2019/09/02 14:23

ガロア圏解説PDF (およびリターンには冊子) のために比較的わかりやすい作業をしたので、執筆・教材作成の進捗報告です。


綺麗な整理整頓されたノートですね。

カリー・ハワード対応の解説の肝要な部分をいったん〆て、古典的ガロア理論をガロア圏を解説する前にさっと解説するパートのための表を作成していました。

最低限解説すべき概念 (notions) と表記法 (notations) とどこから始めるかをまとめています。


ちょっと自慢兼解説をします。

黒字が地の文、緑字がツッコミや疑問、青字が解説と、わたしのノートでは約束されています。当然、考え・思考が暴れて約束を破ることはよくあるのですが、今回はあんまり暴れなかったので、公開できました。

もう一つの約束が、左右の使い分けです。最初にノートの右側に書き殴ったあとで左側に補足やツッコミを入れていきます。ノートに意図的に余白を作り補足やツッコミを書く人は、多いと思いますが、ぼくはかなり極端にやっているのでしょう。ちなみに数学科だと余白に、板書当該箇所を説明している教官の様子をスケッチする人や概念図を書いてみる人、時刻を書き込む人などがいるようです。ぼくは「お腹すいた」とか「先生ネクタイ曲がっている」とか書いてたんですが、意外とこういう記憶と講義内容は結びつきます。ただ今のスタイルになってから板書を写すことがなくなったので、この極端なノート用紙が通用するのかは不明です。このスタイルはどちらかというと輪講にあっているでしょう。右側が準備稿・発表稿で、左側に輪講時に受けた指摘などを書き込むわけです。

そういう理由ですから、この画像は専用に作ったA3紙にとったノートをスキャンしたもので、要するにわざわざ左右の使い分けに最適な用紙を作っています。もう一つこの形態でノートをとる理由は、ノートを並び替えたいからです。ノート一枚 (個人的には「項」と呼ぶことが多いです) にひとまとまりの内容をまとめることを心がけ、その単位の順番を様々に変えてスキャン後のPDFをmergeしたり机や床に並べて眺めたりしています。もちろん項あたりの内容が多すぎたら粒度を細かくとりノートし直しなますし、少なすぎたら数項分の内容をまとめたノートを作ります。

このような運用をしているとどこに何を書いたか忘れるので、項ごとに「ギリシア文字+4桁の数字」の番号を順にふっています。その番号をもとに複数のSSV (space separated value) とでもいうべきテキストファイルでいろいろ記録しています。

なお、ギリシア文字はαから順に使っていたのですが、δあたりでノート以外のものと競合したために理由なくμに飛びました。熟慮すべきだったと思います。ギリシア文字は有限個しかなく2000年問題よりタチが悪い。

いつかノートの管理について助言を求める意味も含めてどこかで公開したいものです。

追記1: ノート用紙のファイル (pdf) を希望する人は普通にメールください、普通に返信に添付します。


さて、長くなりました。

画像内ではとりあえず、algebraic, separable, Galois, normal field extensionという四概念は、当該パートで解説しなければならない重要なものであるとしています。この文を書きながら気がつきましたが、(ガロア) 対応という中心的概念を忘れています。当たり前に思いすぎていたのですね。進捗報告のあと、この上から書き足します。ちなみに上の画像のファイル名は1246.0000.pdfとなっていて書き足したもののスキャンデータは1246.0001.pdfとなるはずです。これら自体がmu.dataというディレクトリに収められて差をいつでも確認できるわけですが、そんなことより数学しましょう。

体 (field) というのは四則演算が可能な抽象化された数の集まりだと思ってください。そうしたものの例・インスタンスに実数全体の集合と複素数全体の集合があり、このふたつの関係は方程式を解くという観点からいい感じに関係しています。詳しくいうと二次方程式にかぎらず実数係数の代数っぽい方程式 (以降、方程式) が複素数の範囲内に解を持ちます。このことは、けっこう意外というか非自明な結果です。なお、sin x=0とかが代数っぽくない方程式です。で、二次方程式のように解の公式をどの方程式も持つのかという疑問に答えたのがガロアで、歴史的には五次方程式が焦点になっていました。

実数全体の集合に対してわりといい感じだけど複素数全体の集合ほどよくはない関係をもつ体などがあり、そのいい感じ度を統制する体より単純な数学的対象が存在し、それらとこの場合では実数がなす体と複素数がなす体の間のいろんないい感じの体が対応します (ガロア対応そのいち)体より単純なものに対応するので、対応先を確認することで、実数体に対してどれくらいいい感じの体がどれだけあるか、とか、その並び方とかを調べられる。さらに三、四次方程式が解の公式をもつことを整理された視点から確認でき、五次方程式が解の公式を持たないこともわかります。四次方程式から最終的に対応する先が限界まで単純になって先にいけない感じというべきでしょうか。

ちなみに解が存在することと解の公式が存在することは大きな違いです。解の公式が存在するということは解を求める素性のいいアルゴリズムが存在することと同じだと考えたら、いまは大丈夫だと思います。

