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はじめに・ご挨拶

私たち「雑誌『対抗言論』刊行委員会」は、文芸・社会批評を扱う雑誌『対抗言論 反ヘイトのための交差路』を2019年末にスタートし、現時点で第3号まで刊行してきました。

中心メンバーは、編集委員である批評家の杉田俊介、日本文学研究者の櫻井信栄の二人で、法政大学出版局の編集者が刊行の手伝いをしてきました。
第3号では、創刊号から執筆者として参加してくれていた川口好美氏が、新たに編集委員に加わっています。

同誌の創刊の際には、ここ CAMPFIRE 上で、雑誌刊行のためのクラウドファンディングをおこない、多くの支援をいただいた経緯があります。
https://camp-fire.jp/projects/view/206457
では、今回のファンディングの主役である室井光広氏と私たちの雑誌のあいだに、どんな関係があるのでしょうか? そして、『エセ物語』とはいったいどんな作品なのでしょうか?

じつはすでに、『対抗言論』第3号(本年1月刊)のなかに、『エセ物語』の未発表部分から1つの章だけを抜粋し、実験的に掲載・紹介しています。
『エセ物語』という小説がどんなものであるのかは、そこに付された川口氏による「解説」をお読みいただければ、概要をよく理解することができます。

川口氏はかつて、室井光広氏の大学での教え子であり、生前から師弟の交わりを続けていました。
室井氏が2019年に亡くなられたのちには、夫人から蔵書の一部を引き取り、静岡県川根本町にある本拠地「本とおもちゃ てんでんこ」の図書館に展示することで、お店に立ち寄った人が誰でも手に取って読めるかたちにしています。
https://tendenco6.webnode.jp/



プロジェクトをやろうと思った理由

作家・室井光広という人は、1994年に「おどるでく」で芥川賞を受賞し、一躍脚光を浴びます。
それまでは、新進の批評家として一部に知られる存在でしたが、小説家としても著名になり、同年には立て続けに『猫又拾遺』『そして考』などの作品集を発表しています。

やがて、東工大や立教大、慶応大や早稲田大などで講義を担当するようになり、2006年からは神奈川の大磯に移って、東海大学の文芸創作学科で教えるようになります。ゼロ年代には、いわゆる「世界文学」をめぐる評論と探究の書をいくつも刊行しました。

その間、文学に夢をもつ有為な若者たちを、教え子として少なからず育てることになりました。

ただし、すでに芥川賞の選考評にもみられたとおり、室井氏は決して、万人受けするような「売れる小説」を書いた作家ではありません。
むしろ反対に、静かに時代にプロテストする仕方で、自分の書くべきことを徹底的に追求するタイプの作家だったに違いありません。

2011年の東日本大震災を決定的な転機として、商業的な執筆活動からは身を退きますが、それ以降は、仲間たちとの「不可能性のギルド」をめざす雑誌『てんでんこ』を創刊し、2019年の第12号までを発行します。
最後の作品『エセ物語』は、第12回までは『三田文学』に連載されていましたが(2008〜2011年)、大震災後の第13回以降は掲載誌を『てんでんこ』に移し、第24回目までは『てんでんこ』誌上で活字になりました(章としては第31章まで掲載)。

ただし、『てんでんこ』は全国の書店に流通する媒体ではなく、ごく限られた部数の、同人誌的な発行形態でした。
公共図書館などで、気軽に読めるものでもありません。

したがって、以前から室井氏に関心のあったごく一部の読者にしか、畢生の大作『エセ物語』はまだ読まれておらず、知られてすらいない、といえるでしょう。

今回、1冊の本として刊行するのは、実際に執筆された、第36章までの『エセ物語』の、全体です。
この小説は、東洋思想の易学の伝統に基づき、全体の各章タイトルには十干十二支の干支がふられ、全60章(全5部)という大長編の構成で書かれる予定でした。そのうち実際に書かれたのは、「三の巻」までにとどまったのです。
ただし、第36章までであっても、四六判2段組の本で、700ページ超のボリュームとなっています。


私たちはぜひ、この規格外の作品を、後世に遺さなければならないと考えました。


このプロジェクトで実現したいこと

2019年の室井氏の逝去後、『エセ物語』を本にする計画は、いくつかの出版社とのあいだで何度か相談が試みられたようですが、実現に至りませんでした。

なんといっても、大著なので製作面でコストがかかり、価格も割高になってしまうだけでなく、これまでの室井作品と同様、あるいはそれ以上に難解な作風が際立っているため、多くの部数を販売して採算がとれるようにするという商業的モデルの見通しが立たないからでしょう。

これだけ世の中にあらゆるコンテンツがあふれている現在、読んでいてかくも骨の折れる作品に、はたして読者がいるのだろうか……と、敬して遠ざけられても仕方がないのかもしれません。

けれども当然ですが、「売れる」か「売れない」かで、その作品の文学的価値を決めてよいはずがありません。文学の価値は、作品の自律的な探求の深度と強度で測られるべき、だからです。

なぜ人間には言葉が、そして文学という営みが必要なのか──現実と虚構を往還しつつ日本列島語の根源に迫る『エセ物語』は、他のどんな作品よりも自律的に、徹底的に、そう問うています。

