2021/06/06 16:34

「それで、志望の動機は?」


「えっと、先日の母艦級の移動……ご存知ですよね」


目の前に座る小柄な少女――HAGである彼女が言うそれは、私たちが「炉」を入手するきっかけになった出来事だ。

「母艦級」と呼ばれる超大型の機獣はその巨体ゆえ、その一挙手一投足は余りにも多くの事柄に変化をもたらす。

それによって解放される場所もあれば同時に、軌道上にあったことで消滅する場所も、新たに支配下に置かれることになる場所もある。

ただでさえ文明崩壊後の力のない人類に、それを御するのは到底不可能なのだ。


「あれのおかげで働いていた工場ごと居住区が消滅してしまいまして、工場を持つフォルダに一括登録されていたHAGはみんな指揮喪失状態に陥りました。」


どうも彼女もその被害者らしい。


「こちらでスタッフを募集されていると聞いたので、今後のためにもお仕事を頂けたらなと思いまして」


「なるほど……それは災難でしたね」


「シリアルなどはそちらに出力してありますので、ご確認ください」

予め少女から渡されていた書類の束には、複雑な文字や記号が羅列されている。

これは所謂各HAGの履歴書で、型番、生産工場、販売代理店や起動年数など、とにかく様々な情報が記載されたものだ。

その殆どはこの世界において既に意味を失ったものではあるが、中には特に重要視される項目がある。


「えっとミド……ちゃんは、第二世代のHAGなんですね」


「はい、なのであまり戦闘などではお役に立てないかもしれませんが……」


HAGには大きく分けて3つの世代が存在する。

旧人類の娯楽「ウォーゲーム」のためにデザインされた多種多様な戦闘用玩具の中、一部のマニア向けに発売され、その少女の姿が好評を呼び一大ブームとなった「第一世代」。

そのヒットを受けて各社がこぞって少女型へ新規参入し「HeavyArmedGirl」、つまりは「HAG」の名前が初めて付けられた「第二世代」。

そして「第三世代」は文明崩壊前、最もHAGが栄えた時代。

少女型兵器の技術は、軍事転用をも視野に入れられるほど成熟していた。

現在、各勢力がメインの戦力として運用を行う、最も数が多く、高い出力を誇る"最新型"だ。


第二世代のHAGは規格化競争の影響下にあり、背部コネクタの形状やニューロモーフの構造、オペレーションシステムの戦闘適正等、製造会社や生産時期によってばらつきがある。

少女自らが言う通り、彼女はお世辞にも"今"の戦闘で第一線に立つのは難しいだろう。


「とはいえ、今は少しでも人手が欲しい所なんですよね。」


「それでは……」


「はい、採用とさせて頂きます」


「あ、ありがとうございます!」


とは言うものの、採用は初めから決まっていた。

現状この勢力には、私とマスター、そして炉に関する情報提供者でもある「Dr.Y」と名乗る技術者しか所属していない。

炉を手に入れたとはいえ、それを他の勢力に知られれば真っ先に略奪に遭うことになるだろう。

この世界で生き残るためには炉を手に入れるだけではなく、それを護る力も同時に持たなくてはならないのだ。



――数日後


「クラリテさん!これとっても楽しいですね!」


小型の機獣を相手取り、火炎放射器を構える少女は嬉々とした表情でトリガーを引き続ける。


「ミドちゃん、危ないからこっち向けちゃダメだよ」


「あっ、ごめんなさいーっ」

あれからも私たちは戦力増強のために仲間の募集を続けつつ、炉の所有を隠すため、通常の弱小フォルダと同じように活動を行なっている。

今日はマスターの指揮のもと、旧市街地区画まで小型機獣の討伐任務に出向いている。

連合秩序のライフラインを司る大規模組織"ルート"の一つである「人類保全組合」が各勢力向けに出している討伐任務は、戦うことを選んだ人々が生きるために必要な"お仕事"なのだ。


「残存機獣ナシ……これで今日の任務は完了だね」


「はい!何か使えそうなもの探してきます~」


これの遂行によって通貨や食糧等の生活必需品を得られ、私たちHAGのメンテナンスや弾薬、資材等の補給も可能となる。

結果的に人々を襲い文明を捕食する機獣を減らすことにも繋がるため、ほぼ全ての勢力がこのシステムに組み込まれている。

なお、機獣から手に入る資材やデータは請負勢力が自由に取り扱うことができるため、Dr.Yからはそれらの収集の指示も受けていたりする。


私は手持ちの高周波ナイフで手早く、こぶしほどの大きさの機獣のコアユニットと、その付近に格納されたチップ状の記憶領域を採取する。


「コアは死んでる……けど、メモリは大丈夫っぽい、かな」


「こっちもコアはダメみたいですねー。でも、討伐の証拠として回収するんでしたっけ?」


「そうだよ。破片でもいいから取れるだけ採取してね」


同じように回収作業を行なったミドと共に、いくつかの戦利品を抱えて拠点へ向かう。


「はぁ、疲れましたね。私、もうお腹ぺこぺこです……」


「私も。帰って洗浄したら、みんなでご飯にしようね。」


「わーい!楽しみです~!」


HAGに食事は必要ない。

ただ人格は人間のそれを模しているため、食事によって気力を回復させる事が可能で、多くのHAGにはそのための機能が搭載されている。


今日のご飯は何にしようかな。


そんなことを考えながら、コンクリートと金属の散乱する、荒れた鋪道を歩く。




続く

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