宗教学者/浄土真宗本願寺派如来寺住職「釈 徹宗 (しゃく・てっしゅう)」氏より、本プロジェクトに応援コメントをいただきました。
大仏という触媒による共振現象
その願いは各地で根を張り、その祈りは造形となってわき上がる―――。「大仏造立プロジェクト」は、人類の願い・祈りの元型に沿った取り組みでしょう。
新型コロナの感染拡大によって、私たちの社会は急激にスピードダウンしました。この問題に部外者はいません。すべての人が当事者です。なかなか見通しが立たない事態が続き、不安・怖れ・焦燥が社会を覆っています。しかし、社会の動きが遅くなったからこそ立ち上がるものがあります。
人類は五~六万年前あたりから、認知能力に大きな変化が起こりました。死者を埋葬し始め、壁画などの表現を始めます。その時期に、なんらかの認知能力のオーバーフロー(過剰)現象が起こったのでしょう。オーバーフローした認知能力は、さまざまな事象に対して流動的に機能します。宗教もアートも科学もこのエネルギーに突き動かされて発生したのです。そして、人間ならではの喜びの源泉もここにあり、人間ならではの苦悩もここから生じると言えます(ちなみに、仏教はこの源泉といかに向き合うかを説いてきました)。
感染症がもたらした危機状況において、「大仏造立プロジェクト」のような取り組みが立ち上がるのは、まさに人類の宗教やアートのアーキタイプ(元型)の賦活化だと思います。社会のスピードが遅くなり、日常が再構築される事態に直面したからこそ、ずっと底流していたものが動き始めたのでしょう。その動きと敏感に呼応したのが風間天心さん達なんでしょうね。
宗教とアートの有機的な躍動は、私たちの人間としての古層へと直結します。大仏という表現方法を触媒として、私たちの願いや祈りは共振現象を起こすのです。
釈 徹宗
釈 徹宗 (しゃく・てっしゅう)
日本の宗教学者・僧。浄土真宗本願寺派如来寺住職、相愛大学人文学部教授、特定非営利活動法人リライフ代表。専門は比較宗教思想・人間学。論文「不干斎ハビアン論」で涙骨賞優秀賞(第五回)、『落語に花咲く仏教』で河合隼雄学芸賞(第五回)、また仏教伝道文化賞・沼田奨励賞(第五十一回)を受賞している。著書に『法然親鸞一遍』など。