新型コロナウイルスに世界中が苦しみ始めて2年以上たった今、多くの人がコロナの蔓延を恨み、一刻も早い収束を願っています。
しかし、本当にコロナはただの悪者なのでしょうか。私たちにネガティブなものしかもたらさないのでしょうか。コロナもきっと何かしらプラスの面も持ち合わせていると思った私は、主に東アフリカで活動する日本人から、コロナをポジティブにとらえる方法を学ぼうとしています。
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第12回目は、ルワンダ東部のニャガタレ郡カランガジで「ルワミッツ(Rwa-Mittu)」という食品会社を経営されている、木下一穂(きのしたかずほ)さんです。
木下さんは明治大学農学部を卒業後、飼料会社に3年半勤務し、その後千葉県の農家でトマト栽培に2年間従事します。非日常を体験したいと思った木下さんはその後、青年海外協力隊としてルワンダに渡航し、2013年1月から、トマトのビニールハウス栽培をしている農業組合のサポートを2年間行いました。そして、2015年にルワンダに戻り、ルワミッツを設立し、「世界に通用するルワンダ産の製品を作ること」を理念に、名前が示す通り(ルワミッツ=ルワンダ+はちみつ)、はちみつを中心とした製品を製造・販売されています。現在は養蜂・養豚・ナッツ生産を行い業者に売っているそうで、残念ながらお店には卸していないそうです。
協力隊時代の様子(写真最後列左から2番目)
木下さんにとってのコロナ下は、「農業の重要さを体感」する時期だそうです。
木下さんがこれまでお話を伺った方と少し違うのは、農業という第一次産業を行っていることです。農業は作物や家畜を育てるという、毎日のお世話が必須であり、食料を生産することであるため、コロナ下でも政府による規制の対象外でした。コロナ以前は周りにいた日本人の方たちと、サウナや食事を楽しんでいたそうですが、コロナの流行によってみんな一時帰国してしまいます。寂しくはあったものの、ちょうど仕事を本格的に進めないといけないと思い始めていた頃だったため、タイミングよく仕事に集中できたそうです。持っている時間を目いっぱい仕事に使うことが出来たことは、会社にとっては良かったと話します。会社にいる時間が増えた分、考える時間も増えたため、次のビジネス戦略などを立てやすくなったそうです。コロナ下で発生する問題も、6人いる従業員が木下さんをサポートしてくれたため、困ったことはほとんどありません。例えば、コロナ下で移動の制限がかかっている中、銀行に行ってお金をおろさないといけない時に、従業員が車を持つ知り合いとともに代わりに行ってくれる、などです。従業員も近所に住んでおり、全員が変わらず毎日出勤していたため、木下さんと従業員との関係性もより濃くなったそうです。
農業の様子
「コロナ下、人にとっての最大の幸せの一つである人との関わりがなくなり、人と関わるのが好きな人にとっては不幸な時期だったと思う。しかし自分は、仕事が一番であり、その仕事が問題なく、むしろより集中して出来たため、ネガティブなことがほとんどなかった」
木下さんはさらに、従業員たちは家族と過ごす時間が増えたため、彼らにとっても良かったのではと話されていました。子供が増えた人が多いことがそれを表しているかもしれませんね。
またコロナ下、モバイルマネーが主流になったことで、お金のやり取りに関して不正がなくなったことも良かったと言います。以前は、従業員や取引先とのお金のやり取りは現金でのみだったため、お金を落としたり計算が合わないなど、問題が起きていたそうです。しかし、モバイルマネーは履歴が残ったり送金が可能になったりと、管理がとても楽になったのです。
養蜂の様子
さらにコロナによって生まれたメリットとして、「仕事を失った人たちが働き口を探していたため、いつもよりは安く日雇い労働者を雇えたこと」「レモンとはちみつがコロナに効く食べ物として人気になったため、たくさんかつ高く売れたこと」「首都に住む人々が農業の大切さに気付き、田舎に農地を買い農業を始めたため、農地の価値が上がっていること」などもあったそうです。最後のメリットに関しては、木下さん自身も、田舎の人々は農業やってるため食べ物に困らず、コロナのダメージが全くなかったことを体感した、と話されていました。
また、木下さんはルワンダ全体に関するポジティブな変化も教えてくださいました。ルワンダではこれまで、JICAによる衛生教育が行われてきていました。しかし、手洗いの大切さが実感出来ない人々は習慣的に実行できず、その活動はあまり功を奏していなかったようです。しかしコロナが始まり、お店に入る前には必ず手洗いをしなければならなくなったことから、手洗いの習慣が一気に身についたと言います。衛生管理は木下さんの仕事にも生きており、例えば豚に注射した後は毎回注射器を洗わないといけません。しかし昔は、使ったらそのまま放置していました。しかし、衛生管理を学んだことで意識が変わり、きちんと注射器を洗うようになり、さらに身の周りを綺麗に保つようになっているそうです。
コロナ下で生活に大きな変化はなかった、と話す木下さんに、今後の予定を伺うと、「考えているだけだが、ルワンダでやっている養豚を日本でもやってみたい」と教えてくださいました。
養豚の様子
日本を含む先進国が、アフリカなどの途上国に来てビジネスをする目的に、進んだ技術を持ち込むことで、マーケットの上位に立ちやすいことがあります。例えば日本であれば、トヨタを始めとする車メーカーは、アフリカに大きい市場を持っています。しかし今、農業に関して世界的に原点回帰が起こっているそうです。というのも、これまで工業化・効率化して作物や家畜を育てていたため、その成長環境はあまり良くないものでした。特に家畜に関しては、効率を重視した高密度な飼育のため、過度に薬品が添加されています。動物のことを考えて育てなければならない、という考え方が出てきており、消費者も動物や環境に配慮したものを購入する人が増えているそうです。現在ルワンダでやっている農業は、実際は技術がなくて工業化出来ていないだけですが、正に今求められてる農業の在り方なのです。日本では、精米所で飼料にもなるたくさんの米ぬかが出ていますが、飼料に使えるにも関わらず処分されており、代わりにアメリカから輸入したトウモロコシを砕いて家畜に与えています。一方でルワンダでは、トウモロコシの皮や米ぬかなど、人間が食べないところを家畜に与えており、経済的かつ無駄のない、環境にも配慮した畜産を行っています。そのためむしろ、ルワンダの農業の方法が「最先端」ともいえる状況になっているのです。木下さんはこの流れに乗って、第2の農場(ブランチ)を日本で挑戦してみたいと言います。ルワンダ人の従業員が日本に来れば、研修して技術を身につけたり日本の農場に対してアドバイスする形がとれます。食に疑問を持つ人が増えている今、マーケットも期待できると言います。コロナのデメリットで、外国人が日本に入れないため、それが改善したらやってみたいと話してくださいました。実行に移すにはまだまだ課題が残っているそうですが、ぜひ実現させてほしいです!
木下さんからは、農業の大切さに気づかせていただきました。コロナ下だからこそ、農業は全くダメージを受けず、それどころかメリットがたくさん生まれています。それはやはり、人間にとって生きることに必要な食に直結する産業だからです。私もこれを機に、食について改めて見直したいなと思います。