夜の森に光生き物たち
こんにちは。気付いたら梅雨入りして雨続きの日々になりました。平井を含む熊野一体は日本有数の多雨地域で、バケツをひっくり返したような雨が一日中続くこともしばしばあります。雨続きだと山に入るのも億劫になってしまいがちですが、この時期、山の中ではひっそりと光る生き物が出てきます。
その一つが表紙画像のシイノトモシビタケです。スダジイの倒木に発生するキノコで、紀伊半島には日本一と言われる群生地があります。月明りで見えなくなってしまうぐらい僅かな光ですが、ぼおっと暗闇に浮かび上がる姿は目を見張るものがあります。
また、清流だらけの古座川流域には蛍の群生地もちらほら。今まで見たことのない大群が小川の上を飛び交っており、さながら天の川のようです。都会のホタル観賞会のように行列に並ぶ必要もなく、この景色を独り占めできるので最高の贅沢をしている気分でした。
間伐した場所の近くではコアジサイが咲いていました。普通のアジサイよりも小柄なこちらの花は、もちろん光ることはありません。しかし、この花が好きな研究林の職員さん曰く、「薄暗い中で見ると花がボォッ浮かび上がる」そうです。言われてみれば、湿っぽい立体感が景色の中から花を際立たせています。こちらもこの季節ならではの楽しみですね。
実生の天敵
前回、Janzen-Connell仮説についてご紹介しました。Janzen-Connell仮説の成立には、母樹付近で実生や種子の天敵密度が高まる必要がありましたね。では、実生や種子の天敵とはどのようなものなのでしょうか?樹木と考えるとイメージしにくいかもしれませんが、野菜で考えるといかがでしょうか?例えばアブラムシは葉や茎に寄生し、汁を吸うことで苗を枯らしてしまいますね。また、うどんこ病や立ち枯れ病、根腐れ病など土壌や空気が媒介する病原菌も苗を枯らしてしまうことがあります。さらに近年は山から下りてきたシカやサルが農作物を食べてしまい苗の成長や生存を阻害しています。
樹木の実生も基本的に同じものが天敵となります。実際に、前回ご紹介したSeiwa(2008)の論文でもウワミズザクラの枯死因が調査されています。それが次の2つグラフです。上のグラフは季節ごとの枯死因の変化、下のグラフは母樹からの距離による枯死因の変化です。Physicalは物理的破損、Vertabratesはシカなどの脊椎動物による食害、Invertabratesは昆虫など無脊椎動物による食害、Leaf diseaseは主に空気感染性の葉の病害、Damping-offは立ち枯れ病など土壌感染性の病害です。
このグラフを見てみると、東北の温帯林ではDamping-offやInvertebratesが主な枯死因となっており、特に梅雨時期にはDamping-offの影響力が大きいことが分かります。このSeiwa(2008)から、僕の研究では土壌感染性病原菌の天敵としての役割に注目することにしました。
次回からはこの「土壌」に注目した実験についてご紹介したいと思います。
参考文献
・Seiwa Kenji et al. 2008. Pathogen attack and spatial patterns of juvenile mortality and growth in a temperate tree, Prunus grayana. CANADIAN JOURNAL OF FOREST RESEARCH 38: 2445–2454