2022/03/16 19:00

3月5日にソウレッジではゲストを迎え、国際女性デーに合わせてイベントを行いました!世界各国でこの日のために様々な活動が行われていますが、ソウレッジではどのような活動が行われたのか、こちらのページではそのイベントレポートをしております。


3月8日は国際女性デー。「性教育への最初の1歩を届ける」を理念にしている一般社団法人ソウレッジが「国際女性デーに考える『若者の困窮と性の課題』」と題し、2日間のオンラインイベントを開催しました。1日目のテーマは『性教育は、私たちの未来をどう変えるのか』。様々な専門家やアクティビストがゲストとして登壇し、ディスカッション形式で現在の性教育について議論を交わしました。


ゲスト一覧:

[登壇者(順不同)]

・福田和子(#なんでないのプロジェクト)

・中島かおり(特定非営利活動法人ピッコラーレ)

・鶴田七瀬(一般社団法人ソウレッジ)

・辻愛沙子(株式会社arca)


鶴田七瀬(以下、つるたま):3月8日の国際女性デーは、女性の権利、政治的、経済的分野への参加を盛り上げていくために、国連が制定しました。日本でもウィメンズマーチなど、さまざまな催しが企画されています。今日のイベントの中で、身体的な性差について話すときに女性というワードが出てくると思いますが、トランスジェンダー女性やノンバイナリーの方も含め、すべての女性が自分らしく生きられる社会のあり方について考えるお時間にできたらいいなと思っています。


さて、性と生殖に関する健康と権利を「SRHR」と言いますが、日本はジェンダーギャップ指120位という数字が表すように、世界の中でも女性の性と生殖に関する自己決定の概念が、十分浸透していない国の一つといえます。その中でも、特に自己決定が尊重されづらい立場にいるのが若者だと考えておりまして、今日はそのテーマについて話していきたいなと思っております。


また、緊急避妊薬の話をこのあとしていきますが、世間的には見えにくい課題だけれど、実は身近なんじゃないかなと私は思っているので、服用したことがある方がどれぐらいいるのか、アンケートにお答えいただければ幸いです。


今日は専門家の方や、活動家の方にお越しいただき、課題にどう向き合っていけばいいのか、どう行動していくことができるのかを考えていきたいなと思っています。女性の性と生殖に関する権利と性教育という、切っても切り離せないテーマについて、一緒に考えていく登壇者の皆さんをご紹介します。


自分でこの妊娠をどうにかしたいと思っても、決められないという状況が大きく影響しています。

中島かおり(以下、中島さん):特定非営利活動法人ピッコラーレ代表をしております。助産師として、孤立している女性が誰かと繋がって、幸せに生きていくことができる社会というのを目指して活動をしています。



「コインロッカーで生まれたばかりの赤ちゃんが見つかった」というニュースを見たことがあると思います。皆さんはそれを見てどう思われますか?ご存知の通り、虐待死で1番多いのは、生まれた日に亡くなっている赤ちゃんです。妊婦も妊婦検診に行っていない、母子手帳をもらいに行けずに本当にずっと1人。これは変わらず報告をされていて、私たちの国が児童虐待死を減らすことができていないということなんですね。今、色んな制度が国にあるんだけど、そういうお母さんたちとつながることができない国だといえます。


ピッコラーレでは、このお母さんたちと繋がることができないかと思い、にんしんSOSを立ち上げました。今は埼玉、千葉、東京に窓口を設置しています。ここでは妊娠を決めていくプロセスを支えたいと思って、居場所として都内におうちを借りて、妊娠何週からでも、そして妊娠をどうするのかというのを決めるための、時間と空間を確保できるような場所を、別団体と共同で運営をしています。


2021年1月に、これまで相談頂いた内容を、「妊娠葛藤白書」という形で、分類してまとめたものを出しています。私達が相談者さんから毎日聞き続けていることは全然知られていなくて「これは可視化する必要がある」と。相談にきた女の子が、自分を透明人間みたいと言っていたんですね。「誰からも見つけてもらえない、ここに居るのに」と。


つるたま:調査がすごいですよね。読んでいて感動して、こういうのをできる団体を作りたいと思いました。


中島さん:なぜ妊娠で葛藤するという状態になってしまうのか。蜘蛛の巣のように要素が散りばめられている中で、がんじがらめになって、死ぬしかないというところまで追い込まれてしまっていることが、白書を編纂する中で見えてきました。その一つ一つはその人個人によるものというより、社会の不備がすごく大きい。予期せぬ妊娠をしたとしても社会資本がしっかりあればなんとかなる人がいるんだけど、一方でどうしようもなくなっちゃうという人がいる、すごく不公平な状況が今の日本。


辻愛沙子(以下、辻さん):例えば、どのような要素があるんですか?


