伐倒練習
11月も半分が終わりました。平井では柚子の収穫が最盛期を迎えており、集落の中心部にあちこちで収穫された柚子が山積みとなっています。ときどき柚子の香りが漂ってきます。
本日からいよいよ間伐が始まりました。今回は伐倒する量がかなり多くなるので、普段伐倒に関わっていないスタッフの方にも手伝っていただくことになっています。そのため、最初から次々と伐倒するのではなく、まずは伐倒の練習から始めました。この伐倒が想像以上に難しい作業です。
森の中で伐倒した木を思い通りの方向に倒せないと、倒そうとした木が他の木に引っかかるなどして完全に倒れないことがあります。この状態をかかり木と呼び、この処理が伐倒作業の中で最も危険と言われています。2019年、林業労働災害において33名の方が亡くなられておりますが、このうち6件はかかり木にまつわる事故でした(※1)。したがって、かかり木を生じさせないことは労働災害を発生させないために非常に重要です。そこで必要となるのが、思い通りの方向に木を倒す技術です。
木を思い通りの方向へ切る際は、受口という切込みを先に入れます。この受口がある側が倒す方向です。倒したい方向に対し直角になるように受口をいれ、角度は30~45°、切込みの深さは直径の1/3~1/4にします。それが終わると今度は逆側に追口を入れます。これは受口の開口部の下から2/3の高さで平行にいれる切込みです。受口と追口の間をツルと呼び、直径に対し1/10残すのが理想とされています。ここまで来たら追口側から楔を入れると受口の方へ安全に倒すことが出来ます。
…と文章で書くのは簡単ですが、これが本当に難しい作業です。受口の下底は水平に切らなければ、思い通りの方向へまっすぐに倒れませんが、慣れないと水平で切っているつもりでも斜めになってしまいます。伐倒に関してベテランの千井さん曰く、‶伐倒はスポーツ” らしく、体の使い方を実践で覚えていくものらしいです。指導風景も「腰を落として」とか「肘の角度が…」とか、何か武道の稽古のように聞こえてきました。
さて、スポーツでも時々世代交代が失敗したとか成功したとか話題になりますが、伐倒がスポーツならば林業ではどうなのでしょうか?林業従事者の平均年齢は2015年時点で52.4歳で全産業平均の46.9歳と比べると高い値です。しかし、全産業における若年者の割合が減少するなかで、林業では2010年以降横ばいで推移しており、林業従事者は若返り傾向にあると言えます(※2)。
若返りの傾向は林業にとって嬉しいニュースではありますが、その一方で適切な技術を持った労働者の育成が今後の課題にもなっています。新しい技術は積極的に取り入れつつ、古くから培われてきた技術も融合した、高度な技術が継承されていくと良いですね。
※1:林業・木材製造業労働災害防止協会 林業労働災害(死亡災害)速報一覧
※2:林野庁 令和元年度 森林・林業白書