先月のことになりますが、QUEST CUPの審査員を今年も引き受けました。彼らの溌剌とした発表を、感心したり、ほくそ笑んだり、ときに心の中で「おいおい」とツッコミを入れながら聞いていました。そして、その間、3日前に届いた書籍原稿のことを考えていました。
原稿の届け主は、株式会社ロジカ・エデュケーションの関さん。LINE entry「みんなの学習」でもおなじみのロジカ式教材をご提供いただいている会社の社長さんです。関さんがこの度、本を出されるということで、執筆された原稿をいち早く送っていただいたのです。その一部を少し紹介します。
冒頭部分は、関さんの生い立ちについて記されていました。大阪で生まれるも、小学6年生のとき北海道の士幌町という小さな町に家族で移住した、「第1章 著者とプログラミング」はそこから始まります。厳しい自然環境の中、「ごくごく平凡な」とご本人が語る中学校時代。勉強は嫌い、漫画とゲームが好き、というよくある学生時代だったようです。が、その中学校卒業間際に、関さんは突然、プログラマーという職業に強く惹かれます。
プログラミングに惹かれたのではなくプログラマーに惹かれたのです。この部分はとても重要です。
関さんは高校に入学後、本屋さんで「Java」の入門書を買ってきて、その本に書かれているコードをひたすら入力し、実行を繰り返しました。最初は何度も挫けそうになりながらも、あるときからプログラミングが楽しくて仕方なくなり、ついにはフリーのアプリを作っては発表するようになるほど、プログラミングの腕を上げていきました。
QUEST CUPの審査の話に戻りましょう。若い人たちのアイデアは、お世辞にも洗練されたものとは言えません。はっきり言って「雑」であることもしばしばです。しかしながら、その粗野な思いつきの深淵をのぞくと、現実へのぞっとするような洞察力が垣間見えることがあります。そして、さらによく観察すると、そこには自身の「なりたい姿」や「やりたいこと」が見えてきます。
子どもたちはただ面白がっているわけではなく、そこに彼らの将来の願望がリンクしていることを私たちは押さえておく必要があると思います。サッカーが楽しいからサッカー選手になりたいのではなく、サッカー選手になりたい、だからサッカーを上手くなりたい、続けたい、続けるから楽しいのだ、と。
ブラックスワン賞(デジタルハリウッド大学賞)に選んだのは、歩くだけでポイントが貯まっていき、それがリアルな価値に交換できるというとてもユニークな企画です。こんなアプリがあればいいなあという「希望」と、その仕組みの中で自身は何をやりたいという「願望」が見事に融合されていました。関さんがプログラマーに惹かれたというエピソードを思わず思い出させます。まず、憧れの場所に自分を置いてみる、それが若い人たちのスタート地点なのだと、はっとさせられたのです。
関さんは高校卒業後、本格的に職業プログラマーとしての仕事を開始します。そこからの怒濤の続きは、ぜひこの「きらめく子に育てるプログラミング教育のパワー」をお読みください。書籍のタイトルどおり、「天才プログラマー」の称号を持つ関さんが、自身の体験を元にプログラミング教育のあり方・方法を、とてもやさしい文章で説いてくれます。
子どもたちの「こうなりたい」という思いに気づいたとき、私たちはどうすればいいか。関さんの書かれた本はそんなときにヒントを与えてくれる一冊です。
デジタルハリウッド大学教授 / LINEみらい財団
福岡 俊弘
1957年生。「週刊アスキー」編集長、総編集長を経て、2017年よりプログラミング教育に携わる。
今年4月からLINE entry教材編集チームに参加。
LINE entry ブログより抜粋
http://line-entry-blog.line.me/archives/8982993.html