はじめに

「建穂神社観音堂評議委員会」の佐藤四朗と、地域文化財の修復や保護の支援をおこなっている「株式会社文化財マネージメント」の宮本晶朗です。

 

静岡県静岡市葵区には、かつて「建穂寺(たきょうじ)」という大寺院が存在していました。
その歴史は古く、奈良時代に開かれたと伝えられ、平安時代から江戸時代を通して栄えた駿河有数の大寺院でした。
しかし、明治初年の廃仏毀釈による混乱と、その後の火災によって廃寺となり、幻の寺となってしまいました。

建物は失われてしまいましたが、地域の人々によって多くの仏像が救出されました。
それらは現在、町内で管理する観音堂に安置され、大切に保護されています。


(現在の建穂寺観音堂)

今回修復を目指す「木造地蔵菩薩像」は、そのうちの1体です。


(地蔵菩薩像 右手に錫杖を持ち、左足を下して座る姿)


(地蔵菩薩像 左手には本来、宝珠を持っていた)

 

この像は、毎年8月の「地蔵盆」で祀られるなど、永年大切にされてきました。
しかし、損傷が激しく痛々しい姿になっています。


(左耳はネズミにかじられ、後頭部は木部を露出、首後ろの部材も失っている)

 

この地蔵菩薩像を修復し、後世に遺すために、皆さまのご協力をどうぞよろしくお願いいたします!

 

幻の寺、建穂寺について

建穂寺は、平安時代から江戸時代を通して栄えた真言宗の大寺院でした。
当時の資料からは、平安時代後期には京都でも注目され、駿河ではゆるぎない地位を持っていたことがわかっています。

江戸時代には、徳川幕府と深い関係にあり、480石もの寺領を与えられるなど、破格の待遇を受けていました。
家康をはじめとする徳川家歴代の位牌が安置されていたことも、それを物語ります。


(日光東照大権現=徳川家康 一般にイメージする位牌と異なり豪華なつくり)

元禄16年(1703)の『駿府巡見帳』によると、かつての建穂寺は、仁王門をくぐると参道の両側には21もの塔頭(大寺院に付属する小さな寺)が建ち並び、観音堂をはじめとした多くのお堂が建立されていたといいます。

 

そのような大寺院であった建穂寺ですが、明治初年の廃仏毀釈により混乱し、明治3年(1870)の火災によって、廃寺となってしまいました。
現在では、山の中に旧観音堂の礎石が残るのみです。


(観音堂跡に遺されている礎石 この上に建物の柱が立てられていた)

 

廃寺となってしまったため、一般のお寺と異なり、住職はおらず檀家もありません。
そのため、建物が失われた際に救出された60体あまりの仏像は、地域の人々によってこれまで大切に保管されてきました。


(千手観音立像、阿弥陀如来坐像、二十八部衆立像など多くの仏像がある)

その中には、静岡県指定文化財や静岡市指定文化財の仏像もあります。


(県指定文化財の不動明王立像と、市指定文化財の阿弥陀如来坐像)

 

昭和50年(1975)には町内会と有志の寄付によって観音堂を建立、平成元年(1989)には建穂町内会の有志を中心に「建穂寺の歴史と文化を知る会」を結成しました。
平成2年(1990)には「建穂寺展」を開催、その後も『幻の寺 建穂寺』や『建穂寺編年』の現代語訳を刊行するなど、研究と普及活動がおこなわれてきました。

 

木造地蔵菩薩像について

今回修復を予定しているのは、約400年前に制作された地蔵菩薩像です。
像の大きさ(頭頂部から左足まで)は約34cmです。

 
(地蔵菩薩像全体)

 

現在も地域の人々に大切にされ、毎年8月の地蔵盆では祭礼の中心として祀られています。

また、像の内側には墨書があり、慶長19年(1614)に仏師「足立三郎三位」によって造られたことがわかっています。


(頭部を外し、首のほうから体の内側を見たところ)

 

日本美術の歴史上では慶長年間は桃山時代に分類されますが、この年代の仏像で、制作年や仏師名がはっきりしているものはそう多くありません。

しかし、頭部と胴の接着がはずれてしまい、虫喰い穴も多く、損傷が激しい状態となっています。

 
(頭部が外れてしまうため、応急的に紙を巻いて固定している)


(後頭部は下地塗りが剥がれ、木部に虫喰い穴がある)

 

このままさらに劣化が進むと、祭礼でお祀りすることも難しくなってしまいます。
また、後の時代に施された下地塗りや金箔によって、顔の表情も制作当初とは変わってしまっています。

 