中島さん:自分でこの妊娠をどうにかしたいと思っても、決められないという状況が大きく影響しています。避妊をしたいと思ってもできない状況にあるとか、教育を十分受けられていないとか、あと暴力や貧困、妊娠をする前から抱えている課題もあります。社会の中のシステムが妊娠葛藤の状態を生み出しているのではないか、つまりSRHRが大事にされる社会ではないということです。SRHRは自分の体のことは自分で決めるということ。SRHRは全てのジェンダーに関わることだから、実は女性だけのものではなくて、全てのジェンダーの人のものなのですよね。でも、日本ではSRHRに関する法律はないんです。憲法しかない。 児童福祉法の改正や、女性新法を作ろうと言っているので、なんとかSRHRの概念を保障することを入れてほしいって思っているので、今日見ていただいている皆さんも、一緒に声をあげていただけたら嬉しいなと思っています。


それから、SRHRで大事なのは必要な医療が受けられるとか、教育が受けられるとか、あと自分で決めるということが中心にあるのですが、自分で決めるってどうですか?妊娠に関することをいきなり自分で決めてと言われても、大きな自己決定ですよね。


辻さん:知識が無いと余計に難しい……。


中島さん:そうですよね。それに、小さな時からあなたはどうしたい?と聞かれたり、同意をしてからアクションをしていく、選んでいく、そういう小さな経験の積み重ねがない中で、いきなり妊娠した時に決めてと言われても、すごく難しいと思います。選択肢がある事と選びとる土台の部分が両方必要だなと思っています。


そして、何を選んだかによって居場所を分断しないことも重要です 中絶、出産どちらを選んでもここに居ていいんです。産む人のための場所ではなくて、利用する子が自分でここにいたいと思えばいられる場所。育てないのはよくないとか、中絶がよくないとかっていう社会からのスティグマ(※)を変えたいと私たちは願っているから、小さな潮溜まりのような居場所であっても、その選択を尊重して使ってもらえるようにしたい。その代わり葛藤がすごいんですけどね。苦しくなったりね。


※スティグマ…間違った認識や根拠のない認識による差別や偏見。汚名。烙印。


辻さん:社会の中で生きるって、自分の意思だけで決められることばかりじゃないですよね。この選択をしたら周りからどう思われるだろうとか、家族も同じように見られるんじゃないかとか。この選択をしたら今の居場所にいられなくなってしまうと思うと、本当にフェアな状態で選べないですよね。


中島さん:同じ年齢であっても妊娠や中絶、出産に関わる事は、一人ひとり本当に違う経験で、それまでの経験の影響を受けるし、その時の状況によって何を選ぶかは違ってきます。なおかつ性に関することは相手がいることだから、思い通りにはならないですよね。自分がこうしたいと思ったときにそうなるとも限らない、そういう前提がある中で、やっぱりSRHRはすごく大事だなと、居場所の面でもそういったことを体現する場所にしたいと思っています。


つるたま:では、次に辻愛沙子さんお願いします。


辻さん:私は「クリエイティブ・アクティビズム」という言葉を掲げているクリエイティブの会社arcaを経営しています。分かりやすく言うと、広告やテレビCM、映像を作ることもあれば、企業が新しい商品を出す際にプロダクトのネーミングや、ロゴ、パッケージデザインといった外側のデザインから、それをどう消費者の方に届けていくのかをクライアントさんと一緒に考えることもあります。商業施設のコンセプトや内装を作ることもありますね。


つるたま:広告って、商品やサービスについて大衆に伝えるだけではなく、関心のない人にも興味を持ってもらったり、社会へ問題提起をしたり、様々な効果や目的がありますよね。今日はそのあたりのお話もお伺いできればと思います。


では、最後に福田和子さんお願いします。


日本では、性と生殖に関する健康と権利が、守りたくても守れない状況にいるなということを感じて

福田和子(以下、福田さん):福田和子と申します。私は遊廓や近代公娼制度について大学で勉強していたのですが、政策や法律によって人の人生はこんなにも変わるんだ、脆弱な人たちの立場はこんなにも揺らいでしまうんだということを感じて、ジェンダー平等や、福祉政策で知られるスウェーデンに留学しました。すると、性産業に関わっているかどうかは関係なく、日本では、性と生殖に関する健康と権利が、守りたくても守れない状況にいるなということを感じて、帰国後の2018年から「#なんでないのプロジェクト」を始めました。他にも「#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」をしています。今はルワンダにある国際機関で、難民キャンプにおけるSRHRや、ジェンダーに基づく暴力に関するプログラム・アナリストとして勤務しています。 

