「羊・ひつじ・ヒツジ…」
ただいま「羊の本」、文章がおおむね出揃ったところ。
これから写真イラストをつき合せ、表記や語句の統一作業に入っています。
で、で、で…大難関につまずいてしまった。
「羊」をどのように表記にするか。
たいへんなことです、なにしろこの本の表題ですから…。
「羊」「ひつじ」「ヒツジ」。
畜産の専門書を見れば「緬羊」もしくは「めん羊」。
歴史をさかのぼれば「綿羊」。
さらには「さいのこま」まで出てきました。
日本での羊の認識は時代によって変わっていて、言葉を見るだけでも羊に何を求めていたのかがわかります。
明治時代は、軍服や官服の原料として、羊から羊毛が欲しくて「緬羊」としていました。
その前の江戸時代には、『古今要覧稿』(今で言う百科事典のような本)の中に「綿羊」という記載が出てきます。「…牡鹿もしくは犬のごとく…此の毛をかりて羅哆絨(ラシャ)を製する」とあります。要するに毛が採れる珍奇な動物くらいの感覚でしょうか。
さらに奈良時代までさかのぼると、羊とカモシカは、文献上は判然としなくなってしまう…。日本人にとって羊は、たまに大陸から献上される、ほとんど架空の動物に近かったことがわかります。
さて戦前戦後、とりわけここ20~30年の間に、「羊飼い」を名乗る人が、それに糸を紡ぐ「スピナー」が現れ、さらに「ホームスパン」という言葉が一般にも知られるようになってきました。これは取りも直さず未だかつて日本には無かった、「羊と羊毛の文化」が存在しているということではないでしょうか。
わー…えらいことに気が付いてしまった…。
改めて、「今の日本」に感動しているこのごろです。
本出 ますみ