2018/12/31 16:19

人生を一緒に送りながら一歩前へという歩みを支えていく

 

『チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困』(新井直之、TOブックス,2014年)を読む

 

 本書は,2012年10月19日に放送されたNHK総合の特報首都圏「チャイルド・プア〜急増 苦しむ子どもたち〜」という番組を書籍化したものである。なぜ,子どもの貧困は見えにくく,その実態は広く知られてこなかったのか。私たちは,子どもの貧困を世間から見えにくくすることに,無意識に加担していないか。子どもを取り巻く大人たちが外に発信することをためらっているうちに,その中にいる子どもたちは,周りから気づかれることなく孤立し,苦しんでいたのではないか。本書は,子どもの貧困とは,そこにいる当事者や支援に携わる人たちだけの問題ではなく,この社会に生きるすべての大人に問われている問題であると指摘する。子どもの貧困は,当事者と支援者に閉じられた問題ではない。

 

 本書の取材は,NPO法人さいたまユースサポートネットの代表理事である青砥恭さんから始まる。NPO 法人さいたまユースサポートネットは,若年層を対象にした居場所づくりとしての「たまり場」という事業のほかに,生活保護世帯向けの学習支援教室を行っている。

 青砥さんたちが対応している子どもたちは,生活保護世帯の中でもわりとしっかりした家庭だと言う。少なくとも,子どもを学習教室に通わせたいという親の意思があるというのだ。だから,青砥さんたちに見えているのは,氷山の一角でしかなく,本当に苦しんでいる子どもたちは,もっと無数にいて,誰にも気づかれずに埋もれてしまっていると指摘する。(35頁,参照)

 NPO法人さいたまユースサポートネットの学習支援の特徴は,次の点にある。 

 一つには,子どもたちの学習を支援する教職志望の大学生たちが,複数の目で子どもたちを見守り支えている点である。子どもの様相は,たった一つではなく,見る人によっていろいろな面を持っている。大学生一人ひとりが子ども一人ひとりに丁寧に接して,情報を共有していくことが,学習支援では大切にされている。学習教室に参加している子どもたち一人ひとりの専用シートと子どもたちを見送った後に行われるミーティーングによって,複眼視点が機能しているのだ。(54頁,参照)

 二つには,子どもの成長を急がない点である。子どもの成長に寄り添う支援である。子どもたちの意欲をじっくり待ちながら,少しでもそういうものが出たら,一つずつみんなで拾い上げていく。

 「困難を抱えた子どもたちは,言葉で頑張れって言っても全然頑張れないんです。しょっちゅう会って,一緒に遊んで,ご飯食べて,一緒に悲しんだり喜んだりして,それで今日はがんばったね,明日も一緒にがんばろうって言う。励まし続けなきゃいけないんですよ。彼らが自分で頑張れるって自信をもって,自分のことを好きになってくれるまで,一緒に歩みながら,一緒に人生を送りながら支える,これに尽きるんですね。」(68頁)

こうした青砥さんの覚悟にあるように,学習支援は,子どもたちに独りじゃないということを実感させ続けていく営みである。青砥さんたちは,支援者同士がつながりをつくりながら,子どもが感じていること・見えていることを互いに発見し,子どもたちが自分自身を肯定できるまで寄り添うことで,子どもたち自身が孤立を解消していくところに,子どもの貧困を克服する筋道を見い出しているのである。

 子どもたちに,「あなたは独りじゃない」と伝えることは,その地域で一緒に生きていくことを選択することだ。本書は,「子どもの貧困」に向き合う学習支援とは何かを考えさせられた一冊となった。

 

(宮崎大学・竹内元)

 

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