2019/12/05 14:21

「スター・ウォーズ」(1977年)と『マブラヴ』のあらすじ等を見比べても共通項はなかなか見出せないし、関連があるといわれても納得し難いだろう。しかし、「スター・ウォーズ」旧三部作(episode 4,5,6)を副音声(オーディオコメンタリー)で鑑賞すると実は骨組みの部分でかなり似通っていることが判る。

 コメンタリーで監督・総指揮のルーカス氏は自身の「S・W」前のヒット映画「アメリカン・グラフィティ」(1973年)を引き合いに出し、「A・G」は若者が旅立ちを決意する話(卒業前の高校生が自分たちの卒業記念パーティーを催すまでの青春群像・筆者註)、「S・W」は若者が運命に導かれ未知の冒険に出た話だと述べている。これを「マブラヴ」の「エクストラ」「アンリミテッド」とすると、「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」(1980年)公開までの三年のブランクと歴戦の勇士になっていた主人公・ルークやラストで彼が衝撃の事実を知り逃げ出す点、その次の「スター・ウォーズ ジェダイの復讐」(1983年)で逞しくなって戻ってきたルークなどは「オルタネイティヴ」のタケル像への影響も見えてくる。他にも神話やおとぎ話がモチーフになっている点(タケルの父の名は白銀“影行”。日本神話に登場する日本武尊の父は“景行”天皇とされている。ルークとタケルには“熱血単純バカ”という共通点もある。神話やおとぎ話の主人公の典型だ)、出番のなくなったルークの師オビ・ワンをあえて死なせた(「オルタ」でタケルらが訓練課程を修了したのち、指導教官は非業の死)などと共通点を挙げていくときりがない(その辺も後日、追々と)。「スター・ウォーズ」が『マブラヴ』の根幹の一定部分を形成している可能性はかなり高いといえよう。

 『マブラヴ』を引き合いに出さずとも日本のSF、スペースオペラはほぼ全て「スター・ウォーズ」以降、その影響を受けている。SF作品のメカデザイン等はいうまでもなく、萩尾望都「マージナル」の中盤まで一切世界設定の説明をしない試みや、尾田栄一郎「ONE PIECE」(海底の気泡都市や問題解決後の大宴会など)などと各時代様々な作品に及んでいる。「帝国の逆襲」でダース・ベイダーは息子を仲間に引き入れようとするが、それは親子の情などではなく、あくまで自身の目的を果たすための手段に過ぎない。この親子問題は「新世紀エヴァンゲリオン」やもちろん「進撃」エレンの父にも通じるテーマだ。

 「S・W」のコメンタリーにはしばしば“おとぎ話”という言葉が登場している。「マブラヴ」発売当時のゲーム情報誌等に向けて公表されていたゲームジャンルは“超王道学園恋愛アドベンチャー”だったが、ゲームのオンラインマニュアルに“――それは、とてもちいさな とてもおおきな とてもたいせつな あいとゆうきのおとぎばなし”という一文がある。『マブラヴ』を通してプレイしてみると“あいとゆうきのおとぎばなし”こそがこのゲームの真の性格を言い表したものだと理解できる。


(右上、図1)「エクストラ」で一度だけ、怒った純夏がこんな顔で静かに「コーホー、コーホー…」と言うシーンがある。「スター・ウォーズ」ブームを体験した世代にとって、これはダース・ベイダーの物真似に他ならない。おそらくこれが「スター・ウォーズ」引用の“サイン”であろう。


 『マブラヴ』における引用とそのサインという仮説のアイディアは私のオリジナルではないことをここに明記しておく。リヴァイ先生の名言のネタ元を探そうとしていくつもの映画DVDをあさっていた時、「スター・ウォーズ」を鑑賞して見出したのは間違いないのだが、そのとき同時にかつてネットの大規模掲示板群で“名無しさん”が『マブラヴ』における引用とそのサインの法則、スター・ウォーズでの例も挙げていたという記憶が甦った。私の無意識領域が“名無しさん”の発言を憶えていたのだ。ありがとう、名無しさん。