私が本屋の活動内容を説明する時、たびたび「こども」というキーワードが登場します。
私が和室をライブラリースペースにしたいと思った時、ある場所が理想の姿として浮かびました。
その場所とは、石井桃子さんが主宰されていた「かつら文庫」です。
今回のシェア本屋と直接関係ないかもしれないのですが、少しその話をしたいと思います。
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まず私の話になってしまうのですが
昔から「こども」に関する仕事がしたいと思っていて
中学生のころは幼稚園の先生になりたいと思っていました。
(腰の持病があり、体育が禁止だったため諦めました)
大学ではこどもたちとキャンプをするサークルに所属し、
ほんの少しですが、幼稚園のボランティアにも参加しました。
社会人になってからも「ぷれいぱーく」というこどもと一緒に遊ぶ、
または見守るというボランティアに参加していました。
こんなふうに私が「こども」に関心を持ったのは、児童文学者石井桃子さんの
「大人になったあなたを支えるのはこども時代のあなたです」
という言葉がきっかけでした。
いつ出会ったのかはわからないのですが、出会って以来、ずっと心に住み続けている言葉です。
「人生観」といってもいいかもしれません。
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石井桃子さんは児童文学者として有名ですが
女性に選挙権がない時代に女性が自活できるようさまざまな取り組みを実践された方でもあります。
当時はまだ珍しかった海外留学の経験を経て、彼女はこども達のために「かつら文庫」を開きます。
かつら文庫では、海外絵本を日本語に訳し、こども達にとって心地よい日本語のリズムを追求し、
読み聞かせを重ね、こども達の表情を見たうえで書籍化を検討し、刊行されました。
『ちいさいおうち』も『うさこちゃん(ミッフィー)』も石井桃子さんが訳されたものです。
当時の日本の環境も大いにあると思うのですが、ここへは小さなこどももひとりで訪ねにくることがあったそうです。
親が見守っていないところで、こどもたちは自らかつら文庫へ足を運び、読みたい本を手に取る。
なかには、文字が読めないのにじぃーっと絵本を「読む」子も訪れていました。
ここでは、大人たちも積極的にこどもに関わることはありませんでした。
こどもたちひとりひとりが、本を読んで「冒険」する時間があったのです。
その冒険者のなかには、エッセイストとして活躍されている阿川佐和子さんもいらっしゃいました。
(私は彼女のユーモアのある文章が好きです。余談ですが
阿川さんは石井桃子さんが訳したことのある『くまのプーさん』を新訳で出されたこともあります)
こどもたちが自らの意思で選びとり、親のいないところで冒険の旅に出る。
それはとても豊かな体験で、こどものときしか得られない経験のように思えます。
今、そんな場所がとても少ないように思うのです。
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これは大人にも言えることなのですが、「本を読む」というのは
「自分と対話するための時間」でもあり、とてもぜいたくでゆとりある時間だと、私は思うのです。
心の中にあったもやもやを、本が代弁してくれたり
幸せな気持ちを優しくなでてくれたり
退屈な日常に刺激を与えてくれたり…
日常では得られない経験を本を通して得ることができ、
知らなかった世界や気づかなかった自分に会える。
今、両親が共働きで、放課後のスケジュールが詰まっているこども達も多いなか
自分と対話するゆとり時間をもった「こども時代」も過ごしてほしい。
そういう場所が、こどもが気軽に訪れることのできる場所(=町)にあったらいいな、と。
ここでは、貸出は行いません。
貸出をしない代わりに、予約待ちもありません。
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「ここに来れば、読みたい本が必ず読める!」
とわくわくしながら息せき切って走ってくるこどもがいてくれたらなぁ、
なんて妄想しながら、引き続き本屋作りに取り組みたいと思います。
もちろん、絵本や児童書以外のものも置きます。そして「こども向け」の飾りつけは一切なく
シンプルにどなたでも利用して頂けるような内装にする予定です。
憧れや理想としての姿はありますが、時代も場所も違うし、なにより運営者が違う。
そっくりそのまま同じものはできません。
シェアメンバーと一緒に取り組みながら、せんぱくBookbaseらしいやり方を目指していこうと思います(^^)