2019/04/08 19:07

メンバーによるリレー・エッセイ第3弾をお届けします。今回の執筆者は、新進気鋭のテノール歌手 黄木透です。去年よりイタリアに留学中の黄木くん、VOICE SPACEの活動はしばらくお休みですが、新作CD「アラベスクの飾り文字」には、彼が2013年に録音した作品群(「春と赤ン坊」「曇天」「月夜の浜辺」)の再収録という形で参加しています。フレッシュな黄木くんの歌唱をお楽しみに!オペラ本場での修行を経て一段と輝きを増すに違いない、彼の歌声と今後の活躍に、どうぞご期待ください。

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こんにちは、テノールの黄木透です。

今回VOICE SPACEはクラウドファンディングを利用してのCD制作という、初のプロジェクトに向けて目下邁進中なわけですが、私自身はイタリア屈指のリゾート地コモ湖のそばで優雅に暮らしております。いえいえ!もちろん遊んでいるわけではなく、オペラ歌手としての技術を磨くために昨年の11月から二年間の予定でイタリアの音楽院に留学しているのです。この留学の所為でレコーディングには参加することができず、VOICE SPACEのメンバーには迷惑をかけてしまいましたが、得るものは多く、思い切ってイタリア行きを決めて良かったなあと思っています。

ここ最近、音楽院での授業で面白いと感じているのが、詩の分析法の授業です。オペラの台本は基本、詩の形になっていまして、一行一行の音節数の決まりや脚韻が美しいリズムを形成し、台本作家はさらにそれを感動的な物語へと昇華させます。オペラ作曲家はその詩に対して様々なアプローチの仕方で音楽を付けています。そういったことを授業の中で分析していくのですが、私はふとVOICE SPACEの事を思い出しました。音楽の種類は違えど、オペラもVOICE SPACEの活動も、やっていることは根本的に同じなのではないか!と。もしかすると言葉と音楽のコラボレーションは人間の普遍的な遊びの一つなのかもしれません。しかし、VOICE SPACEの作品はとても新しいのです!全く異なった分野で国際的に活動してきたメンバーが一堂に会し、この古典的な遊びに興じることでとんでもなく新鮮な世界が広がっていきます。VOICE SPACEの魅力はここにあるのではないかと思っています。

今回のCDの目玉は何と言ってもこの言葉遊びです。特に関口将史がCDのために書き下ろした新曲「蠕虫舞手 アンネリダタンツェーリン」(宮沢賢治)は、聴いていると滑稽で笑ってしまうのですが同時にSo cool!!! 自分はなぜこの曲が生まれる瞬間に立ち会えなかったのかと何度も悔しく思いました。

また、言葉遊びの他に、中原中也の詩に中村裕美が作曲した美しい曲の数々も収録されています。こちらはVOICE×SPACEが湯田温泉観光回遊拠点施設「狐の足あと」に楽曲を提供した際の音源が使われていまして、若かりし頃の私の歌声を聴くことができます。

昔の自分の歌を聴くというのは、何とも言えない不思議な感覚でした。あの頃は希望を胸に、いくらでも向こう見ずになれて、いつだって全力だったなあと。そりゃあ今よりずっと粗いですし、できることも少なかったはずなのですが、なんだかあの頃にしか無かった感性があったのだなあとしみじみ思いました。「丸くなるな、星になれ」というビールのCMを思い出しました(笑)

今回のプロジェクトが実を結び、VOICE SPACEが新たなステップを踏み出せることを願うとともに、必ずイタリアでひと回りもふた回りも成長してVOICE SPACEの新たな活動に参加できる様、留学生活を実りのある物にしたいと思います。

何卒VOICE SPACE、CD制作プロジェクトをよろしくお願いいたします。


【黄木 透 Toru Oki プロフィール】

武蔵野市出身。東京都立武蔵高等学校卒業。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。同大学大学院修士課程音楽研究科声楽専攻(オペラ)修了。日本トスティ歌曲コンクール2015にて第3位、秋篠ベルカント賞、聴衆賞を受賞。J.S.バッハ「マニフィカト」、「カンタータ」、ベートーヴェン「交響曲第9番」、第62回「藝大メサイア」等のソリストを務める。また、オペラには「ドン・ジョヴァンニ」ドン・オッターヴィオ役、札幌オペラスタジオ主催公演「愛の妙薬」ネモリーノ役、藝大オペラ第59回定期公演及び新国立劇場特別公演「秘密の結婚」パオリーノ役、西日本オペラ協会主催公演同オペラに同役、東京文化会館オペラBOX「泣いた赤おに」百姓役、同企画「魔笛」にタミーノ役で出演。2017年藤原歌劇団本公演「セビリャの理髪師」にアルマヴィーヴァ伯爵役で出演。藤原歌劇団男性4人のヴォーカルグループ『Quattro Aria』のメンバーとして多数のコンサートに出演。藤原歌劇団団員。薬師寺にて行われた奈良市国際交流協会主催のイベント《日本とイタリア国交150周年を祝して》に出演し、イタリアが誇る若き室内楽グループ「アヴォス・ピアノ・カルテット」との共演を果たす。東大寺大仏殿内にて行われた日本トスティ協会主催の《東大寺大仏殿奉納コンサート》に出演。イタリアで開催された日本トスティ協会主催の《日伊国交150年・トスティ生誕170年・没100年記念コンサート》に出演。BS-TBSの「日本名曲アルバム」に『杜の音シンガーズ』のメンバーとして出演。これまでに声楽を、小林大作、高橋大海、川上洋司、ディエゴ・ダウリアの各氏に師事。イタリア国立コモ音楽院“G.ヴェルディ”に在籍中。