果たして我々の目は開いているのか……?
コロナ禍の嵐が吹き荒れる中、東日本大震災そして福島原発事故から10年を迎える今。
果たして我々はあの日の災いを後世に語り紡いでいけるのか……?
もやい展の「もやい」は漁船の荒縄の結び方を指しますが、それが転じて共同作業を意味します。水俣病により地域分断に苦しんだ水俣地域の方々は、昔の共同体のような相手を認め助け合う関係を取り戻そうと「もやい直し運動」を行います。あらゆる立場の人々がもやい結びのコブのように一つの目的で結ばれれば、新しい価値観が生まれるのではないか……。水俣での惨禍は「水俣学」というひとつの学問にまで昇華して、後世に重要なメッセージを語り紡いでいます。それはかの地の人々が協同を重んじ目を開けて真摯に惨禍と向き合い未来を模索しながら表現を続けた賜物なのかもしれません。
3.11と福島原発事故は我々の社会に様々な分断をもたらしました。しかしその一方で縁もゆかりもなかった人々が被災を憂うる心一つでたくさん繋がっていったのも事実です。そのひとつひとつのつながりが大きな協同といううねりとなれば、あの未曾有の災いを未来へと語り紡いでいけるかもしれません。10年を経て薄れゆく記憶の中で、アート表現ができる役割はそのつながりの端緒をみなさんにお届けすることだと考えています。そう、力強く大きな「もやい」をつくる第一歩です。
もやい展は2017年の東京・練馬区立美術館、2019年の石川・金沢21世紀美術館と場所を変え継続してまいりました。絵画、彫刻を始めとした芸術作品を軸に音楽、言葉、身体表現など様々な表現が混じり合い、さらに「関わってくださった方全てがアーチストだ」との考えのもと、設営に参加してくださった方をはじめ来場者の皆さんの大きな力添えも加わった渾然一体となった空間は、一つの大きな表現を生み出してきたと思っています。
そして2021年春、東京。我々の表現が広く世界の人々の目を開け続けさせ、未来へとつなぐ新しい価値観のゆりかごとなってくれることを心から願います。
もやい展実行委員会代表 中筋純
これまでのご支援、厚く御礼申し上げます。