◆ルーキー(施設退所者)とナビゲーター(ボランティア)が1対1でペアを組む「自立ナビゲーション」
18才で施設を退所した若者は、就職・進学、ひとり暮らしと、これまでの生活と環境が激変し、大変不安定な時期を迎えます。そんな彼らを見守り続けるプログラム「自立ナビゲーション」。
・研修を受けたブリッジフォースマイルのボランティアが
・マンツーマンで
・毎月1回の面談(お食事など)をしながら
・2年間継続して見守ります
さて、具体的にはどんな活動をしているのでしょうか?ルーキーの「まこち」と、ナビゲーターの「おはな」ペアの様子をご紹介します。
◆「他の人ならパス」 ペアの希望かない 欠かさず面談
「まほち!こっちこっち」。駅の改札口で手を振るおはなに、まほちが駆け寄ってきました。1カ月ぶりの“面談”ですが、その様子は友人と待ち合わせをする周囲の人たちと変わらず、風景にとけ込んでいます。
まほちは、歩きながら次々と最近の出来事を話していきます。初めてアルバイト先の後輩に夕食をおごってあげたこと、引っ越す先輩から家具を譲ってもらえそうで、どう運ぶか考えていること……。おはなも「後輩って、この間の高校生と同じ人?」「いいね、家具もそろっていくね」と聞いています。
おはなとまほちは2012年、「巣立ちプロジェクト」で出会いました。プログラムを終えたまほちは、初め自立ナビへは参加しないつもりでした。「巣立ち」は大勢の高校生とボランティアが一緒ですが、自立ナビは1対1。ペアを組むボランティアの希望は出せても、結果は分からず「知らない人と毎月会うのはつらい」と考えていたからです。出身施設・杉並学園(東京都杉並区)の職員から熱心に勧められ、しぶしぶ申し込んだので「他の人ならパスしよう」と、おはなの名前しか書きませんでした。「わがままだと思われたかもしれない」とまほちは苦笑いしましたが、欠かさず面談を続けています。
◆「愚痴でも安心して話しやすい」3~4時間話し込むことも
2人は普段、まほちの地元で会っています。最寄り駅のファミリーレストランで、昼食をしながら近況を報告します。話し込んで3~4時間が過ぎることも珍しくありません。「話すことの8割は愚痴。でもおはなさんなら、学校やバイト先の人と会うことはないから、話しやすい」とまほちは言います。友人関係やアルバイト先では、時に不満や悩みも生まれます。内輪で話せば、誰にどう伝わるか分かりません。自立ナビでは、聞いた話を本人に無断で外部に伝えることはないので、安心して話せます。まほちの暮らしていた施設の担当職員は、自立ナビについて「施設から遠く離れた子どもと、顔を合わせてくれているのがとてもありがたい」と言います。施設でも退所者の支援として、アルバイト代の振込先と奨学金の振り込み口座を分けるよう指導したり、一部の口座を学園で保管するなど、金銭管理を手伝っています。近くにいる退所者なら、様子を見に行くこともありますが、現在のまほちの自宅に行くには、施設から1時間半以上かかります。「話をゆっくり聞ける状況にない時は、電話も長くはできません。気にかける気持ちはあっても、実際の距離を超えていくのは大変なので、助かります」
◆「子どもが気持ちを話せる場所。自分の力で歩むためにも大事」
まほちについて、おはなは「『巣立ち』の頃はもっとクールな印象だった」といい、面談を重ねることで、素の部分を見せるようになったといいます。おはなは「特に何かを聞き出そうとはしていない」そうですが、会話から自然に気持ちを引き出しているようです。この日は、短大の保育実習で保育園や幼稚園に行くと、まほちが話した時に、おはなが尋ねました。「まほちは、働くのはどっちがいいなとかある?」。まほちも「保育園、幼稚園それぞれメリットもデメリットもあるんだよね」と、今の考えを答えます。会話の流れを止めずに、気持ちや状況を聞き取っているのが分かります。担当職員は、子どもたちと接するボランティアには「気持ちよく世界を生きている」姿を見せていてほしいといいます。職業や家庭環境もさまざまな大人が、それぞれ人生を楽しんでいる様子は、子どもたちが自分もいろいろな道を目指せると知る機会になるからです。「子どもたちの背負っている現実は厳しいです。それでも、自分の人生は自分で選び切り開くんだと、納得しないといけません。その過程に、気持ちを整理し話せる場所があるのは、とても大事なんです」
◆気負いなく友達のように。ボランティアは「人生の先輩」
2人は、そんな職員の気持ちに近いところにいるようです。年齢も離れ、ボランティアという立場でも、おはなには気負いはありません。「まほちは自分のことはしっかり考えられているし、友達みたいな感覚で、会って話をしてもらえたらいいなと思います」。2人の関係を表すのに、おはなが「人生の先輩ってどう?」とまほちに聞きました。「うまいこと言うね」。2人は顔を見合わせて微笑みました。そんな関係で自立ナビが続いています。
レポート:たわし(ブリッジフォースマイルボランティア)
(2013年「自立支援白書」からの転載)