だからというべきか、『エセ物語』の全36章、「一の巻」「二の巻」「三の巻」の語り手たち(巻ごとに交替します)、そして登場人物たちはみな、どうみても、フツーの人たちではありません。

あまりに安直すぎる言い方ですが、話者たちはいずれも著者=室井氏の分身でもあり、巻頭から巻末まで一貫して、日本語とコリア語と中国語(と西洋諸語)のあわいで、または前近代と近代のはざまで、狂気じみた言葉の探究に戯れ、勤しんでいるかのようです。

性の多様さへの洞察や、東アジアの隣人との関係史=歴史をも巻き込みながら、言葉を革命的な未来へ向けて開放しつづける物語り。

そして、著者の偏愛するジョイスやセルバンテス、モンテーニュやキルケゴール、柳田國男やベンヤミンやマラルメ……などに由来する蘊蓄が、氏の故郷である福島・南会津や東北地方の方言の磁場のうちに、無際限にエコーします。

晦渋でありながら爽やかにユーモラスで、ダジャレに終始しながら言葉の謎の奥底に肉薄していく『エセ物語』は、一生涯、日本語で文学を書くこと・読むことの意味を探究しつづけた室井氏からの、日本文学の将来への最大遺物のごとき仕事、といっていいでしょう。

本の宣伝文をつくるとすれば、こんな感じでしょうか──

〈てんでんこな言葉遊び、饒舌きわまる文字もじり、けれど真剣この上なく、無限の繰り言が日本語の原郷を、東アジアの無意識をあぶり出す。ジョイスと柳田、モンテーニュと易経が哀野のユートピアに出会い、死者の言葉を結んでは開き、継いでは重ね、天地のコトワリを廻らせる。日本語の幽霊的宿命がエコーする室井文学の未完の遺作、易占トリックで最高に文学的な寓話、空前絶後なエセーの物語。〉

こうした『エセ物語』の潜在力は、言葉を通じた、人類の相互理解可能性への悪戦苦闘という、対抗的文学のイデアをまさしく具現するものです。

本書が〈対抗言論叢書〉の1冊として刊行されてもよいはずだと、いや、されるべきだと考えるのはそのためです。


なお、2023年6月には、中公文庫から『おどるでく 猫又伝奇集』が出版され、氏の作品が初めて文庫化されるという僥倖が訪れました(推薦=辻原登・町田康、巻末エッセイ=多和田葉子、解説=川口好美)。
https://www.chuko.co.jp/bunko/2023/06/207383.html


そこに示されている作家の紹介文を少し補足して、掲げておきます。

〈1955年1月、福島県南会津生まれ。早稲田大学政治経済学部中退、慶應義塾大学文学部哲学科卒業。88年、ボルヘス論「零の力」で群像新人文学賞受賞。94年、「おどるでく」で第111回芥川賞受賞。2012年、文芸雑誌「てんでんこ」を創刊し第12号まで刊行。19年9月、死去。著作として小説に『猫又拾遺』『そして考』『あとは野となれ』、評論に『零の力』『縄文の記憶』『キルケゴールとアンデルセン』『カフカ入門』『ドン・キホーテ讃歌』『プルースト逍遥』『柳田国男の話』『わらしべ集』『詩記列伝序説』『多和田葉子ノート』などがある。〉


これまでの活動

2022年より、編集人・川口好美氏が、大磯の室井夫人よりお預かりした未発表の原稿ファイルを、全文チェックしました。
既発表分の元原稿データについても、最終的に『三田文学』および『てんでんこ』に掲載された状態(推敲後の状態)と丹念に照合し、校訂しました。

編集スタッフもダブルチェックを加えるかたちで、2023年7月現在、ようやく全36章が736ページのゲラとなり、最終的な校正作業が続いているところです。


残る大きな問題は、財政的な困難をどう克服するか、だけになっています。


資金の使い道

「財政的な困難」というのは、736ページの少部数の本をハードカバーで刊行する場合、経費は割高になり、組版代・製版代・用紙代・印刷代・製本代だけでも100万円は必要なだけでなく、そこに編集費や交通費・倉庫管理費、そして広告費なども上乗せされる点です。

それなりに多くの読者の目にふれるよう全国に書店配本し、図書館などに蔵書していただくためには、一定の部数を印刷しなければなりませんが、印刷しすぎれば返品の山になってしまうのが実情です。

適正な部数を適正な価格で製作し、関係者への謝礼も含めた事業とするためには、クラウドファンディングで販売の保証を得て、130万円以上の目標を達成できることが理想的です。

お預かりした支援金は、CAMPFIRE社の手数料(計17%)を除いた全額を、CAMPFIRE社からの入金後2週間以内に、「雑誌『対抗言論』刊行委員会」を通じて、版元である法政大学出版局に寄付します。

支援金は全額、『エセ物語』の刊行費用(編集費・組版代・製版代・用紙代・印刷代・製本代・デザイン代・交通費・広告費等)および協力者のみなさんへの謝礼、そしてリターンの資金として使わせていただきます。
(なお、支援者様は寄付金控除を受けられるものではありません。)

