氷空(そら)ゆめには予知する力が在った。
眠る前に念じると夢が知らせてくれた。
その知らせは七日後に正夢になる。
気づいたのは幼稚園の年長組の時。
念じるとは強い想いを繰り返す。
許せない、口惜しい、腹立つ、心配、あの人は今どうしている、
を名前と一緒に呟く。眠るまで呟く。
眠ると鮮明な夢が現れた。それが七日先。
自分の先は無理だった。
…わたしはこれからどうなるの…
これを呟き続けても夢は現れてくれなかった。
神さまに自分をお願いしもダメなんだ。許せない。口惜しい。腹
立つ。心配。あの人は今どうしている。これ以外は知らせてくれな
いんだ。自分の先が分からないから人は泣き、笑い、怒るんだ。
氷空ゆめはこう考え納得していた。
幾ら念じても夢が現れないことも在った。
けれども新月には必ず現れた。
小六の時にカレンダーが教えてくれた。
新月は二九.五日に一回。
それまで待てないこともあった。
氷空ゆめは念じる儀式を試みた。
辿り着いたのが自由の女神の冠。アンテークショップを巡り、冠
を見た時に、これだ、と想った。白の寝間着。母が縫ってくれた。
手には黒の数珠。占冠の祖母からもらった。両の脛には紫の脚絆。
赤の二本の紐で縛った。脚絆も母が作ってくれた。用意を整え、手
を組み、人差し指を、月に向け立て、呪文を三回唱えた。
「あびらうんけんそわか。あくしお。あくしお。あびらうんけんそ
わか。あぱれしうむ。あぱれしうむ。あびらうんけんそわか」
これにより氷空ゆめの願いは、新月でなくとも、叶えられたが、
時々は失敗した。夢が現れず、現れても、記憶に残らない朝もあっ
た。この原因は今も分からない。
新月では念じると夢が現れた。思いがけない夢も在った。これも
一週間先の正夢だった。念じない夢は楽しみのひとつになった。思
いがけない夢の原因も分からない。