2019/12/06 15:00

 お次は「ふしぎ遊戯」(渡瀬悠宇、1992-96)。『マブラヴ』作中には時折「ふしぎ遊戯」からの引用を思わせる会話文が登場する。両作品の世界観が似ているとは言い難いが、引用が窺える以上共通点を探さねばならない。異世界を往来する点はどうだろうか。一冊の本を媒介に世界間を移動する(「ふしぎ遊戯」)のはまずエンデの「はてしない物語」(1979)由来だろうし、朱雀、青龍まで現実世界に来ちゃうのはその劇場版「ネバーエンディング・ストーリー」(1984)が元なのかもしれない。『マブラヴ』のそれとはだいぶ趣が異なるようだ。

 「マブラヴ エクストラ」はいわゆるギャルゲー美少女ゲー、恋愛ゲームの態を為しているのに各ヒロインの攻略難易度には極端な差がある。これは全てをクリアしてのち、純夏がメインヒロインであることを認識すると一応納得できるのだが、それにしても選択肢をランダムに選んだとしたらまず間違いなく純夏エンドになるし、次いで冥夜エンド、意図して狙わないとまずたどり着けないその他ヒロイン(尊と一緒に遠洋漁船の上で迎える日常エンド(!?)やまりもと結ばれるバッドエンドを除く)…という極端な格差はやはり気になった。

 そこで「ふしぎ遊戯」「マブラヴ」の恋愛関係を図式化してみたところ、面白い結果が得られた。主人公で朱雀の巫女である美朱と朱雀七星士、主人公で恋愛原子核(*1)であるタケルと彼に群がる電子の如きヒロインたち、これらの性別をひっくり返しただけでハーレム(逆ハーレム)構造が見事に一致したのである。「マブラヴ」冥夜の御剣財閥は天皇家の暗喩であり、「ふしぎ遊戯」で一国の王様である星宿と比して遜色はない。純夏-冥夜-タケルの三角関係は無論鬼宿-星宿-美朱。純夏、タケルがしばしば冥夜と比して“庶民”を強調していたのも美朱、鬼宿のそれと重なる。“おカマ”ちゃんの柳宿は性別不詳の鎧衣尊(美琴)だし、朱雀七星士で最後に登場した天才児童・張宿は「アンリミテッド」で初登場の天才幼女・社霞(やしろ かすみ)と、なかなかの一致ぶりである。タケルが圧倒的に純夏、冥夜と結ばれやすいのも「ふしぎ遊戯」美朱の恋愛遍歴を見れば当然なのだ。

 ちなみにこの引用を象徴するサインとして「アンリミテッド」エンディングで見られる“星を見上げる親子”の図(「ふしぎ遊戯・第二部」ラストの見開きコマに相当)を挙げることができるのだが、どうやらもうひとつ隠しサインがあるらしい。「頭文字D」高橋涼介によく似たキャラ・一文字鷹嘴(いちもんじ たかはし)が「エクストラ」と「オルタ」シナリオに登場するのだが、高橋涼介、星宿と同じ声優が一文字の声を当てている。この程度でどうして「ふしぎ遊戯」引用のサインといえるのか。巧みな操縦技術(「エクストラ」では60mリムジンの運転手、「オルタ」では駆逐艦・夕凪の艦長)、これは「頭文字D」由来なのだろうが、どちらのシナリオでも一文字は最後に車両、駆逐艦による無謀な突入を敢行している(*2)。「頭文字D」の高橋は決して命を捨て死中に活を求めるようなキャラではない。これはおかしい。実は「ふしぎ遊戯」終盤、敵将・心宿の策略で朱雀が力を失い、自国への敵軍侵入を防げなくなった星宿は、圧倒的な力を持つ心宿に無謀な攻撃を仕掛け討ち死にしている。一文字鷹嘴は「頭文字D」「ふしぎ遊戯」双方からの引用を象徴するキャラクターなのかもしれない。ちなみに同じ声優さんが三島由紀夫を思わせるキャラの声も当てているがこれは無謀繋がりと見ていいのか、現在調査中。


(*1)恋愛原子核…「エクストラ」世界で夕呼が命名。大したとりえも無いタケルに何故か女子が群がる現象を説明しようという仮説。

(*2)一文字の名誉のために言っておくが、決して無意味な犠牲ではない。星宿のアレは微妙だが…