2020/08/18 18:02

リンクトゥミャンマーのミャンマー人定住支援活動

(定住支援を受ける人々に聞き取り調査を実施、2020年)

【2020年夏、クラウドファンディング終了】


2020年に新型コロナウイルスというこれまで人類が出会ったことのないウイルスの脅威により、日本の外国人の生活が困窮する事態が発生しました。世界中で、新型コロナウイルスによって経済が停滞した場所で、人々は仕事を失ったり、生活が貧しくなる状況が出てきました。

2020年3月頃から、NPOリンクトゥミャンマーには、これまでよりも労働問題として深刻な案件の相談が寄せられてきていました。雇い止め、雇い止め時の退職届に「自己都合退職」と書かせる派遣会社、勤務先の居酒屋で店長がクビになり、管理者がいない中での外国人アルバイトスタッフの困惑、休業手当の申請、などなど。正直、人材・資金不足にあえいでいました。

一方で、こうした新型コロナウイルスにより失業した人々がいるのは、日本だけのことではありません。海外でも同様のことが起こっています。ですから、こうも思っていました。

「日本に住む日本人も困っている人が多いし、海外に住む日本人で仕事を失った人もいるし、クラウドファンディングで在日外国人の支援を求めても、共感を得られるかどうか……」

このクラウドファンディングは、事務局の押田さんや、他スタッフ・ボランティアが、やってみたいと希望したので始めました。外国人の日本における定住支援活動で、募金を得られるか、半信半疑でした。これまで定住支援をしてきて、

「外国人を支援する活動が、日本社会で全員に受け入れられるわけではない」

「外国人を支援しても、その外国人が支援をありがたいと思わないときもある」

という経験を多くしてきたからです。


【2012年から2016年、ボランティアとして】

2012年冬、横浜の薬局から、ミャンマー人の夫が憤慨して帰宅してきました。外国人の風貌の夫に対して、丁寧な対応をしてもらえなかったからです。

「どうせ日本語で薬について説明しても、日本語が分からないでしょう」

こういう薬局の態度に直面して、私はつくづく、日本に住む東南アジアの人々が受ける風当りがどんなものか、日本社会の外国人との共生とはどうあるべきか、考えるようになりました。

それでも私たちは非常に恵まれていました。その薬局には二度と行かないで、別の薬局を選べばいいからです。その日、夫はラフな格好をしていました。夫が外出するときに襟付きシャツを着るようになったのは、それからです。人は革靴や襟付きシャツやスーツを着る人に、差別的な待遇はしないのです。要は見た目を変えて、行く場所を変えて、自分の能力を日本社会で証明していけば、克服できる問題でした。

夫の周囲にいる在日ミャンマー人は、こうした問題を克服できる人と、そうでない人がいました。克服できない人のほうが多かったです。

私と夫は、在日ミャンマー人に対して、ボランティアで仕事を紹介したり、バス旅行のバスをチャーターしたり、不動産契約支援をしたり、飛行機チケットを買ったりするようになりました。でも、私たちがバスを借りても、在日ミャンマー人が旅行中にバス運転手と喧嘩して、その会社から二度とバスを借りられなくなったり、本当に、さまざまなことがありました。

年間支援相談数が150回を超えた時に、在日ミャンマー人定住支援を、ボランティア団体として、組織化しようと考えるようになりました。二人でボランティアで支援するには、助けを求める声が多かったこともありますし、「もしかしたら、外国人定住支援にご興味をもってくださる別の方々が日本にいるかもしれない。その方々に力を貸してもらえたら嬉しい……」と、あるかないか分からない希望をもとに、NPO法人化に向けて動き始めました。


【2017年~2019年「NPOリンクトゥミャンマー」として始動】

リンクトゥミャンマーが支援するラカイン州孤児院

(リンクトゥミャンマーが支援するミャンマー・ラカイン州孤児院)

(1)在日ミャンマー人定住支援


(2)文化交流

(3)国際協力

NPOリンクトゥミャンマーは、上記3つの主要事業があります。発足当時から、すべての事業を行っていましたが、特に「国際協力」を主要事業としたのは、当時、海外への開発やNPO/NGOに興味のある人々にとって、「外国人の日本における定住支援」ということにピンとくる方々が少なかったからでもあります。募金をつのっても、「これは海外に住む人に渡して」という支援者が多かったというのもあります。

