2020/05/23 18:54

話は2005年に遡る。当時、土屋は大学生時代に起業した会社を経営していて、モデルをキャステングしたり、クラブでパーティーをオーガナイズする日々に明け暮れていたが、そんな生活に少しずつ飽きていき、仕事も徐々に減りつつあった。そんなある日のこと、友人から紹介されてお世話になっていたアッシュ青木岳明さんが、土屋の人生を変えるキッカケを与えてくれた。アッシュさんは歯学部生でありながら、バーの道に進まれた異色の経歴の持ち主で、西麻布界隈では有名な人物。いつものようにアッシュさんがバーテンダーをつとめるバーに行くと、疲れたような表情をした土屋のことを気にかけてなのか、「ツッチー、多分気に入ってくれると思うから」と言って、龍村仁監督の『地球交響曲 ガイアシンフォニー』を勧めてくれたのだ。

ガイアシンフォニーとは、1992年に1本目がスタートしたオムニバス映画で、現在もなお9本目である第九番が制作されている最中である。ラインホルトンメスナー、佐藤初女さん、ダライ・ラマ、ジャックマイヨール、フリーマンダイソン等、偉業を成し遂げられたり、現代の常識を越えたことを成し遂げた人、あるいは体験をされている錚々たる方々が出演されている映画だ。

もし、母なる星地球(ガイア)が本当に生きている一つの生命体である、とするなら、我々人類は、その”心”、すなわち”想像力”を担っている存在なのかもしれません。我々人類は、その”想像力”に依って科学技術を生み出し、地球の環境を大きく変えて来ました。現代の地球の環境問題は、良い意味でも、悪い意味でも、人類の”想像力”の産物だ、といえるのです。だとすれば、危機が叫ばれるこの地球(ガイア)の未来も又、人類の”想像力”すなわち”心”の在り方に依って決まってくるのではないでしょうか。(龍村仁監督のホームページから一部抜粋)

こんなメッセージが込められた映画のシリーズ5番目を観にいった際、劇中でアーヴィンラズローが語った言葉によって、土屋は少しずつ考え方や生き方を変え始めた。

激動の時代に生きていることは実はとても素敵なことなんです。激動の時代にはバタフライ効果という現象が起こりやすい。世界のどこかで一羽の蝶がはばたいておこった小さな風の変化が次々に増幅され一週間後には地球の裏側で台風に発達するという現象です。カオス理論の考え方です。これはとても勇気のでる話です。例えそれがほんの小さな力でも正しいときに正しい場所で正しい方法で発揮されれば全地球規模の変化を起こし得るということなのです。ひとりひとりのなかに変化を起こす力がある。力があるからこそ責任もある。未来をひらく鍵は自分の中にその力があることを知ることです。自分自身が変わることによって世界を変えるのです。(アーヴィンラズロー)

自分自身が変わらなければ...そんな思いが少しずつ増幅していき、土屋は、渋谷のライブハウスO-EASTでガイアシンフォニーの自主上映をするまでになり、日に日に、自然の中で暮らすことや、スピリチュアルな世界に心を奪われ始めて行った。

そして時が経ち、2007年末、当時から遊び仲間で先輩だった小田嶋さんご家族が、そんな土屋の人生を動かすことになる。小田嶋さんご家族は、お子さんがシュタイナー学園に合格したことをきっかけに、藤野という町に引っ越すことになるらしいと。それを聞くにつれ、「藤野、聞いたこともない町だけど、面白そう」という直感が働き、2008年、初めて藤野を訪れることになった。中央線に揺られて到着した町は、新宿から1時間とは思えないほど、自然豊かな環境で、「この町に引っ越してきたい」と強く思ったのである。ただ、その時はまだ決断しきれずにいた。本当に今の都会での仕事や生活を捨てて良いものかという迷いもあった。しかし、後日、一つの偶然が起こったことが、決断を後押しする。

なんと、土屋の娘が通う保育園に龍村監督のお子さんが通っており、同学年の娘を持つ親として、龍村監督との縁ができたのだ。そして、たまたま通っていた居酒屋の席で、龍村監督と再会し、相談することになった。

「僕、龍村監督のガイアシンフォニーを見て、考え方が変わり、人の縁で藤野っていう町を知り、青山から引っ越そうかと思っているんです。」

それを聞いた居酒屋の店主や、周りの仲間たちが

「ツッチー、おかしくなっのか?大丈夫か?」

と心配する中、龍村監督の奥様は、

「藤野って聞いたことあるわ。パーマカルチャーや、シュタイナー学園があるところでしょ?リトリートセンターのような場所でしょ?良いじゃないの。」と言ってくださった。

「よし、藤野に引っ越そう。」その時、決断した土屋は、常人には考えれないスピードで意思決定をし、2008年9月、中古の物件を買い、渋谷で経営していた会社を後輩に全て委ね、ほぼ無職の状態で2009年1月に藤野に移住して来たのである。

