころに教わったのが冒頭の言葉だそうです。「ブドウは食べる芸術品。」「おいしいのは当たり前。姿形を整えて見る人を驚かせる。」その言葉の意味が少しずつ理解できるようになりました。 ▲食べる芸術 食べる宝石を目指して▲  ブドウは嗜好品だと思います。食べなくても生活は出来ますし、ほかの農産物よりも高単価でもあります。だからこそお買い上げ下さるお客様には箱を開けた時の香、見たときの驚き、触れた時の質感、食べた時の音と食感、五感に訴えかける芸術品を作りたいのです。その域に行くにはこれから長く月日がかかる事でしょう。ですが、私も今年で37歳となります。もう、若手とは呼ばれない時期に差し掛かっていますし、おそらく私の人生においてあと50回くらいしかブドウを作る事は出来ません。時間はあるようで、短いです。

「ブドウの花嫁の晴れ姿を支援者の皆様にお見せしたい。」

 食べる芸術品ならば、荷姿までこだわりたいと以前から考えていたところにFAAVOに出会いました。  はじめは一農家の化粧箱を作るのに皆様のお力を借りるのは…と、違和感も正直感じましたが、FAAVOの意義を理解していくうちに、気持ちが変わりました。多くの皆様に知っていただき、達成した際には出来上がった箱と共にブドウを皆様にお返しいたします。実際に手に取っていただく事で皆様に「花嫁」をお披露目することが出来ます。そしてプロジェクトを通して久兵衛の葡萄を「知ってもらう」こと。クラウドファンディングが、私と皆様の新たな繋がりのキッカケとなれば考えました。産地直送から生産者直結へ。新しい農業のかたちを創るために、このプロジェクトに挑戦します。 【久兵衛の化粧箱について】 これまで贈答用の箱は既成品ばかりで、デザインも皆同じものでしたが、独自の箱を作ることで差別化を図ります。箱のサイズは従来の箱(2kg用)から小型化(1.5kg用)します。小型化したことで、輸送時の身崩れを防ぎ傷みも防げます。また販売重量を抑えることで、価格を求めやすいものにします。 箱の素材・形状等は地元で活躍するデザイナーと共に選定中です。箱の製作業者の石井は小学校からの同級生で、水泳部では自分がリレーの第1泳者、石井はアンカーでした。石井も地元で家業を引き継ぐため奮闘しています。今回のプロジェクトでは全面的に大きな協力をしてくれました。 【支援金の用途・内訳】 クラウドファンディング手数料 デザイン費 化粧箱試作品製作費 お返しの品の一部 【今後のスケジュール】 化粧箱の仕様の決定     :6月上旬 葡萄の花の開花、結実管理  :6月 葡萄の房作り、葡萄への袋掛け:7月 化粧箱の製作開始      :7月 葡萄房作りの見直し、仕上げ :8月 樹体管理          :6〜8月 ぶどうの収穫、お返し発送  :9月上旬から

「雪と樹と共にこの地で生きる」

 ここ、横手市大沢地区はブドウの産地として知られています・・・・県内では。一歩県外へ出ると「秋田でもブドウを作ってるの?」とよく言われ、全国的には無名に近い産地である事も事実です。横手市は全国有数の豪雪地帯でもあります。年間積雪量は2メートルを超し、ブドウ棚の上にも1メートルほど積もる事もあります。そのすべてを除雪しなければブドウ棚・樹はその重みで倒壊してしまします。除雪作業は機械を持ち込むことが出来ず、すべてを手作業で行わなくてはなりません。人と雪との体力勝負になります。 ▲4年連続の豪雪  降り積もる雪に根気強く除雪  雪国で果樹栽培を行うために必要なもの。知識でも技術でもなく覚悟▲  近年横手市は4年連続の豪雪にみまわれ、産地の中の多くの棚や樹が被害にあいました。当園も4年前に防ぐことが出来ず、多くのブドウの樹や当時栽培していたリンゴの樹も壊滅的被害を受けました。リンゴの多くは樹齢30年前後の樹が多く、まさに私の生きる糧を生み出してくれていた樹でもあり、遊び相手でもありました。そのりんごの樹を見つめる父の悲しみは想像に堪えません。そんな時、秋田市のcasane tsumugu 代表/プロジェクトディレクター田宮 慎さんに新しい息吹を吹き込んでいただいたものが「chigiri特別版 りんごのブローチ」となります。 悲しみの中にいた私や家族にとって、chigiriはとてもあたたかな喜びでした。 ▲倒壊したリンゴの樹に新たな息吹が吹き込まれました▲  豪雪被害はとても悲しい出来事でしたが、それを契機にリンゴ畑を改植し私自身が責任をもって管理する畑として甦らせ、今年念願の初収穫を迎えます。東日本大震災・4年連続の豪雪被害と自然の厳しさを肌で感じた事を忘れずに、変化していく気象状況にも対応するべく過去の反省を活かし力強く芽吹くブドウのように私も強い生産者になりたいと思います。 ▲倒れても何をしても、僕はブドウと共にこの地に根を張ります▲  このプロジェクトを通じ、ただ箱を作るだけで終わらせることなく、プロジェクトを始めるに至った思いと、支援して下さる皆様の思いを真摯に受け止め、今までは「食べる芸術品」を目指していましたが、今後は 「花嫁衣装」を支援して下さった皆様の思いも込めて日々精進していこうと思います。そのうえで私の目指すこれからの農業のかたち。「行きつけの農家」への第一歩として新たに踏み出していこうと思います。

起案者情報

【団体名】鈴木果樹園 【代表者】鈴木 靖之 【Facebook】https://www.facebook.com/yasboow
  • 2015/07/30 21:21

    皆様の熱いご支援のおかげで、先ほど目標を達成することが出来ました。誠にありがとうございました。 まだ一日残っておりますのでお礼はまた後日改めてさせて頂きます。

  • 2015/07/30 11:53

    研修明けの少し思い体で朝の畑へ、いつもと同じ畑なのに凛と佇む枝先を少し残る高揚感を感じながら眺めておりました。 さっそく昨日感じたことを忘れないうちに頭と体に叩き込みます。

  • 2015/07/29 16:05

    2日目の視察も最後の訪問先となりました。 小高い山の傾斜地に広がる一面のぶどう畑の一角に、とても気さくなおじさんが待っていてくれました。 この長野県も2年前に豪雪被害を受け、復旧道中場との事でした。 ここで聞く話も基本は大事にし、少しずつ修整をかけ一年一年が勉強だと仰っておりました。その...