2021年にスタートしたTIMESIBLEプロジェクト。今年も、個性あふれる5人の学生デザイナーがポップアップにて作品を発表します。Designer interviewの第1回は、アパレル技術科2年の松尾和真さんにお話を伺っていきます。
ファッションの世界に飛び込んだきっかけは、バイクで起こした事故
___松尾さんの作品におけるテーマを教えてください。作品には、どんな背景があるのでしょうか?
松尾:自分の過去が、作品と密接に関わっています。少し長くなりますが、現在までの過程からお話をさせていただきます。
高校卒業後、ファッションが好きでデザインの勉強もしたいとは思いながら、大学へ進学しました。しかし、大学では入学してもやりたいことを見つけられずモヤモヤした気持ちになって。高校生まで真剣に取り組んでいた野球を辞め、好きなファッションの勉強もできない状態で路頭に迷っていました。
そんな中、気持ちを晴らしたい思いもあり奮発して中型バイクを購入しました。しかし、そのバイクで命を落としてもおかしくないほどの大きな事故を起こしてしまいます。今、自分の命があるのは道路脇の植物がたまたまクッションになって助けてくれたからです。
その時、大学で何もせずにフラフラしてる自分に植物がチャンスを与えてくれたような気がしたんです。「フラフラしてないでやりたいことやれ、真剣に取り組めることに挑戦しろ」と言われているような気がして。
事故の保険金が下りたことも後押しとなって、大学に通いながらファッションデザインについて学べるスクールに入ることを決めました。交通事故というアクシデントをきっかけに奇跡のような偶然が重なり、ファッションの世界に飛び込む道筋がくっきりできたような、そんな感覚でしたね。
___ファッションの勉強を始めたきっかけには、そんな過去が関係していたのですね。スクールでは、どんなことを学んでいたのですか?
松尾:「クリエイティブプロセス」と呼ばれる、デザインのインスピレーションを形にするプロセスについて学びました。コンセプトやテーマを、どう服に落とし込むか。そういった内容の勉強でした。
しかし、20歳の自分にはその授業は難しかった。当時の自分にとって服は「おしゃれ」「かっこいい」といったような存在で、深く理解できていませんでした。対して、働きながら学校へ通う大人はコンセプチュアルに物事を考えるのが上手く、劣等感を覚えた記憶があります。
1年間のダブルスクールを終え、もう一度自分の人生を振り返ると、自分の表現したいコンセプトやテーマがキーワードとして見つかり始めました。事故の時に助けてもらった「植物」、落としかけた「命」、そして「ライフサイクル」。これらをテーマとして、大学卒業後に文化服装学院で服を作る勉強をしようと決意します。文化服装学院では、服作りにあたって「植物のライフサイクル」、葉がだんだん枯れていく過程の中にある色をパレットとして、これらの色しか使わない作品作りを始めました。
「ライフサイクル」というコンセプトを形に
___こういった松尾さん自身のストーリーが、作品のテーマになっているのですね。実際に文化服装学院へ入学してから、どんな作品を作ったのでしょうか?
松尾:入学して最初に作ったのは、枯れ葉の色を中心に使ったスカートです。素材は、フランスのアンティークリネン。全体的なデザインは過剰にならないよう意識しつつ、植物の柄が入ったレースでコンセプトを形にしています。
ブラウスについて
松尾:スカートの次に制作したのはブラウスになります。大学時代から撮り溜めていた自然の写真をインスピレーションに、装飾部分はテキスタイルから作り上げました。
現在住んでいる自宅の周りにも植物が多く、そこから着想を得ることも多いのですが、このブラウスは大阪の森の中で撮った写真から作り上げています。こういったプロセスは、ダブルスクールで学んだ「クリエイティブプロセス」が活かされています。
スカートについて
松尾:次に作ったスカートは、これまでのスカートやブラウスとは異なるアプローチで制作しています。これまでの作品は生地に手を加えることで装飾をし、ライフサイクルを表現してきました。こちらのスカートは今までと異なり、パターンから表現しています。
こんな風にパターンを操作したらこんな出来上がりになる、などと言った製作における感覚は、このスカートの制作を通して掴んだ気がします。
ワンピースについて
松尾:1年生の最後に作ったのは、ドレスライクなワンピース。「ライフサイクル」というテーマから得られる要素を1着にまとめています。葉のだんだん枯れていく過程を色使いで表現することや、袖・裾の極端なフレアシルエットで木の幹を連想させていることなど、テーマに関する要素や思いを詰め込んでいます。
生地も、あえてドレッシーなものをチョイスしました。今までの作品はリネンを必ず使っていましたが、服の美しさみたいなものをリネンの「雰囲気の良さ」でごまかしてきたような気がしていて。そこでワンピースはリネンを使わず、ドレスの美しさを「ライフサイクル」というテーマの中で表現しています。
ファッションデザイナーとしての理想像
___TIMESIBLEのポップアップでは、どのような作品を販売する予定ですか?
松尾:ここまで紹介してきた作品は、自己紹介というか「ライフサイクル」というテーマを紹介するために装飾を使って過剰な表現をしてきました。その点、リアルクローズに沿った服はあまり作ってこなかった。
ポップアップでは、テーマを装飾ではなくパターンやシルエットで表現したいと計画しています。今までとは異なるアプローチで、より使いやすい服の製作にチャレンジしたいです。
___最後に、将来の目標を教えてください。
松尾:独立して自分のブランドを持ちたいと思っています。ハンドメイドをキーワードに、1着の服を長く愛してもらえるような、そんな服作りがしたいです。
洋服のお直し屋で2年半働いていたことがあるのですが、そこで実際に職人の仕事ぶりを間近で見てクラフトマンシップを肌で感じました。また、お客さんとの距離がとても近い仕事で、ハンドメイドのものづくりに魅力を感じるきっかけにもなりました。こういった経験を、自分の強みとしてブランドに活かしたいと考えています。
ただし、ブランドを持つことはゴールではありません。いわゆるインフルエンサーブランドと呼ばれるような服でも、凝ったデザインのものが数多く作られています。デザイナーとして自分が何をできるか?何を発信するのか?そういった考えが自分なりにまとまった状態で、オリジナリティーのある服作りをしなければと思っています。
松尾和真 Instagram
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