人生計画のためのお金を計算する人間の手 - ライフプラン ストックフォトと画像

では、具体的には何が無いのか。避妊法に関して言うと、世界で一般的に使われている、効果が高くて女性が主体的に使える避妊具は、日本では認可されていないものが多いんですね。実際にスウェーデンで初めてピルをもらいに行った時に、「自分の性格やライフプランに合わせて自分が使いたいものを考えてみてね」と言われて驚きました。さっき中島さんが「選択をした経験があまりないのに、いきなり選択してと言われても大変だよね」というのは、本当にそうだなと思いました。様々な避妊具を提示された時に、私は子どもが欲しいのか、欲しくないのか、欲しいならいつ欲しいのか、パートナーとの関係をどうしていきたいのかということを考える良い機会になったと思います。それぞれの避妊具を比較して自分に合ったもの、必要なものを、考えて決められるような環境がすごく大切。私たちが自分のからだや人生に対して主体的になれる、ものすごく大切な機会が日本では奪われていると思います。プロジェクトをしていると、30代以上の方から「不妊に悩んで初めて自分の身体と向き合った、もっと若い頃に自分の体について知れていたら」という声もいただいて、本当に大事な機会を奪われていると強く感じています。


緊急避妊薬も72時間というタイムリミットがあるものなので、海外だと90ヵ国以上で薬局で処方箋なしで入手できるものなのですが、日本だとオンライン診療ができるようにはなったとはいえ、処方箋が必要です。診察と処方箋が必要なので、それでは本当に必要な時に、迅速にアクセスできないということで署名活動も行っています。


他にも、私がスウェーデンに行って衝撃を受けたのがユースクリニックです。最近日本でも、こういう場所をという機運があって嬉しく思っています。ユースクリニックは、性に関することだけでなく、10代が直面しやすい摂食障害や友達・家族との悩みについて、臨床心理士や助産師、産婦人科医などの専門家に無料で相談できる場所です。基本的に13歳から25歳の人が対象で、全国に約250カ所あります。スウェーデンの人口は東京より少ないので、それなりの数あるな、と感じますよね。公式サイトには、「小さすぎる、重要ではない質問なんてありません、当然の権利として無料で訪れることができます」とあって、こういう場所の存在が、孤独に追い詰められる女の子たちの居場所になるのではと思っています。日本において、子どもたちに「自分を大事にしましょう」と言いつつ、大事にするための手段を十分に与えていない、大人がSRHRを守る責任を果たしていない、この現状も心苦しく思っているので、こちらに関しても政策リクエストをしています。今日はよろしくお願いします。


つるたま:今の話を聞いていて、知らなかったことはありますか?


辻さん:なぜ、その避妊法を選ぶのか、どれだけ想像しても、想像力の先にある現実の困難や障害、障壁などが幾重にもあって、本当はそういう問題を回避するためにいろんな選択肢があるはずなのに、なぜ日本にはこんなにも選択肢がないの?と改めて思いました。


中島さん:私も以前「#なんでないのプロジェクト」のHPを見た時に、本当に衝撃を受けました。助産師だけど、知らないことがいくつかあったんです。この中には男性主体のものと、女性主体のものがありますよね。今の日本ではコンドームが主流で、それって男性に付けてもらう避妊方法になってしまうので、女性が主体的に、しかも使っていることを知られないということはすごくいいなと思います。


辻さん:低用量ピルを飲んでみようと試したこともありますが、私はADHDの当事者でもあるので、毎日同じ時間に服用することが本当に難しい。さまざまな方法を試してみましたが、どうしても服用を続けられず今に至っています。パートナーに(ピルを服用していることを)知られないようにという課題もあれば、本人のライフスタイルに合わないこともあるので、多様な選択肢があることはとても大切だと感じます。


中島さん:あと、避妊と性感染症の予防は別で考えないといけないですよね。


どうして避妊具は保険適用にならないんですか?