修復について

仏像などの文化財の修復には、高い技術と専門性が必要です。
そこで、文化財修復の専門家であり長年にわたり各地の仏像修復を手がける「吉備文化財修復所」(代表 牧野隆夫氏)に、修復処置をお願いします。

 具体的な修復内容は、以下の通りです。

・失われた首後ろの部材を補い、頭部と胴を接着し安定をはかる。
・頭部の虫喰い穴を埋める。
・後の時代に施された下地塗りや金箔を除去する。
・右手にもつ「錫杖」先端の欠けた部分と、左手の失われた「宝珠」をあらたに補う。
・安定性を良くするため、台座を一段加える。軸だけ残っている輪光背を補う。
・表面の汚れをクリーニングする。

後世に遺していくためには、一刻も早くこのような処置をほどこすことが必要です。

今回は、修復費、調査費、リターン製作費などで103万円が必要となります。
大切にされてきた仏像が失われることを防ぐために、皆さまのお力をお借りできれば幸いです。

 

最後に

建穂寺観音堂には、平安時代や鎌倉時代のものを含む60体あまりの仏像が安置されています。

現在、建穂町内自体はおよそ550戸の新興住宅地となりましたが、観音堂の管理は古くから周辺に住む50戸ほどの住民でなんとかおこなってきた経緯があります。
そのため、現在もそうした住民を中心に、建穂町内会の下部組織である「建穂神社観音堂評議委員会」等で仏像修復の協議や観音堂の清掃などの日々の管理をおこなっています。


(昔から観音堂を管理してきた、建穂神社観音堂評議委員会のメンバー)

 

仏像の中には損傷しているものも多く、これまでにも文化財指定されている4体は修復をしてきました。
廃寺となっている建穂寺には、一般のお寺のような檀家はなく、そこから得られる収入はいっさいありません。
そのため、今までの修復費用も地域住民で負担してきましたが、さらなる出費となる地蔵菩薩像の修復にまでは資金が至らないのが実情です。

地域に遺る貴重な文化財を守り、後世に遺していくため、クラウドファンディングを通して、ぜひ皆さまのお力をお借りしたいと思っています。
またこの修復をきっかけに、地蔵菩薩像をはじめ、町内で守り続けてきた文化財や建穂寺の歴史について、全国の皆さまに興味をもってもらえたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします!

 

リターンについて

ご支援いただきました皆さまには、お礼に以下のリターンをお送りします。 
今回の仏像修復には1年程度の期間が必要で、修復完成後にリターンを発送する都合上、だいぶお待たせしてしまうことをご了承ください。

 

■建穂寺パンフレット
現在、建穂寺観音堂で配布しているA4・三つ折りのパンフレットです。
建穂寺や仏像についての概要を紹介しています。

 

■仏像ポストカード
今回修復する地蔵菩薩像の他に、これまでに修復された建穂寺の貴重な仏像などを合わせた、6枚セットのポストカードです。

 

■修復報告書
地蔵菩薩像を修復する工程の画像や説明、像の前後左右の画像などが掲載された修復報告書。
通常の拝観ではなかなか見ることのできない情報です。

 

■支援者様のお名前を書いた和紙を仏像内に納入
地蔵菩薩像の体内に、支援者様のお名前を墨書きした和紙を納入し、仏像と共に後世まで安置します。

 

■『幻の寺 建穂寺』PDF
平成3年(1991)に「建穂寺の歴史と文化を知る会」より部数限定で自費出版された書籍です。
仏像などの写真が68ページ、解説と合わせて合計95ページ。
現在では絶版となり在庫もないため、スキャンしたものをPDFデータにしてお渡しします。(書籍の権利関係者の許諾済)

 

■お茶(オリジナルパッケージ)
お茶どころ静岡の、建穂町内で採れた茶葉も含めたお茶100g。
建穂寺オリジナルパッケージでお届けします。

 

■オリジナル仏像手ぬぐい
地蔵菩薩像などをデザインした建穂寺オリジナルの手ぬぐいです。

 

■『建穂寺編年:原文複写版』
享保20年(1735)に編纂された『建穂寺編年』の原文を書き起こしたものです。
半世紀ほど所在不明となっていた『建穂寺編年』を見つけ出して、平成11年(1999)に「建穂寺の歴史と文化を知る会」より自費出版されました。
上巻162ページ、下巻153ページの上下巻セットです。
絶版になっているため、わずかとなった残部をお届けします。

 

■駿河七観音ツアー
駿河の観音をめぐる半日ほどのツアーです。
建穂寺観音堂跡など、普段はなかなか行けない場所へもご案内します。
ご希望の日程をご予約ください。
なお、静岡までの交通費や宿泊費は支援者様のご負担となります。

 

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