新村葉月
街では様々な事象が日々現れては消えていき、都市生活者達(私含め)は目まぐるしい変化の中で生きることを余儀なくされる。昨今の情報社会も相まって、膨大な情報に曝され続ける私たちは、瑣末な事象をどんどん忘れて生きていく。
しかし私たち自身と、私たちの住むこの世界を形作るのは、真っ先に忘れ去られてしまうような、名もなき時間、事象、人々の行為の集積である。そういった小さな変化への気づきが、大きな社会の流れの中で揺らぐ私たちの存在を確かなものにしてくれると考えている。
日頃よりライフワークとして街の観察を行ない、日常に起こる些細な事象を拾って撮影し、記録している。建設中のビルの工事現場や、商店街のごみ捨て場など、一部は定点観察を行ないつつも観察対象は限定せず活動しているが、中でも街の壁のテクスチャーに関しては特に注力して観察している。
壁の表面には、人々がそこに居た痕跡とその時の自然環境がない交ぜになって、街の片隅で起きた一瞬一瞬が記録されている。そしてその一瞬を目撃した私自身についてもまた、確かにその場所に存在した事実が担保されるからである。
そうして記録した壁のテクスチャーをアイデアソースとして、その表層の成り立ちに思いを馳せながら、キャンバス上で再演することを試みている。キャンバスには主に鉄板を使用し、また画材にもペンキやラッカースプレーなどの工業製品を使用することで、鉄錆による風化やペンキの劣化等も、街の壁の素材感そのままに表現している。
<展覧会歴>
2017
「artstream2017」(大丸心斎橋劇場/大阪)【FM802/digmeout賞】
2019
「art start up 100」(代官山ヒルサイドフォーラムF棟/東京)
2020
個展「Unpredictable X」(アトリエ三月/大阪)
「ART OSAKA WALL by APCA」(山川ビル/大阪)