2021/08/13 11:30

宇野です。このクラウドファンディングもいよいよあと、一週間を切りました。今日はここで、この「都市」特集の基調座談会を紹介したいと思います。

以前にも書きましたけれど、この都市特集はグローバルな都市間競争を背景とした(主として東京の)都市計画に、地域コミュニティの再興(と紐付いた文化振興)で対抗するといった国内ではこの10年、震災復興の流れで飽きるほど見られてきた構図を最初から採用「しない」という方針で作っています。

背景には、僕が4年前から参加している安宅和人さんが立ち上げた「風の谷を創る」の運動の影響があります。この運動は、いわゆる環境保護運動ではないし、「街おこし」みたいなものともかなり距離がある。人間が都市「ではない」場所に暮らすときの、それも自然とともに暮らそうと考えたときのあたらしい形式を最新の技術を使い倒して実現し、そしてそれを経済的にもしっかり自走させて、そしてそこに都市とはまた違った回路で高い文化生成力を確保しよう、という野心的なプロジェクトです。

そこでは「道」や「エネルギー」の地方(というか、都市ではない場所)での新しいかたち(運用法)から、家屋や集落の設計などの研究を続けてきて、この21年からは実空間で実験を開始するために動いています。いくつかの研究チャンクに分かれて活動しているのですが、僕の担当は「全体デザイン班」と呼ばれるコンセプトにのっとった基本方針の作成や各チャンクの調整、全体のシステム設計などを行うチャンクです。

そしてこの都市特集を組むときに僕は「風の谷を創る」が都市の「オルタナティブ」を創る運動なら、この特集はそこで得た知見を活かしつつ「都市そのもの」について考える特集にしたいと考えました。それも、既に存在している論点をおさらいするのではなく、新しい視点を提供できるものにしたい。そう考えました。

そういう背景があって、特集の冒頭を飾るこの座談会には安宅さんに、そして同じ「風の谷を創る」メンバーからは菊池昌枝さんに来てもらいました。菊池さんは、観光事業の専門家で都市と文化の関係について、とても豊かな知見を持っている人です。(最近は滋賀に移住して、その暮らしをエッセイにして連載してもらっています。)そして、都市論のハード側の代表として饗庭伸さん、そしてソフト側の代表として渡邉康太郎さんに来てもらいました。

饗庭伸さんは『都市をたたむ』が知られていますが、まさにこの国の国土開発の最前線にかかわりながら、その身も蓋もない現実を受け止めた上で最適解を模索してきた人だと僕は勝手に思っていて、渡邉康太郎さんは情報技術が「空間」の定義を変え、モノとコトの境界線がなくなったいまだからこそ有効なデザインの思考を模索している。この陣容で、「都市」というシステムがいまどのような節目を迎えているのか、その課題を徹底して洗い出しています。

この都市特集は、いわゆる「都市論」や「まちづくり」が好きな人が手に取ると、ちょっと変わった視点から語りすぎていてびっくりするかもしれません。しかし、それが狙いです。その狙いの背景には、こうした現状認識があるのだということを踏まえておいてもらえると嬉しいです。要するに、僕の認識は安宅さんに近くて(そりゃあ、4年も彼のプロジェクトに参加しているくらいなので)現状の都市のシステムからは「生まれてこない」ものが今の社会には重要だと思っています。しかし、僕らは都市というシステムを「捨てる」ことはできない。むしろ、これからは都市の時代になっていく。では、どうすればその本来は都市のシステムからは供給されないものを生み出していくのか、そのために都市はどうかわるべきか、がこの特集のテーマです。早く読んでほしい……と心から思うのですが、そのためにも能書き垂れていないで、編集長業務に戻ります。

 

紙の雑誌『モノノメ』創刊に向けたクラウドファンディングは8月20日までです。支援はこちらから。