『多良間幻視行』がスタートしたのは2012年のことでした。
沖縄の離島、多良間島(たらまじま)に興味を持って調べはじめました。それからおよそ1年半を事前の調査に費やし、実際に多良間島を訪れたのは2014年のことです。
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自転車のような身軽さで滑走路上を走って一番端に到着すると一八〇度転回し、そのまま躊躇することなく滑走をはじめた機体はあっという間に離陸すると、急角度で高度を上げて巡航高度三〇〇〇フィートに達した。
低空を飛ぶ小型プロペラ機特有のふわふわした飛行感覚を味わいながら窓に額を押しつけるようにして下界を眺めていると、墜落してもなんとかなるだろうと思えるくらい海が近くて、波頭のひとつひとつまで見えている。この日は北風が強かったせいか、小さな機体はよく揺れた。
宮古島からの飛行時間はおよそ十五分。島の北の沖合から進入した機体が旋回しながら空港に向けて高度を下げていくと、島を取り巻く広いサンゴ礁の縁《へり》で砕ける白い波が見え、その内部にひろがる明るい青色の浅い海が見え、島を縁《ふち》どっているくっきりと白い浜が見え、それらを飛び越えるとすぐに滑走路が現れる。軽々と着陸した機体がターミナルビルの直前に到着するとプロペラが回転を止め、一瞬だけ静寂が訪れる。
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ですが、原稿がある程度まとまってきても出版の機会はなかなかめぐってきませんでした。一方で、時間が経過する中で島の出身者との交流が深まって行き、島について考える時間が与えられたのも事実で、いまとなってはなかなか本にできなかったことが幸いだったという気もしています。
こうした経過をたどったために、書籍にするための文字原稿や、掲載する写真はほぼ準備ができています。文字原稿はおよそ18万字、写真は50点程度。書籍のサイズは四六判、並製(表紙が硬くないタイプ)をイメージしています。
原稿レベルでは、まだいくつか越えなければいけないハードルがありますが、そのことについては次項以降でご報告します。