◎『エセ物語』概要
736ページ予定 四六判ハードカバー 2段組 
本体価格 5,000円(税込 5500円)予定

◎発行元の出版社
一般財団法人 法政大学出版局
〒102-0073 東京都千代田区九段北3-2-3 法政大学九段校舎内
電話:03-5214-5541 https://www.h-up.com/
担当者:編集部 郷間雅俊

(これまで、雑誌『対抗言論』1号・2号・3号および、〈対抗言論叢書〉として『神と革命の文芸批評』(杉田俊介著)、『架橋としての文学』(川村湊著)の2点を刊行しています。)
https://www.h-up.com/bd/isbn978-4-588-61611-2.html
https://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-61612-9.html
https://www.h-up.com/bd/isbn978-4-588-61613-6.html
https://www.h-up.com/bd/isbn978-4-588-46018-0.html
https://www.h-up.com/bd/isbn978-4-588-46019-7.html


リターンについて

以下の4つのコースを用意しました。いずれも、送料込みでお届けします(郵便局のレターパックプラス、もしくはクロネコヤマト宅急便)。
デザインなどの詳細は未定ですが、確定しだい、本サイトに掲載の予定です。

■甲子(きのえね)コース 6,000円
◉『エセ物語』1冊
◉『エセ物語』刊行記念 狂歌クリアファイル2枚(限定非売品)

■乙丑(きのとうし)コース 8,500円
◉『エセ物語』1冊
◉『エセ物語』刊行記念 狂歌クリアファイル2枚(限定非売品)
◉『エセ物語』刊行記念ガイドブック(50頁程度予定。杉田俊介、藤田直哉、川口好美各氏の文章や付録を収録。限定非売品)

■丙寅(ひのえとら)コース 11,000円
◉『エセ物語』1冊
◉『エセ物語』刊行記念 狂歌クリアファイル2枚(限定非売品)
◉『エセ物語』刊行記念ガイドブック(50頁程度予定。杉田俊介、藤田直哉、川口好美各氏の文章や付録を収録。限定非売品)
◉『対抗言論』誌バックナンバー いずれか1号(ご希望をお知らせください)
◉刊行記念イベントにご招待(計画中。後日、東京〜神奈川地域で開催の予定)

■丁卯(ひのとう)コース 20,000円
◉『エセ物語』1冊
◉『エセ物語』刊行記念 狂歌クリアファイル2枚(限定非売品)
◉『エセ物語』刊行記念ガイドブック(50頁程度予定。杉田俊介、藤田直哉、川口好美各氏の文章や付録を収録。限定非売品)
◉『対抗言論』誌バックナンバー いずれか1号(もしくは『エセ物語』もう1冊)
◉『エセ物語』オリジナルTシャツ(M/L、限定20枚予定、非売品)
◉刊行記念イベントにご招待(計画中。後日、東京〜神奈川地域で開催の予定)


実施スケジュール

本の製作は、このクラウドファンディングの進行と同時に進めています。
金額の目標を達成できるか否かにかかわらず、リターンで本の購入を選んでいただいた方々には、9月の上旬にお届けする予定です。

 2023年7月上旬 クラウドファンディング開始
 2023年8月14日 クラウドファンディング終了
 2023年8月中旬 編集作業完了
 2023年9月上旬 『エセ物語』見本完成
 2023年9月上旬 本とリターンの発送
 2023年9月中旬 『エセ物語』書店配本開始

最後に

IT全盛の時代、文学もまた、画像や動画と同じように、AIが瞬時に自動生成しかねない時代になりつつあります。

フェイクとリアルの区別が、人間の知能をはるかに超えてゆくいま、私たちはもはや、日々洪水のように押し寄せる情報を真に受けてよいのか、疑ってかかるべきなのか悩みつづけるだけで精一杯かもしれません。

紙の本、ましてや他人が何千時間もかけて書いた〈文学〉の本をじっくり読むための時間など、とうに奪われているのかもしれません。

すべてはもう書かれ、読まれてしまったのかもしれず、ChatGPT がそのうち、人間よりも上手に〈真理〉を語り直してくれるのかもしれません。

けれども、そんな極限まで自動化した環境にあっても、私たち自身の動物的本能が減退してしまう……などと悲観するには及ばないことを、『エセ物語』は示しているかもしれません。

一文字一文字、笑うように書くことで人を楽しませ、一行一行、苦行のように読むことで、世界の奥行きを測ること。
読者を信頼しつつ、同時に欺きつづけてもよいという自由。
そのような文学の遊びを、生活の修練として身につけること。

『エセ物語』は、もとよりホンモノではなく、〈似非〉物語たらんとする危険なエセーであるという点で、2000年以上におよぶ文学の本義、人間が嘘をつくことができることの面白さと神秘を、称揚しているかのようです。

オクライリの危機から救い出されつつある、この文学的な衝撃を、ともに楽しんでくださる幸福な読者の多からんことを!


<募集方式について>
本プロジェクトはAll-in方式で実施します。目標金額に満たない場合も、計画を実行し、リターンをお届けします。

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