福田さん:性感染症を防げるのはコンドームだけなので、それは大切なことです。ただ、コンドームは破損や外れてしまうことが少なくありません。実際、緊急避妊薬のアンケート調査の中でも、服用に至った理由で一番多いのは、コンドームの破損、失敗なんですね。コンドームしていれば安心かというと、決してそうではない。女性が主体的に避妊を選べるということと、性感染症の話は分けて考えてもらいたいです。

Red Condoms, Contraception

つるたま:さっき厚労省の人と話していて、どうして避妊具は保険適用にならないんですか?と聞いたら、「避妊目的だと治療じゃないから、今の規則では難しい」と言われました。


中島さん:避妊目的と子宮内膜症などの治療目的だと費用が違ってきて、医療保険の適用を変えなきゃいけない。避妊目的だとミレーナは5万円とかするし、それを選びたいと思っても手が届かない。病気じゃないという理由で保険が効くか効かないかが決まっている、それが今の日本の現状です。特にSRHRの領域だと、外国は違いますよね。


福田さん:例えば、スウェーデンでは18歳未満は避妊具が無料だったのが、今は21歳に引き上げられて、中絶は全員無料です。フランスでも、今年から25歳未満はどの避妊法を選んでも無料になりましたし、今私がいるルワンダも、コンドームを含め、どの方法を選んでも全て無料なのでかなり違います。ただ一つポイントだと思っているのが、保険適用で負担が減ってほしいと思いつつ、保険適用になると必ず保険証の提示が必要で、親に知られてしまう恐れにも繋がります。若者のプライバシーに考慮した形で、かつ経済的負担なく選べるようになってほしいと思います。


中島さん:アクセスの良さを求める一方で、スティグマというか、社会の中での避妊に対する捉え方を変えるようなアクションを、並行してやっていく必要があるなと思います。


辻さん:あらゆるジェンダーギャップのテーマは、仕組みの構築と意識の醸成をセットでやっていかなきゃいけないと感じています。特にSRHRの領域は日本はまだまだ高いハードルがあって、本当にやることが多いなと。。


中島さん:あともう一つ特徴的なのが、国際セクシュアリティガイダンスの中では態度がセットになってるんですよね。


福田さん:態度も日本語でいうと道徳的なイメージが強いですが、そういう意味ではなくて、例えば性や医療に関して恥や罪悪感を持たなくていいとか、差別はいけないとか。もう一つ特徴的なのが、自分の権利が守られていない、誰かの権利が守られていない時に、どこに相談すればいいのか、また、問題解決のためにどうやって声をあげ、変化を起こすのかということも盛り込まれていて、その辺りまで踏み込んで初めて包括的性教育だと改めて思うし、社会の雰囲気も変わるんじゃないかなと思います。


女性の4人に1人が飲んだことがある緊急避妊薬、「飲めば終わり」ではないんだよ

つるたま:緊急避妊薬を飲んだことありますか?というアンケートですが、今のところ、24%の女性、4人に1人。

辻さん:実は、私は緊急避妊薬を飲んだことあるんです。パートナーはすごく理解があり、OTC化のニュースが盛り上がった時もふたりで話をしていました。。そんなある日、避妊に失敗したんです。朝から晩まで仕事が詰まっていて、すぐに病院に行くことができず、避妊失敗の翌日にやっと病院に行って。「服用して気持ち悪くならないかな」「不正出血は大丈夫かな」など不安な気持ちを抱えていました。その時思ったのが、どれだけパートナーが避妊をふたりの問題として向き合う人であっても、仕事やプライベートの予定を調整して、時間をかけて病院に行き、不安や惨めさを感じるのは私のほうだということ。どういうふうに寄り添ったらいいかわからないという男性側の気持ちも理解はできますが、わりと気の強いタイプの私ですら、すごく重たい気持ちになったので、緊急避妊薬を飲めば終わりではないんだよというのは、もっと理解が広まってほしいですね。先ほどののアンケートのように、少なくとも24%の女性はそういうしんどい思いをしている現実があるので。


つるたま:しかも緊急避妊薬を飲んだ後、生理がくるか三週間経たないと結果がわからないですよね。それって、男性側はどんなに頑張っても体験しないことですよね。性行為自体はお互い納得のうえでの行為だったとしても、不安が偏ってしまう状況が、構造の不均衡としてありますよね。


辻さん:そもそも構造的に圧倒的不均衡があるんです。いざとなった時に、女性だけが身体的、精神的、経済的負担を強いられるのかという前提が、ものすごくアンフェアな状態。行為の時もそうだし、緊急避妊薬を飲む場合も、そこから三週間あるいは次の生理まで、ご飯食べている時も、寝ているときも、仕事をしているときも、毎日頭の片隅に不安を感じる状態で過ごしていることを、本当に理解していますか?と聞きたいですね。


つるたま:中絶の場合はちゃんと出来ているかどうかの不安はないけど、別の不安は続いていくじゃないですか。手術して、はい終わり、とはならない。例えば、男性が全額中絶費用を出したとしても、その後の不安が解消されるわけではないですよね。


後半は緊急避妊薬について詳しくお話しします。


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