啓明学院相談役 尾崎八郎先生
「神戸アジアン食堂バルSALA」開店3周年おめでとうございます。よく頑張ってきましたね。
あなたも而立(30才)の年を迎えるにあたって、さらに一歩を進めようとしていると聞きました。停まっていれば一寸先は闇でしょう。よく検討し、よく考え、勇気を持って踏み出せば一歩先に光があるでしょう。
思い返すと、あなたは啓明学院中学共学一期生として入学してきました。私が啓明学院中学・高等学校の校長を引き受けた直後で、18年前のことでした。「本を読め、友と交われ、汗をかけ」をライフ・スタイルの原型として「啓明チャレンジャーであれ」が我々の願いでした。我々は、感謝と謙虚な気持ちを持って隣人の痛みを思いやれる人になりたいと、条件の整わない学校に不平や不満を言わず、創意工夫で乗り出したものです。何もない理(わけ)ではない。あるもの、与えられているものを見極め、それを感謝して土台としたものでした。それが我々のチャレンジでした。
世の中には不合理なこと、欠けたことが色々とあります。それらの諸問題を我々へのチャレンジとして受け止め、何とかしたいと思うことから、それらへのレスポンスから我々のチャレンジが始まります。それらの諸問題が他人事(ひとごと)であり、吾が事(わがこと)ではないという傍観者であり無関心であれば、それは愛とは遠い所に居ることになります。愛の対局には無関心と無知があるのでしょう。
その頃、私が一生懸命に考えていたことは「与えないことは奪うことである」ということでした。神様と親に愛されて誕生した、この固有の名前を持って与えられた生命を生きようとしている生徒たちに、なくてはならないものは何か。それを一歩一歩、皆で作り上げていく事でした。それは見えるものとは限りませんでした。
さて、本題に戻ります。尚子さん、あなたもその一人です。世の中には心から頭の下がる方々が多くおられます。吾が事だけでなく、他人事を吾が事と思う人達です。不思議な縁で同時代を生きる事になった人達に、人として尊厳を持った生涯を生きて欲しい、今よりも幸福になって欲しいと願う人達です。先に挙げた「与えないことは奪うことである」と言ったのは、私が小学生の頃に知り、それ以後も念頭を離れない、ロシアのレフ・トルストイです。文豪で思想家、2000人の農奴を解放した伯爵でもありましたが、農奴たちの子弟に初等教育を与えた教育実践家として生涯を貫いた人でもありました。子どもたちは教育を与えられることで、それぞれの人生をどれ程豊かにするでしょう。さらに、彼らがそれぞれの人生を人としての尊敬を持って個性豊かに多様に生きることで人類はどれ程の幸いを得ることになるでしょう。大きくても小さくても、有名でも無名でも、そのような心で生きたいものです。あなたも、そういう美しい心を持って生きようとしておられることを嬉しく、誇らしく思います。
日本で生きようとして御苦労されているアジア出身の女性たちのために、彼女たちとともに歩もうとされているあなたに心からのエールを送ります。それぞれの方の出身国の郷土料理を提供し、彼女たちの自立に協力したいと考え、すでに「神戸アジアン食堂バルSALA」はスタートしています。
そして今、次の一歩としてさしあたって一台の手動式屋台と一台のキッチンカーを用意したいとのことですが、この計画をアピールする機会に関心を持ってくださる方々が増えてほしいものです。本店の営業が土台ですから、来客が増え、知る人が増え、食を通して文化が理解されると嬉しいですね。知識を寄せ、人脈を寄せ、力(出資金?)を寄せ、何よりも気持ちを寄せてくださる方々が増えるよう私も願っています。あなたが温めてこられた計画のように、移動支店とか移動営業店が発足できますように!
「このように誠実に生きようとする人を、神様は決してお見捨てになることはない」(シャンソンの一節)は私の確信でもあります。また、お店を訪ねさせてもらいますので色々と教えてください。
神様のお守りとお導きが豊かにありますように、尚子さんたちの健康が守られますように祈ります。
2019年3月11日
学校法人啓明学院 相談役 尾崎 八郎
私が啓明学院共学部の1期生として入学した際に校長先生だった尾崎八郎先生。すべてのきっかけとなった恩師であります。この度、応援メッセージを直筆でいただいたのですが、先生の言葉はずっと昔から私の心に根付いている大切な言葉。つまり、私の生き方は先生から教えていただいたことなんです。私だけで大切にするにはもったいない、たくさんの方々に読んでいただきたいです。