2019/12/07 15:00

 「カードキャプターさくら」(CLAMP、1996-2000,2016- )が「はてしない物語」の関連作品であるという状況証拠はあっても確証はない。なにせまだ完結してないし、「CCさくら」。

 主人公・木之本桜(きのもと さくら)は、キャラクター論でいうとこれは「長くつ下のピッピ」(1945)に近い。活発で運動神経抜群、産まれてすぐ母を亡くしたため“母親が天使”でよくお空に語りかける…というあたりが重なる(但し、桜の場合語りかけるのは写真立てで、さらに母は比喩ではなくリアルの天使だ)。ピッピを(部分的でも)モチーフにしたキャラは珍しくなく、元々ピッピをアニメ化するつもりだったという「パンダコパンダ」(1972)、漫画「To-y」(1985-87)の山田二矢は父が外国船の船長、「ふしぎの海のナディア」(1990-91)ナディア姫はピッピの“根暗版”、「カウボーイビバップ」(1998)のエド(初登場時に警官二人と追いかけっこを繰り広げる)などと容易に挙げることができる。「マブラヴ」の鎧衣尊/鎧衣美琴はエドの流れを汲むからこれも…

 話を「さくら」-「はてしない物語」に戻そう。早くに母を亡くした父子家庭という境遇と普段使われていない屋根裏部屋で“古い本”に似たカード入れを開くことで冒険物語が始まるという辺りが「はてしない物語」と重なるのだが、それ以上は解説が必要になるだろう。ここからは「さくら」=「はてしない物語」説が真であると仮定した上での推論。

 桜は精霊を封じたカードを散逸させることで逃げたカードたちを集めるという任務を負う。企んだのは古の大魔導師クロウ・リード(故人)で、その魂の生まれ変わりが桜の父・藤隆、記憶と魔力を受け継いだのが柊沢エリオルである。桜が四苦八苦してカード集めをするうちにカードの魔力を感知し、香港から来日した李小狼はクロウの血を受け継いだ一族の末裔。当初、小狼はカード集めを競うライバルだったがカードは全て桜の元に集まり、最終的に桜と小龍は恋仲になる。2000年までの旧編では最後にエリオルが一連の騒動を総括し、桜が世界一の力を持つ魔術師になったと告げている。

 普通、ファンタジーでは魔王を倒す等大きな目的があって、その手段として世界一の魔術を身に付けたりするものである。桜が危険を犯す動機は散逸させた自身の失態への負い目、「街が大変なことに」「カードさんがかわいそう」という小学生の女の子が命を賭けるには釣り合いそうに無い感情から来るものであって、世界一の魔術師になること自体を目的としてはいない。この物語の大きな目的とは何だろう。

 「はてしない物語」で本の中の主人公・アトレイユは女王“幼ごころの君”から世界を救う方法を探せとの指令を受け命懸けの冒険を繰り広げた後、当の女王から実は任務の結果に大した意義はないという怒髪天モノの告白を受ける。命懸けの冒険をさせることで読んでいるほうの主人公・バスチアンを夢中にさせ本の中に引きずり込むことが狙いなのだという。「CCさくら」に当てはめると、桜のカード集め(及び書換え)自体には大した意義は無く、李小狼を来日させることが狙い…ということになろうか。ではこれを画策(CLAMP以外で)した「CCさくら」の“幼ごころの君”は誰か。エリオルは二人が結ばれることまでは予測できなかったと発言しているので、クロウ・リードではない。“おとぎ話”を欲した“幼ごころの君”はほぼ毎回桜の出撃に同行、危険を顧みず現場で目撃しビデオに収め続けた桜の親友・大道寺知世に他ならない。この世界は知世にとって極めて都合のいい世界だ。超優等生・知世が通う学校はかなり自由な校風で担任は優しくクラスにいじめも無し、授業もしょっちゅう遠足なり社会科見学なりで楽しい場所へ出かけている。自宅は大豪邸、母が常に仕事で多忙(*1)なため夜間の外出も自由(ボディーガードのエスコート付き)、無二の親友・桜とは一切いさかいも喧嘩も無く、しかも世界の危機を救っちゃうスーパーヒロイン(着せ替えもさせてくれるし)。これが知世の望んだ夢でなくて一体誰の夢なのか。知世こそが「CCさくら」世界の“ビューティフル・ドリーマー”なのである。

 大道寺知世の外見は、平井和正「地球樹の女神」(1988-92)にある挿絵の後藤由紀子(山田章弘・画)に似ている。作中、平井自身が後藤にインタビューする(!)という章がありそこには「後藤由紀子さん、あなたはわたしのビューティフル・ドリーマーそのものなんです」と書かれている(徳間書店版、第3巻)(*2)。「地球樹の女神」のみならず、平井作品には世界を救う類の物語が見られる。「CCさくら」では桜と小狼が結ばれることでクロウ・リードの魂を持つ父・藤隆と天使である母・撫子の娘である桜と、クロウ・リードのDNAの後継者・小狼との間に子ができれば真のクロウ・リードの生まれ変わりあるいはクロウを越える何かになる可能性がある。これこそがこの物語の真の目的ではないだろうか。例えば将来、CLAMPワールド全体を揺るがすような大災厄(幻魔襲来?)が起きた際に「CCさくら」の世界からはその究極超人が合同救世主チームに参加したりするのかもしれない。


(*1)もしかすると現実世界の知世は働きづめの母のためさびしい思いをしているのかもしれない…

(*2)「美女の青い影」(1969)の後藤由紀子は「地球樹」の由紀子と同一人物とも明かしている。それを元にCLAMP「xxxHolic」などにでてくる次元の魔女・侑子は知世が成人した姿だとする説もある。


実はこの話は以前、画材を求めに通っていた文房具屋で会った見ず知らずのCLAMPファンから聞いた話を元にしており、かなり有名な説なのかもしれないがそれはそれで構わない。当研究は独自の説を披露してドヤ顔をするのではなく、そういったものを繋ぎ合わせて広大な地図を作ることが目的なのだから。