「信念もポリシーもないのが俺のポリシー。ただ、なぜか人生の要所要所で、『お前はこれをやるべきだ!』って言われてるような、偶然の縁やシンクロニシティーがあるんだよね。どこかて一個でもズレてたら、今がないんだよ。

偶然の縁が重なり始めると、この偶然が起きたのは、この先にめっちゃ面白い島があるからに違い無いって思い始めちゃうんだよ。それでさ、この先に面白い島があると思うから一緒に行かない?って仲間を誘うと、共感してくれる仲間が自然と集まるんだよね。ただ、どっちに進めば良いのか正解なんてわからないから、舟を漕いでる最中はめっちゃ不安。だけど、絶対たどり着けると信じて必死になって漕いでると、いつ辿り着けるんだよね。そんなことの連続!」と笑いながら言った。

そう、土屋は根っからのオーガナイザーなのである。

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裏話の便り  from アッシュさん

最初は、BSフジで放送された「 ロングインタビュー 」という番組、ゲストが龍村仁さんというNHKを懲戒解雇になった異色の映画監督の人の放送をVHSに録画したのが始まり。

懲戒解雇になった経緯は、キャロルのドキュメンタリーを撮りNHKで19:00からのゴールデンタイムで放送したいと上層部に話を持っていったところ、そんな危険なことは承諾できない!と跳ね返され、謹慎処分にまでされた龍村さんは、自分の処分も全てぶっちぎって無断で強硬撮影を決行したということがバレ、クビになったというもの。

そんな人なのに、ダライ・ラマやジャック・マイヨールとマブダチだっていうのが衝撃的だった。

ロングインタビューの中でのジャック・マイヨールとの話は、誰も想像が出来ないような驚きのエピソードの連続だった。

『 ある時、深海において彼の血液中の酸素が人間では起こり得ないシステムに切り替わったんです。それは、イルカやクジラなどの生物にしか起こらない酸素の循環システムで、有り得ないことだった。イルカやクジラだって、魚じゃないんだからずっと海の中にいられるわけじゃないんですよ。海の中にいられる時間は我々よりもずっと長くいられはするけれども、呼吸をするために海面に上がってくるわけだから。でも、人間は彼らのように長くは潜っていられない。作りが違うから。しかし、ジャックは心の底から本気の本気で " 自分はイルカなんだ " と信じることが出来たから・・・。限界の状態においてからだが生命を維持するためにそういう働きをしはじめたんです。』

という「 ブラッドシフト 」の話や、

『 ジャック・マイヨールって本当にとてもわがままな人間で、約束やアポイントメントなんかを平気ですっぽかしたりする、そんなのが当たり前のすごくいい加減な人間なの。それが、ある時、彼が日本へやって来る予定が組まれていた数日前に、

" ごめんなさい。体調が優れなくて、どうしても日本へ行くことが出来なさそうなんだ。本当に申し訳ない。。"

って、あのわがままな、平気でドタキャンするようないい加減な人間の・・・あのジャックが・・・、周りの人間に気を遣うような、ある意味とても(社会的な)人間っぽいというか、相手を思いやるような、そんな言葉を電話で僕に話していることが信じられなくて。。それが、ジャックと話をした最期なんですが。その1週間後に、彼は命を絶ってしまったので。』

といったようなこと。

番組の最後に、スタジオ収録に観覧しに来てた人たちの中から質問などを受けていた。

「 私は○○○○さんから、すごい影響を受けたんですけど。でも、私は人に影響を与えられるような、そんな人間じゃないんですけど。。笑 」

と言ったことに対して、
龍村さんは語気を強め、

『 どんな人であろうとも、必ず誰かに多かれ少なかれは有りますけどね、必ず影響というものを与えているんです。
" 自分なんてそんな大したもんじゃないですよぉ " なんて言ってること自体が、おこがましいっ‼ 』と。

この言葉に俺は痺れた。

そしてアナウンサーの小島奈津子に、
「 では、龍村さん最後に。
" 人間とは何ですか? " 」
と聞かれ、

『 人間とは、影響を与える存在です。』

と、即答した。

影響とはもらうものではなく、与えるもの だということを龍村さんは云ってインタビューは終了し、龍村さんはニコッと笑ってスタジオから出ていかれた。

その瞬間、スタジオ内は物凄い拍手の渦に包まれていた。


これを、当時 西麻布でやっていた BAR 12《 0∞ 》でプロジェクターでみんなに見せて上げたい!と思い、先ずつっちーに観せるためにVHSのテープを持っていったのだ!(※ その時、もう一つ持っていったのが「 HEART OF EARTH 」という BS-i で放送された冒険家や音楽家などの人たちの、司会者無しのリアル座談会の番組。)

その両方のビデオテープは、未だに返ってこない。。(;_;)