いよいよ最後の1日になりました。
改めて私たちが能登に住んで気づいた大切にしたいこと、
里山まるごとホテルを通して皆さんにお届けしたいことを綴ります。
私はお食事処茅葺庵で使わせていただいている野菜たちが好きです。
三井町(みいまち)の農業の主力はお米で、畑は家の近くに少しの面積しかありません。
移住した当初は「特産もないし、面積も生産量も少ない。」とあまり重要なものに感じられませんでしたが、生活しているうちにその美味しさや作っている人たちの姿を見るにつれ想いが変わっていきました。
小さいからこそ、それは顔の見えない誰かのためではなく、自分たちが食べる分、そして遠方の子供や孫に送る分、周囲の方におすそ分けする分といった近くの誰かのためを想って手間暇と愛情をたっぷりとかけて育てられた野菜たちでした。
茅葺庵では、周りで消費しきれなかった分を買い取らせていただいたり、「お金はいらないよ!」という方にはコーヒー券やお食事券と交換したりして、 そういった野菜たちを分けていただいています。身近な誰かを想って育てたからこそ、美味しさや安心安全に気を使われていて、その想いまで私たちにおすそ分けしてくれるようでした。
そうした野菜たちを使ってスタッフの谷内ばあちゃんを中心につくられる料理は、食べた人からも「愛情たっぷりで心が温まりました」と喜ばれ、その愛情は伝播していきます。
また先日、うちのこども店長(泰生)が赤飯が好きと話すと何人ものばあちゃんがお赤飯を炊いて持ってきてくれました。
近くに住むばあちゃんも「赤飯持ってきたよー!」とお重をもって来店してくれました。お重一杯にぎっしりつまった赤飯を思い浮かべながら蓋を空けてみるとそこには店長が食べやすいように小さなお結びがラップに包まれて整然と並んでしました。「泰ちゃんはこれくらい食べるかな」と、ひとつひとつ包んでくれたばあちゃんの姿を想うと、とても心が温まりました。
(店長は本当の孫のように可愛がってくれるじいちゃんばあちゃんの中ですくすく育ってます)
能登はやさしや土までもという言葉もありますが、能登だけでなく里山部は誰かを想って手間暇をかける豊かさ、 温かさを持っています。
そうした誰かを想って手間暇をかける豊かさは、里山の自然と寄り添う暮らしのスタイルが支えていると感じています。
里山と関わりお米を、野菜を育て、山菜やキノコを採りに行く。自分の体調に合わせて野草を集め野草茶を飲む、天候や時期を見ながら梅干しを漬けたり、手前みそを仕込んだり。そして食だけでなく、薪や炭といった燃料、木材から簡単な大工仕事といった風に、自然と寄り添いながら、自らの手で生活をつくりだせることによる安心感がここで住む人たちの根底にあるのだと思います。
(農家民宿弥次の西山じいちゃんは「田舎の長男たるもの家の修理くらいできなきゃいかん。」が持論。日曜大工以上の腕前で床はりワークショップでも大活躍でした)
私の移住のきっかけをつくったじいちゃんはこう言いいました。「都会はお金がないと何もできない。だけどうちらは里山があるから食うものには困らない。だからたとえ貧乏だって人に優しくできるんだ。」
都会もお金だけの関係じゃないこともたくさんあることを私も知っています。
でも、今回のコロナウィルスによる世界的な混乱をみていると、
自分たちで暮らしをつくれる余白やゆとり、衣食住を自給できることの安心感、自然との関わり、他者への思いやりや分かち合いといった里山の暮らしが持つ価値や豊かさが大切になってくると感じています。
里山まるごとホテルはそうした暮らしや価値に触れられる入り口となります。私たち自身もこのプロジェクトを通して、じいちゃんばあちゃんたちの知恵や暮らしを引継ぎ、そして訪れたゲストとその楽しみを分かち合うことで、より豊かで持続可能な未来をみんなで一緒につくっていけたらと思っています。
(山本亮)