2022/02/22 11:26

発送時に同封いたしました、杜氏・社長コメントのまとめとなります。

離の発送時に同封できなかった離の杜氏コメントも掲載いたします。


杜氏コメント

【水尾 守】

「水尾 守・破・離」シリーズの第1回目となる「水尾 守」についてですが、コンセプト通り等当蔵での伝統的な醸造方法に基づき、水尾らしい透明感のあるお酒を目指して造りました。水尾の定番品である「特別純米酒」を模範し、中吟造りによる香りと味わいを重視し、低アルコールでもしっかり日本酒として楽しんでいただけるお酒に仕上がったと思います。

 通常品の様に搾ってからの加水と違い、搾る前の醪の段階での加水(水四段)には、味が薄くなってしまうことのへの不安がありました。そのため、醪中でも旨味の濃いお酒に醸せるよう、糖度や酸度といった旨味成分と糖化と発酵のバランスに気を配りながら造った故の味であると考えます。


【水尾 破について】

 「水尾 守・破・離」シリーズの第二回目となる「水尾 破」に関してですが、当初のコンセプト通り新しい醸造技術を積極的に取り入れ、第一回目の「水尾 守」とは違う酒質を目指しながらも、水尾らしい透明感のあるお酒に仕上がるように造りました。

 「水尾 守」同様に醪への水四段(醪の段階で水を加える事)という形は変わりませんが、「水尾 破」についてはアルコール分を14%から13%に引き下げました。より主流の低アルコール酒に近づけつつも、水四段量が増えることによる味薄対策と最新技術の取り入れとして、使用する麹の量を増やすとともに、麹の一部により力の強い麹菌を使用し、水四段も醪へのストレスを極力減らす為、複数回に分けて行いました。

 その成果として醪中でも吟醸酒並みの糖度を残しつつ、糖化と発酵のバランスも保ちながら搾りまで至れました。搾り上がった「水尾 破」は、13%の低アルコール酒らしくスッキリと柔らかい中にも、程よい甘みと酸味が共存したお酒に仕上がりました。


【水尾 離について】

 「水尾 守・破・離」シリーズの第三回目であり、最後を飾る「水尾 離」についてですが、コンセプトにある通り前2本の「水尾 守」と「水尾 破」の醸造を参考にし、これまでの中から水尾の低アルコール酒の完成形を目指し、醸造技術の選定を行いながらも水尾の特徴である透明感を感じれるお酒になるように造りました。

 「水尾 破」同様に醪への複数回に分けての水四段、アルコール13%、力の強い麹菌を使用という点は変わりませんが、「水尾 離」ではより透明感と旨味のある酒質を狙い、水四段と力の強い麹菌の使用量を増やしました。これにより「水尾 離」はメロン様の香りがあり、爽やかな中にも程良い甘みと酸味が共存し、旨味のある酒に仕上がり、「水尾 守・破・離」シリーズの集大成に相応しい出来に至れたなと感じています。


株式会社 田中屋酒造店

杜氏 久保田 剛光


社長コメント

【水尾 守について】

 「水尾クラウドファンディング」におきましては、皆様の温かいご支援を誠にありがとうございました。おかげさまで達成金額は1千万円を超え、「水尾 守・破・離」シリーズの予定生産数量の約半分のご注文をいただくことが出来ました。これで来年度の酒米についても農家の皆様へプラスして申し込むことができ、以前の契約数量に近づくことができます。おいしいお酒を造り、おいしく飲んでいただくためには、酒米の契約から始まり様々な要素における毎年のリズムがとても大事だと考えています。皆様の温かいご支援に重ねて心より感謝いたします。

 「水尾 守」は「味わいや香りが濃い、低アルコール無沪過原酒」、「甘味でなく旨味を基調とする酒」という描いたイメージに近い、とても良い仕上がりとなったかと思っております。試験醸造の後も、貯蔵条件・酒質の変化・飲酒温度・生酒と火入の違い・ガス感の印象と変化など貯蔵・テイスティング面での試験をしていく必要があります。

 試験醸造としてもたいへんな成果がありました。少なくとも新しい醸造方法として安定した結果が出せる可能性が高いということが、「水尾 守」で確認できました。この後の「水尾 破」、「水尾 離」では麹歩合を変え種麹を変えるなど、さらに思い切った取り組みで12%~13%無沪過原酒を試せることとなりました。


【水尾 破について】

 新しい時代の日本酒とは何か。すべての酒類において「酒」に求められるものは何なのか。日本酒がその中でどんな立ち位置でどんな役に立つことが出来るのか。そんなことを考えながら今回の「水尾 守・破・離」シリーズに取り組んでおります。「水尾 破」は批判されることも念頭に思い切った試みを取り入れています。今までの日本酒のうまさの概念からかなりはずれていると思われる方もいるかもしれません。

 しかしながら、さわやかで豊かな香り、軽やかな甘みと酸味、しっかりしたビター感ある旨味、体にやさしい低アルコール、すべてのバランスからくるキレの良さ等々、狙うべき試験要素はしっかりと試すことが出来たと思っています。おそらく様々な料理と合わせ飲む食中酒として、かなりのポテンシャルを持った酒に仕上がったと思っております。

 こういったお酒の造り方における技術研究面でも、「水尾 破」でその基礎部分は確立されるレベルまで理解できるようになりました。我が蔵にとって大きな成果です。


【水尾 離について】


 今年は昨年までの杜氏の鈴木が大杜氏となり完全に指導にまわり、新・杜氏の久保田、副杜氏の竹島の元で造る我が蔵において最初のシーズンとなっています。はからずもそんな年に、今回の「水尾 守・破・離」シリーズの様に従来の酒造りの型を外して造る酒があるのも、何かの縁かもしれません。ここ4年~5年の大杜氏からの引継ぎの中で、杜氏・副杜氏にとっては卒業論文のような取り組みになっているのではないかと思います。

 大杜氏は弊社の酒造りが基本を少しでもはずし気味に傾くと、非常に厳しく指導をします。それはおそらく「水尾 守・破・離」シリーズのラベルにもある、「規矩(きく)作法 守り尽くして破るとも 離るるとても本を忘るな」の意味が長い酒造りを通して身に染みて分かっているからだと思います。そんな大杜氏が「水尾 守・破・離」シリーズに関しては、その出来をしっかり褒めてくれているのが印象的です。

 最後の「水尾 離」は仕上げに相応しい、香り・甘辛酸・旨味の調和したナチュラルで飲み飽きしない、そしてやさしいアルコールの酒に仕上がったかと思います。今回のコンセプトに最も近い酒になったのではないでしょうか。これから後の「水尾」の未来を想像しながら、楽しんでいただければうれしく思います。


株式会社 田中屋酒造店

代表取締役 田中 隆太