2005年5月の第25回日本登山医学シンポジウムの総会において、次の3項目の提案が満場一致で決議されたのである。すなわち、
1)富士山頂を高山病予防の基地にする。
2)富士山頂を高所順応のセンターにする。
3)富士山頂を高所医学研究のメッカにする。
6000m以上の高峰登山者の2.3%におよぶ遭難による高い致死率を出来る限り低減させるために高山病予防のために高所順応トレー二ングが不可欠であるとのコンセプトから富士山頂での高所順応の重要性が指摘される。
山本と浅野(2009)の”富士山測侯所を利用した短期間の高所トレー二ングの效果”において山頂での2泊3日滞在による高所順応により低酸素耐性の向上することを明らかにした。
浅野と内藤(2009)の”富士山頂短期滞在時の自律神経応答と高山病への鍼施術效果に関する研究”では、自律神経系の交感神経の亢進が高山病に起因していることが想定されることから副交感神経への刺激がこの予防回復に有効と考えられる。このための試みの一つとして、東洋医学の観点より"合谷”(ごうこく、拇指と一差し指の基部)を鍼通電刺激法(1Hz,15分間)により刺激し、動脈血酸素飽和度(SpO2)さらに心拍変動解析による自律神経応答を解析した。
短期滞在の学生および研究者9人、および3週間滞在の山頂班員3人の計12人について検討した結果、本刺激によりSpO2の上昇傾向が確認され高山病対策に貢献できる。(本実験中の写真を参照)
岡崎と浅野らは2011年より2014年にわたり御殿場と山頂での安静および3分間踏み台昇降運動時のSpO2、NIRSおよび経頭蓋ドプラー法による脳動脈血流量の変動比較を行った。この結果から脳血流量の増加が頭痛など高山病の誘因である可能性が明らかにされた。
ー高所順応トレー二ングの実施経緯ー
2008年8月 日本山岳協会高知岳連(市村隊長 以下隊員10人) 2泊3日滞在
2009年8月 日本山岳協会埼玉岳連(烏 隊長 以下隊員10人) 2泊3日滞在
日本山岳会青年部 2泊3日滞在
2010年7月 静岡市山岳連盟 (出利葉隊長 以下隊員13人) 2泊3日滞在
2013年8月〜2017年 ヒマラヤトレッキング隊(8〜10人) 1泊2日滞在
2019年8月 日本山岳会創立120周年記念登山エクワドル国チンブラソ峰登山隊
(渡邊 雄二隊長 以下隊員15人) 2泊3日滞在
以 上