過度な単純化をした説明でだいぶ前からやばい領域に踏み込んでいます。でも、敢えて突き進みます。とても大事なことを思いついたから言いますが、オルガノンクラスは、わかったつもりになる冴えた一方的な説明を唾棄して正確な理解に至るための愚直な議論を重んじますので、本クラスの見解としてはこの前後の概略の説明は唾棄されるべきものです。ただ古典的なガロア理論の概略をどこかで述べないといけないと焦っていたので、いまやります。なんならまたやります。さて、数学の話です、一応。

実数体より複素数体は真に大きい、つまりxが複素数でかつxが実数でないことがありながら同時にxが実数ならxは複素数であるというのが成り立ちます。こうした関係が体について四則演算との整合性をともなって成立するとき、とくに体拡大 (field extension) と言います。この拡大のいい感じ度が先ほど話題になっていました。拡大がもつ色んな性質に応じて分離拡大 (separable extension) とか正規拡大 (normal extension) とかガロア拡大 (Galois extension) とか言い、ガロア拡大くらいいい感じだとちゃんとしたガロア対応の対応先が見つかります。

体の拡大であれば、別に実数体と複素数体でなくとも様々な四則演算が可能な集合について、同様の議論を行うことができ、たとえば作図問題も四則演算が可能な集合つまり体を用いて表現できる。実際、正九角形の作図不可能性がわかります (扱う予定です) 。コンパスと定規だけでの操作をどう四則演算とみなすのかはちょっとした見ものかもしれません (一文追加) 。

以上の話は数学科卒の人なら理解できるどころか間違いやまずい説明にコメントをできるくらいには普及している知識で、これを扱う成書も非常に多い。でもさらに、体以外のさまざな数学的対象にも似た対応があることが知られていて、それを圏という非常に一般的な枠組みでまとめて説明し、ガロア対応という現象自体の性質を明らかにするのが、このプロジェクトで作成中の解説文が紹介するガロア圏の理論です。

なお、[L:K]という表記で拡大のサイズを表すこともあるかもしれない、と[L:K]が拡大そのものを表す方針をノート内で検討し直しています。実は数式の出てくる文章での記法や文字使いの違和感ない統一は難しく、そのための本が書かれるくらいです (買わねば) 。ドイツ文字 (=フラクトゥール) をぼくが嫌うのはぼく自身が上手に手書きできないので、実際に教材として使用するときに障壁になると考えたからです。いろいろな事情がある。

似た現象を起こすのがどんな数学的対象なのかの例示の理解にも、それなりの予備知識と数学での経験を要するので、さすがに省略します。というか、上のような言葉の勢いに任せた説明ができない領域の数学的対象たちですし、よく考えたら今回は古典的な体についてのガロア理論を扱うパートのノートに沿った解説をするべきですし。

追記2: ガロア的現象が起こるもののうち被覆空間という幾何的対象の紹介を提案され、図示で概略をつかんでいただける可能性に思い当たりました。近く紹介します。「ガロア理論=方程式のための理論」と思っているとびっくりするような意外なものです。実際、多くの数学者がびっくりしたからガロア圏が考えられたはずです。

脚注がわりに付言すると、方程式にもとづいて話しましたが、中心的なプレーヤーは多項式 (polynomial) です。見た目上微妙にしか違いませんが、決定的に違う数学的対象です。算数・高校数学では区別しないかもしれません。しかし、区別しないと数学を学ぶ際に遭難します。区別はロジシャンの重要な徳目でもあり、わたしの書く解説が概念を厳密に区別し、読者が迷子にならないように書かれるよう努力していきたいところです。


あっ、予備知識の分量に悩んでいることを報告してないですね。3万円をご支援くださった方はfunderとして解説文冒頭に名前をあげさせていただく (optional) とともに補助資料をお送りしますが、その補助資料とのバランス、教材として使用するときの読みやすさなどを考えあぐねています。

ともあれ、とても大事なことなので繰り返しますが、オルガノンクラスは、わかったつもりになる冴えた説明をぼくが行うサービスでなく、正確な理解に至るための愚直な議論の相手と場を提供するサービスです。これは議論のためのたたき台のようなものと理解していただいたうえで質問をわたしにぶつけてくださることをお願いします。せっかくなので質問しちゃいましょう (一文追加) 。


Q&A

Q: イデアル (ideal) とは何でしょうか?

A: とてもいい質問です。端的な答えは、(このばあいは)体に集合として含まれるその体上の線型空間です。たいていは環という体から割り算を抜いた数学的対象についてイデアルを考えます。「環に集合として含まれながらその上の線型空間のようなものである」という不思議さを超えて便利さを理解したらイデアルをそれなりに理解したと言えると思われます。

Q: 体の対応先とは具体的には何ですか?

A: 群という少なくとも掛け算をできる集合なのですが、体の演算と混同しないように明示しないでおきました。一般的なガロア理論理解ののちには群のほうが主役になっていきます。