このペーパー加湿器の最も重要な点は、知的障がい者が一から十まで自力で組み立て可能であることだ。
この点について、私は、作ったものを息子に組み立てさせて検証していた。
この話を考え出した当初、お世話になっている就労支援NPOに通う子供達の中で、息子は最も作業が下手だった。
その息子が組み立てられる設計が実現できるのであれば、これはもう、どの子でも作ることが可能なモノになるはずだ。
そして、2016年10月。
店舗での販売についての道筋は未だ立っていなかったが、息子が組み立て可能なモノは完成していた。
店舗での販売実現に向けた活動と並行して、私は、就労支援NPOに組み立てのご相談に伺った。
ミサンガ編みにケチをつけたと取られても仕方がない相談だったが、訓練のバリエーションが増えるという理由で、非常に好意的に協力を申し出ていただけた。
ただ、一点、提案した組み立て費の金額についてだけは却下された。
高すぎるとおっしゃるのだ。
この商品は組み立てる必要がある。組立工がいなければ商品として成立しない。そのように設計したのだ。
その意味で、組立工はこの作業に誇りを持ってほしい。誇りある仕事には、見合う金額が支払われるべきだ。
私はそう言って説得を試みたが、これは「ごめんなさい、ダメなんですよ~」と穏やかではあるが取り付く島もなく断られた。
他の作業よりも割が良い作業が存在する状況は、訓練のジャマになるのだと言う。
これが組み立てられない子供のモチベーションが下がることは避けなければならないと言う。
いや、それは大丈夫だ。
これは、息子が組み立てられるものだ。
なれば、他のどの子も組み立てることが可能なはずだ。
私がそう言うと、それは違うとおっしゃる。
息子さんは、ここの子供たちの中で最もコミュニケーションに問題を抱えているため、長いこと不出来に見えていたと思うが、実は手順を覚えてしまえば一番手先が器用だ。
彼が組み立てられることは、他の子供たちが作れることの証明にならない。
いくつか試してみて、訓練に使えるものかどうか、検討いただくことになった。
そして数日し、子供たちの半数しか組み立てられないシロモノであることが確認され、この話は受けていただけないことになった。
不覚だった。
最初の時から10ヶ月を過ぎ、私はやっと、何もできていなかったことを知った。
ただ、これ以上は容易にならぬと考えた設計を、更に、それも大幅に簡単にせねば箸にも棒にもかからぬという現実が挑発的で魅力的だったことは救いだった。