法人化して、学生や研究者の方々、多文化共生にご興味のある方々が少しずつ、当会に連絡をくれるようになりました。

ミャンマー少数民族の水かけ祭りを行うなど、数人のボランティアではできないイベントも、開催しました。

また、少々の助成金を獲得するようになりました。

それでも、「日本に外国人が住み、ともに生きる社会を希求する」という考えに共感が深まっているという実感はありませんでした。ミャンマーに興味を持つ方はいます。外国人を支援する方もいます。しかし、こうした人々は少数であって、少数であることに変わりがないと思っていました。

ミャンマー少数民族の水かけ祭りを主催し、マスコミに開催をアピールしたとき、公安調査庁の職員が訪ねてきて、こう尋ねました。

「テロを企画するような人は周りにいませんか」

私は答えました。

「知りません。私は、日本社会に外国人が一時でも住むのであれば、日本で良い思い出を作ってもらいたいと思って、日本に対するファンを増やしたくて、イベントを企画しました。一方で、当の外国人が、私の意図をどう思うかは分かりません。外国人に好かれようと思ってやっているわけではありません。テロ分子をかくまう意図もありません。日本人も、こういう外国人が日本に住んでいて、社会の一員として経済活動をしているという実態に触れるといいかな、と思っているだけです」

「えらいですね。小さいお子さんがいらっしゃって、そういう活動をするのは……」

偉い!? 外国人を支援する活動は「えらい」のでしょうか? 「汝の隣人を愛せよ」と聖書で書かれているじゃないですか(私はキリスト教の大学出身で、事あるごとに聖書を引用して聞かされる大学のイベントがあったため、ふとした時にこういうセリフが頭をよぎるのです)。たまたま夫が外国人で、隣人が外国人だらけだから、そして自分の子にも外国のルーツがあって、夫も子どもも日本社会で対等な権利を得て生きていきたいから、外国人定住支援のボランティア活動やNPOを始めただけです。

外国人の祭りを企画する、という行為が、日本社会にどう受け止められるか、まざまざと考えさせられた出来事でした。

外国人の相談はやみません。彼らは、急に、いつでも、困りごとがあるのです。NPO活動を粛々とつづけていた時期でした。


【2020年、新型コロナウイルス流行と、日本で多様な人々が生きることについて】

リンクトゥミャンマーのミャンマー人定住支援活動新型コロナウイルスによる不景気、自宅でのステイホーム推進、海外と日本の渡航の制限により、外国人人材が不足した職場のひっ迫……2020年は、日本に住む人々の生活様式やこれまでの通念を覆す出来事がたくさん起きました。

人々の生活が変わることで、意識も変化します。「インターネットでの情報普及を媒介に、多くの人々が、多様な方々に目を向け、心を寄せるようになったのかもしれない」と個人的には感じています。

今回、在日ミャンマー人を支援するクラウドファンディングで、多くの方々よりご支援をいただきました。2年前に同じような定住支援のクラウドファンディングをして、共感を得られたか、分かりません。

私たちは、先進的なAI技術を駆使した支援をしているわけでもなければ、誰かスターがいて、客寄せパンダをしてくれる組織でもありません。ただ、隣人が困っていることに、オーダーメイドで支援をする、極めて古典的な人間の支え合いを行っている団体です。

「日本に外国人が来て、困っているなら、助けたい」

そう思う日本の方々が増えてきたことに、社会の変化を感じます。多様な存在を受け入れようとする、人々の意識の芽生えが感じられます。外国人を支援するボランティア活動を始めて8年、このような社会の変化を感じるのは、初めてのことです。

「多様な民族、国籍の人々が平和に仲良く暮らすこと」

を目指し、それを大っぴらに言える社会になるには、日本はあと10年はかかると思っていました。それまでにたくさんの文化的衝突と、外国人に対する日本人の反発があると予測していました。小さな衝突は、ほぼ毎日、日本のどこかで起こっているかもしれません。しかし、それを上回る「隣人を助けたい善意」が日本社会で増えてきたことを、驚きと嬉しさとともに受け止めています。この善意が、今後の日本社会を強くする鍵となることを信じています。


皆様、ご支援いただきまして、どうもありがとうございました。

引き続き、NPOリンクトゥミャンマーは、在日ミャンマー人と日本社会の接点をより良くするために、日本人とミャンマーとの接点を増やすために、活動を続けていきます。

当会の活動にご注目いただけましたら幸いです。


2020年8月18日

NPOリンクトゥミャンマー

理事長 深山沙衣子

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神奈川県横浜市金沢区並木1-17-13-206
日本ミャンマー支援機構気付
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