大学4年生の11月。
わたしは就活もろくにせず、ぼーっとしていた。
ほんとうにぼーっとしていた。
4月からの進路が決まっていないというのに。
働くのが嫌だったわけじゃない。
学生でいたかったわけでもない。
むしろ学生で居続けることが、自分を肯定できる最良の選択とは思っていなかったから
この「もやっとした状態」から早く抜け出すには
学生で居続けるのはなんか違うんだよな、と思っていた。
ただ、「これだ!」と直感で思えるものにまだ出会っていなかった。
「何を大切にして生きたいか」、わからずにいた。
そもそも「何を大切にして生きたいか」という質問自体浮かんでいなかった。
そんなぼーっとしている私に
「新潟で米屋をやる」という話が舞い込んできた。
「新潟で米屋をやる」
わけがわからない。
自分でも、例えば自分が米屋になって
どんなことになるのかさっぱり想像できていなかった。
なのに、「これだな」と思ってしまった。
直感で進路を決めるなんて。
しかもそれは就職じゃない。
周りからの反対がなかったわけではないし、
自分でも少し後ろめたさがあったのも事実だ。
コメタクを始めたばかりのころは
新卒で社会人として働く同期たちにどこか引け目を感じていたりもした。
でも今は、あのとき自分の直感を信じてよかったと思っている。
本当に新潟に来てよかったと、思っている。
コメタクの活動をはじめることになったとき
それを届けたい相手は「19歳の女の子なんだ」と思った。
じゃあ、「何を届けるのか」
それははっきりしていなかったけれど
届けたい何かがあることは、頭の中に浮かんでいた。
今、それが少しだけ言葉にできてきて
今の私が持っている言葉でそれを表現するなら
何か「あなたのままで、愛らしい。それだけでいい」
そんなふうな想いが伝わったらいいなと思ったのだ。
「19歳の女の子」というよりも
そのときイメージを重ねていたのは
「19歳の自分」だったのかもしれない。
19歳で大学に入って、22歳で卒業するまで、
4年間ずっと
「わたしは周りの子と比べてどう違うのか」
「わたしは周りの子より何ができるのか」
そんなことに縛られていた。
それなりの大学に入って
世間から見れば、幸福そうな子かもしれない。
でも実際は、
わたしより勉強ができる子は周りにたくさんいて
わたしよりかわいい子もたくさんいて
わたしよりおしゃれな子も
わたしより細い子も
わたしよりおもしろい子も
わたしより気遣い上手な子もたくさんいる中で
「わたしはほかの子に比べて何ができるのか」
それを見つけられなくて
うす曇りだった。
続かないダイエットをしてみたり
髪を染めてみたり
服を何着も買ったり
「何か変われるだろうか」と結局読み切らない本を買ったり。
いま振り返れば
「わたしはほかの子と比べて、何ができるのか」
その質問自体、聞かなくてもいいものだったのに。
そんな質問、必要ないのに。
わたしのままでいいのに。
でも
「あなたのままでいい」って
実際言われたら、くさいセリフみたいで笑っちゃっていたと思う。
「ほんとうに思ってんの?」って疑っていたと思う。
実際、心の底からそう思ってこう言ってくれるだろうなって人は
家族ぐらいしかイメージできなかった。
なのにいま、思えている。
内野で暮らして1年と4か月。
強く感じているのだ。
「わたしのままでいいんだろうなあ」と。
わたしのままで、「愛らしく」いれればそれでいいんだろうなあと。
「愛らしさ」は人の数分あって
それぞれ違う「愛らしさ」がある。
思わず声を出して笑ってしまう愛らしい人や
ぎゅっと抱きしめたくなる愛らしい人や
あとから思い出してクスクスと笑ってしまう愛らしい人
ふと愛らしさを感じる人もいる
年齢とか性別とか関係なく
「愛らしいなあ」と思ってしまう人に、
内野で暮らしたこの1年4か月でたくさん出会ってきた。
愛らしさは人と比べるものじゃなくて
その人しか持てないその人の魅力だって。
それは女の子にも言えること。
女の子にもそれぞれの「愛らしさ」があって
ほっそりとかふくよかとか
目が大きい小さいとか
勉強ができるとかできないとか
そういうものでは比べられない「愛らしさ」がある。
その「愛らしさ」の大切さをこの1年で気付かされた。
そして自分にも、わたししか持てない「愛らしさ」があることにも。
「愛らしい」大人にたくさん出会ってきたからだと思う。
まちの中の、親でもないのにあれこれ世話を焼いてくれるおじちゃんおばちゃん。
少し年上の、子育てをしている近所のお兄さんお姉さん。
上司とか先生とか、といかいう枠組みを取っ払った
中で人と過ごした1年と4か月だ。
学校でも会社でもない。
一つの内野というまちで気付いた。
愛らしいってだけで、それだけで十分いとおしい。
それに気づいたのだ。
わたしのまま愛らしくて、それだけでいい。
7月からはじめたクラウドファンディングでも、たくさんの愛らしさに触れた。
連絡もなしにこっそり支援してくれた友人
クラウドファンディングとか苦手なんで、と直接渡してくれたお兄さん
3000円も出せなかった!と2000円くれた男の子
授業の空きコマに暑いのに自転車を濃いで渡しに来てくれた女の子
これは旦那の!これは私の!とわざわざ別口でくださったご夫婦
もし無理そうだったら、俺まだ出すよ!と言ってくれたお兄さん
コメタクは3人メンバーだから、一人ずつに渡そう、と仲良しのおじさん
なんだかよくわかんなかったんで、勉強だと思って1万円くれた方も。
これだけじゃない。
138人もいるのだから。
一人一人、愛らしい。
渡してくれたときの言葉や、しぐさや表情が
インターネット越しに見える応援の言葉が、
うれしくて笑ってしまった。
これからできるこの空間も、
きっと関わる人みんなの愛らしさでつくっていくのだと思う。
わたしは大工仕事なんてできないから、きっと
いっぱい失敗すると思う。
「おいおい、ここなんでこんなにへたくそなんだ?」
って箇所ができちゃうかもしれない。
ププッと笑える場所にしたい。
「愛らしい」なあと思える場所にしたい。
この場所をつくるために協力してくれた人の愛らしさ
飯塚商店に昔から出入りしていたお客さんたちの愛らしさ
飯塚さんの、文意おばあちゃんの、従業員の長谷川さん、ひろこさん、のりこさんの
行く途中で出会う商店街のおじちゃんおばちゃんたちの愛らしさ
すべての人の愛らしさに
完成したその場所が
19歳の女の子に
「わたしのままで愛らしくて、それだけでいい」と感じてもらえるような
そんな場所になったらいい。
きっとその一人目は私なんだ。
コメタクが「届けたい」とずっと思っていた相手はわたし。
愛らしさを大切にして生きていきたい。
ご協力いただいたすべての皆様、本当にありがとうございました。
これからもよろしくお願いいたします。
つながる米屋 コメタク
代表 堀 愛梨