2021/01/22 10:14

みなさん、こんにちは。茨城県潮来市にあるお寺、潮音寺の住職・村上定運です。

四季折々の花を楽しめるお寺として、地域のみなさまと共に歩んできた潮音寺。このお寺は奈良県にある薬師寺の別院ですが、本山である薬師寺にも花にちなんだ行事があります。

例年、3月末に薬師寺で行われる「修二会(しゅにえ)」は、10名の僧侶が1週間に渡って国家の繁栄と五穀豊穣、万民豊楽を祈る伝統行事です。10種類の造花を飾ることから、通称「花会式(はなえしき)」とも呼ばれています。

私も薬師寺のお坊さんとして、行事の間ずっと修行する「連行衆」やそのお世話係を務め、毎年必ず花会式に関わってきました。そのなかで、忘れられない場面を経験しています。

◆震災の記憶をよみがえらせた「花は咲く」

それは2011年の東日本大震災から数年後、震災の傷も少しずつ癒えてきたところに開催された花会式でのことです。そこで、奉納演奏として震災復興ソング「花は咲く」が歌われていました。

その歌声を聞いたとき、徐々に記憶から薄れていた震災当時の状況や光景が一気に頭に浮かんできたのです。

震災が起こったのは、父の手術が行われている真っ最中。父の病室に飾られたお花ばかり見つめる日々のなか、自分自身も学業とお寺での活動の両立がうまくいかず、行く先に大きな壁を感じていた時期でした。

自分も親も、そして日本も大きな困難に直面しているなか、多くの人に支えてもらい、苦しい日々をなんとか乗り越えてきました。周囲の助けもあり、わたしは大学院を卒業して本格的に奈良本山での修行を再開し、お坊さんの道へ。父もおかげさまで無事助かりました。

たくさんの花が供えられた薬師寺で「花は咲く」という歌を聞いたとき、そんな震災直後の状況がよみがえり、私は涙が止まりませんでした。その経験からこの歌には深い思い入れがあり、今回のプロジェクトにも「花は咲く」と大きく掲げています。

◆受けた恩を次の人へ

震災当時、お世話になっていた先輩に感謝を伝えたところ、こんなことを言われました。「もし恩義を感じているのであれば、それを次に困っている人たちに返しなさい」と。

これは、仏教の教えの1つである「回向(えこう:自分が積んだ功徳を他の人に回し向けること)」にも繋がっていると思います。

「花あかり」も、こうした言葉や教えに影響を受けて企画されています。震災からの復興を支援していただいたご恩を、コロナ禍で苦しむお花業界へ。恩を巡らせることが、支えてくださった方々へのお礼にも繋がると考えています。

花あかり当日には、今回の祈りの趣旨に強く共感してくださったテノール歌手・秋川雅史さんによる「花は咲く」の奉納演奏も行われる予定です。現地に行くのは難しい、という方はぜひ配信から参加していただき、心を1つに祈りを捧げましょう。

今回は、トップ画像にも使われている「花は咲く」という言葉についてお伝えしました。次回は、花あかりでも実施される潮音寺の伝統行事「万燈会(まんとうえ)」についてご紹介していきます。