早いもので、今年も残すところ2か月となってしまいましたが、いかがお過ごしでしょうか?今年はコロナであたふたしていたらあっという間に過ぎてしまいましたね。しかし、研究の方は着実と準備が進められています。10月中に間伐前の調査が終わったので、今月はいよいよ間伐が始まる予定です!
天然林の定義
さて今回は前回先延ばしにしてしまった天然林の機能についてご紹介いたします。その前に、天然林の定義を確認します。気候変動に関する取り決めが行われた京都議定書では、人工林と天然林について次のように定義されていました(※1)。
あっさりしすぎていて逆にイメージしづらいかもしれませんが、要は人が苗を植えたり種を播いたりして作った森が人工林。それ以外が天然林ということです。この定義に則ると、人工林の伐採跡地に自然の力で形成された森林は天然林ということになります。
天然林?原生林?
さて、ここで多くの人は今まで抱いていた天然林のイメージとの違いに違和感を覚えるのではないでしょうか?「天然林と言えば、人の手が全く入っていない森だと思っていた」そんな人が多いのではないでしょうか?「天然林」の定義は話す人や話題によって少しずつ変わってしまうので、それも無理はありません。しかし、一般的な定義としてはこのように設定されているのです。一方、皆さんが想像していた「全く人の手が加わっていない森林」のことは、「原生林」や「原始林」と呼ばれ、「天然林」の一部という位置づけになっています。
しかしこれらの森林は、現在の日本にはほとんど残っていません。例外的に屋久島や白神山地の一部、知床など人が立ち入ることが難しかった地域にわずかに残されているのみです。前々回ご紹介した通り、日本の森林は遠い昔からかなりの利用圧がかかっており、人の痕跡の無い森林などほとんどないのが原因です。ですが、原生林じゃなければ価値がないのかというとそうではありません。適度に人の手が加わった場所を好む植物は多数存在しますし、それに頼って生きている動物も沢山います。そのため、全てはバランスが大事で、どの森林をどこにどれだけ保全していくかが重要なのです。
天然林の機能
さて、ここまで来てようやく機能についてご紹介したいと思います。天然林の優れている機能は種多様性が高いことだと考えられています(※2)。人工林は一般的に少数の種を集中的に植栽するモノカルチャーであるため、林内の環境も単一化してしまいます。その結果、その環境に適した種しか生き残ることが出来なくなり、生物の種数が減少すると考えられています。一方で、天然林では自然条件に合わせて様々な樹種がランダムに分布することで、林内の環境にバリエーションが生じます。その結果、多様な環境に適した多様な種が生息できるようになると考えられています。これが天然林の代表的な機能です。
生物の多様性は安定性といった点で重要だと考えられています。これはモノカルチャー経済が問題になるのと同じ原理です。少数の商品作物に頼った経済は、その商品の需要が無くなったり、特異的な害虫が大発生したりすると破綻してしまいます。一方で、複数の商品作物を栽培していれば、ある作物が壊滅的な被害を受けても、他の作物でなんとか持ちこたえることが出来る可能性があります。また、ある作物が不人気の時は、別の作物が大人気ということもあります。そのため、複数の作物を栽培している方が全体として安定性が高まります。これと同じことが森林にも言えるのです。単一の樹種だけで形成された森林は、特定の災害や病虫害の被害に対し森林全体が被害を受けてしまいます。ところが、種数が多いとそれぞれの抵抗性が異なるため、森林全体が被害を受けるということは稀になるのです。
多様性の効果はこの他にも色々な視点から研究がされており、和歌山研究林でも関連した研究が行われています。興味のある方は少し調べてみると面白い話題が見つかるかもしれません。
さて、次回の話題はまだ決まっておりませんが、何か地域の話題を提供できればと思っております。どうぞお楽しみに!
※1:日本国. 2007. 京都議定書 3 条 3 及び 4 の下での LULUCF 活動の補足情報に関する報告書
※2:人工林内でも生物群集が成立しており、生物多様性の一部を支えていると考えられている(Lindenmayer&Hobbs 2004)。