■テーマはカタールの「昼と夜」
カタール国、通称カタールは、中東・西アジアの国家です。
首都はドーハ、アラビア半島東部のカタール半島のほぼ全域を領土とする半島の国です。カタールが現在の国家として独立したのは1971年と比較的最近ではありますが、この土地にはカタール建国前からの長い歴史があります。 古くから、いろいろな部族が次々とカタールに移住し漁業、真珠採り、貿易を盛んに行ってきました。 今回デザインされた着物の正面にみえるのは、古くからこの地にある砂漠と、近代化と共に立てられた高層ビル群で表現されるカタールの昼の顔です。そして、 後姿に描かれているのはカタールの夜。星空と美しいアラビア海、そして、赤く染められているのが、この国の発展に寄与した石油資源です。
この作品の中で、カタールの「昼と夜」を一つのKIMONOで表現しています。
■虹染とローケチ染
虹染めという染色方法で大変有名な本郷葵虹先生は、父にあたる初代本郷太田子(たいでんし)に師事し染色一切の技を習得後独立されました。
着物に普通に染料を乗せていくと染料は滲んでいきます。 どこで滲みを止めていくのか。その滲みを使って計算を重ね表現するものが虹染です。 理論上、4色の色でできる虹染めには4×3×2×1=24色、5色の虹染めでは5×4×3×2×1=120色の色彩が浮かび上がることになります。
この作品は本郷先生も 「これまでの俺の全てを費やした」と仰いました。 虹染めと同時にローケチという技法をたくさん使い、 輪郭と輪郭の色が混じって不思議と際が少し見えてくる。 それがローケチ染の持つ面白さです。 ロウは固まりやすいので常に下から火を焚いていないと ロウでは描けません。
工房の中はロウの香りが充満しています。 先生の渾身の技がこのカタールのKIMONOに使われています。
■カタールの昼夜を表現
最初、この着物のデザインは昼の砂漠と建物しか描かれていませんでした。 しかし、それでは「面白くない」と本郷先生と議論を重ね、 そこから生まれたのがカタールの夜でした。 カタールの夜の空気は、とても澄んでいて満点の星が綺麗に見えます。 そしてアラビア海。夜になると光を帯びてグリーンに見えます。 この幻想的な昼夜の変化を、一枚のKIMONOに描きました。
前から見る着物姿と、後姿はまるで違う着物のようです。 大胆なデザインと、繊細で高いスキルの虹染めにローケチ染。
京都の専門家が、驚きのあまり叫び声をあげたほど素晴らしい作品です。
■カタールと日本の繋がり
今では天然ガスを輸出し、カタールは目まぐるしい経済発展を遂げています。
かつてのカタールには、 巨大な天然ガス田を商業化し輸出するための技術と資金が不足していましたが、それを可能にしたのが、オールジャパンで取り組んだ 「LNG(液化天然ガス)開発プロジェクト」でした。東日本大震災の後では日本へ恩返しにと 「カタールフレンド資金」 が設立され震災復興支援を目的に カタールが援助をしてくださるなど、繋がりの深い友好国です。
■帯
製作者 本郷葵虹
技法 西陣織地に虹染め
■表地と裏地に思いを込める
カタールの帯は、作者の強い要望もあって、KIMONOと同じく本郷先生に製作をしていただきました。
西陣の帯地で中東の華文を織り込んだ帯地に、 「虹染め」の技法でKIMONOと同じコンセプトで表現された面を表地としています。
帯地は、KIMONOの生地と違い、技術的には非常に染が難しいですが、卓越した記述によって、KIMONOと変わらない色彩を醸し出しています。
■アラビア海とパイプライン
裏地には、夜のカタールに描かれた「アラビア海」をイメージしてグリーンが使われています。
ロウたたきの技法で静かな波を描き、 ここにも金糸の地織によって表現されたパイプラインが織り込まれています。
カタールが天然資源によって発展している様子がこの裏地にも込められており、 コーディネートによっては、こちらを利用することも十分に考えられます。
■トータルコーディネート
本来、染と織はそれぞれが独立した進化を遂げているが、 カタールに関しては本郷氏自体の感性によって、トータルなコーディネートで製作しました。
このことは、今後のプロジェクトの中でも十分に可能性が感じとれる手法であり、 その意味でもカタール国の製作は大きな足跡を残しました。