2022/03/10 18:00

こんにちは。
ゲームさんぽ制作チーム(白夜書房の佐藤)です。

ゲームさんぽ本(通常版)の取次見本が会社に届きました。
こうして実物を見ると、いよいよ世の中に出るという実感がわきますね。
A5版かつ300ページを超える大きい本ですが、手にとっていただくと、「読みやすい」と思っていただけるはず。これはデザイナーの川名潤さんに選んでいただいた紙のおかげなのですが、こういうパッと見ではわかりづらい部分にも「紙の専門家と作る」というコンセプトがあらわれていると思います(限定版はさらにヤバいのお楽しみに)。

さて、先週から書き始めた編集者の仕事第2回をお届けします。
第1回では本ができるまでのざっくりした流れをお伝えしました。

【本が誕生するまで】
(1)企画立案
(2)原稿の執筆や取材
(3)デザイン
(4)入稿
(5)校正
(6)校了
(7)印刷、製本

このプロセスにおいて、まずは(2)原稿の執筆や取材を終える、つまり著者が原稿を書き上げること(脱稿)を目指し、編集者は著者に伴走して原稿完成までをサポートしていきます。
※雑誌編集や書籍編集、WEB編集……とさまざまですが、ここでは書籍編集に限ったお話。

編集者はだいたい「この日までに原稿をください」という締切日を設定します。企画段階でだいたいの発売日が決まっている(著者とも相談している)ので、「原稿→デザイン→校正の時間を考えれば、だいたいここまでにもらえれば問題なく進められるな」。そんなことを逆算して決めます。この締切日に照準を合わせ、あの手この手でサポートしていくのです。

具体的には、本の方向性や構成を相談したり、書くための側方支援をしたり(ゲームさんぽ本では専門家の皆様へ取材したインタビューの文字起こしなどがそう)、書きあがった原稿を読んで、読者目線で指摘したり。

原稿を執筆するペース、原稿の上げ方はさまざまです。本1冊分を一気に書き上げる人もいれば、章ごとに書いては送ってくださる人もいます。
また、ブックライターさんが書く場合もあります。いわゆる語り起こし系の本はライターさんが著者を取材し、原稿をまとめ、それを著者がチェックするというのが一般的です。

こうして著者と伴走しながら、原稿が上がるのを待つことになるのですが、事はそう簡単には進みません(うまく進む場合もたくさんあります。今回の話はあくまでもほんの一例ですよ……)。締切日が迫る。当日になる。そして1日、2日、1週間と過ぎていく。

いまかいまかとメーラーの送受信ボタンを押しまくったり、「電話してみようかな」と受話器を持ったり置いたり。それとなく理由をつけてメールしたいからツイッターをチェックしたり。「あれ、もしかして失礼なメール送っちゃったかな?」と過去の送信メールを見直したり。

しかし、最初の締切日の時点ではまだ気持ちに余裕があります。なぜなら締切は伸びるものであり、それは著者に本当の締切日を伝えていないからです。
(催促1回目)「ここまでになんとかお願いします」
(催促2回目)「デッドラインは○日です」
(催促3回目)「本当のデッドラインは△日です」
といった具合です(それでも本当の本当のデッドラインは言わない。頭痛が痛いみたいな変な言葉づかいですが……)。

それでも原稿が間に合わない、締切もすでに伸び切ってしまった場合は、発売日が遅れることになります(雑誌なら原稿が落ちる)。編集者としては発売日はずらしたくない。会社員である私には年間刊行点数が決まっており、いたずらに期をまたげないからです。だからといって、急かしていいものができるのだろうか……いや、今期はこれを出さないとな……いやいや、編集者ならドンと構えて待とうよ。ケツ持ちも大切な役割じゃないか……と逡巡することになります。

締切を巡るあれやこれやは、多くの著者と編集者が(そしてそのしわ寄せを受けるデザイナーさんや製版所のオペレーターさんも)経験することであり、それは『〆切本』(左右社)という1冊の本になるほど。
数多のエピソードが収録された『〆切本』に、こんな一節があります。

「片岡さん。締め切りっていうものは、どうしても守らなければならないものでしょうか」
(中略)
「そうだね。守れるなら守るに越したことはない。でも、守れなかったとき、その原稿が本当に大切ならば、編集者は何があってもその原稿を待つでしょう。それほど大切でないなら、待ってはくれないでしょう」
(永江朗「約束は守らなければなりません」P223-224)

待つって大変ですね。ちなみに、私は現在進行形で4年間原稿を待っている人がいます(あの人に届け、このおもい)。

そして、その日がやってくる。それがWEBの単発記事であれ、書籍の長い原稿であれ、私は必ずプリントアウトし、会議室など一人になれる場所に移動し、じっくり時間をとるようにしています。これがすごく楽しい時間でもあるんです。

その後は著者と原稿をやりとりしながら、必要な素材(画像やイラストなど)をまとめ、デザイナーさんに渡します。この時点で、ようやくホッと一息つくことができます。本作りがグッと進んだからです(発売日に間に合いそうだぞ!)。

余談ですが、「(『サザエさん』の)ノリスケさんって、いつも何してんだ?」と思ったことはありませんか? ノリスケさんはいつも伊佐坂先生の原稿を待っていますよね。しかし、磯野家でただしゃべっているだけが彼の仕事ではありません。彼はあの笑顔の裏に複雑な気持ちも抱えながら、著者を全力でサポートしているはずです。

おまけに編集者は、つねに1冊の本だけに集中しているわけではありません。ほとんどの編集者は同時進行でいくつかの本を抱えています。つまり……。

こうして本の制作はデザインの段階に進んでいくわけですが、今回はここでおしまい。ゲームさんぽ本にまつわる編集の仕事を具体的に伝えるはずが、なんだか締切に対する編集者のお気持ち表明みたいになってしまいました(汗)。
胃がキリキリすることもたくさんありますが、今日も私は元気です。
それではまた!

※補足 ゲームさんぽ本では、著者のいいださんやなむさん、そして取材に協力していただいた専門家の皆様が行方不明になることはありませんでした。単純に私が作業時間の見積もりを誤ったから刊行が遅れたということを付け加えておきます。