2021/11/26 17:39

こんにちは!YSCグローバル・スクールの田中宝紀(たなか・いき)です。

コロナ禍で学びとつながりの機会がいっそう減少している海外ルーツの子どもための奨学金クラウドファンディング、11月25日に無事、第2目標であった180万円を達成しました!たくさんの方のご支援、ありがとうございます。

現在ひとりでも多くの子どもたちに手を伸ばすために、NEXTゴールにチャレンジしています!プロジェクト終了の11月30日まであと【4日】。
残り約【122,500円】で第2目標の200万円達成です!

最後まで、みなさまのご支援とご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今日は私たちが2016年から取り組んでいるZoomを使ったハイブリッド形式のオンライン授業についてご紹介します。

オンライン支援に取り組み始めたきっかけや、課題意識。実際に支援を実施するまでの道のりや導入後の課題、コロナ禍を経ての変化など。少し長文ではありますが、私たちの試行錯誤の歩みをぜひお読みいただけましたら・・・。

*記事中のマスクをしていない写真は全てコロナ禍以前に撮影(写真:🄫Yuichi Mori)

NICOプロジェクトホームページ。制作費用はクラウドファンディングでサポートしていただきました。

試行錯誤は2013年から始まった

YSCグローバル・スクールでは、2016年にZoomを使ったハイブリッド形式で地方に暮らす海外ルーツの子どもたちに教育機会を届ける「NICO|にほんご×こどもプロジェクト」を運営しています。コロナ禍となって、ようやくオンラインを活用した双方向型の教育活動が社会的な認知を得ましたが、コロナ禍以前はなかなか理解していただくことが難しく、またスムーズな授業運営が可能になるまでの道のりは長いものでした。

私がオンラインで海外ルーツの子どもたちに日本語教育を届けられないかと考え始めたのは2013年ごろのことでした。2010年度から活動を始めて数年。ようやく教室の運営も安定しはじめて、年間70~80名程度の子どもたちを受け入れすることができるようになっていました。

また、教室のある東京都周辺の状況だけでなく、全国的に海外ルーツの子どもたちの置かれた状況がどのようになっているのかまで目が届きはじめ、構造的な課題に気づくようになりました。

地域間格差、積年の課題

このプロジェクトのトップページでも少し触れましたが、海外にルーツを持つ子どもたちの教育や受け入れ体制の整備について最も大きく、積年の課題となっているのが「地域間格差」です。それは自治体間の格差のこともあれば、同じ自治体内でも学校や地域によって差があることもあります。

日本語がわからず、学校の中で困っている子どもたち51,000人の内、約11,000人が何の支援も受けていない「無支援状態」にあります。このように学校で日本語の支援を受けることのできない子どもたちの多くは、外国人住民がゼロではないけれど、割合としては1%前後に留まるような「外国人散在(さんざい)地域」とよばれる自治体に暮らしています。

そのような自治体では、「自分の通う学校に日本語がわからない子どもは1人だけ、または2人だけ」という状況であることも珍しくなく、自治体が支援のために恒常的な人材や予算を確保することが困難でした。また、自治体の中に例えば「日本語学級」が設置されている学校が存在していたとしても、その学校以外に在籍している子どもたちの場合、日本語学級設置校への通学に保護者の送迎が必要であったり、公共交通機関が限られていて物理的に移動困難であるような状況も見られました。

逆に、子どもたちが在籍している学校へ日本語指導員が派遣されるような形式もありますが、この場合、指導員の移動に時間がかかり、子どもたちが受けられる支援時間数が大幅に限られてしまうなど、「移動」にまつわる課題が大きく立ちはだかっていました。子どもか大人(支援者)のどちらかが「移動」しなければならないことや、日本語が教えられる人材がいない、そのための予算がないこと、このような課題が長年外国人散在地域に暮らす子どもたちが日本語を学ぶ機会を妨げていた状況です。

この状況を目の当たりにし、その解決のために何かできないかとまず考えたのが、「教える人がいない問題は教える人がいる場所から借りればいい」ということでした。ゼロから1を作ることには大きな労力を要しますが、今100あるところから1を借りたり、100を共有するのだとしたら、そこまでのコストはかかりません。

それから次に、「子どもも大人も移動しないで日本語を教えたり、教わったりできればいい」ということでした。つまり、インターネットを通じてオンラインでつながれば、すでに専門性のある日本語教育者と子どもが、移動を伴うことなく安定して子どもたちに教育機会を届けることができるというアイディアでした。

当時のYSCグローバル・スクールの様子。まだオンラインでの利用は限定的。

動画配信では海外ルーツの子どもは学べない

当時、オンラインで映像を届けると言えばU-stream、ニコニコ動画のような一方通行の動画配信がメインで、「オンライン授業」という言葉のイメージも録画した授業動画を見ることに直結していました。

外国人保護者の事情などによって来日した直後の海外ルーツの子どもたちの場合、必ずしも日本語を学ぶことに前向きではないことも少なくありません。初期的には「なぜ日本語を勉強しなくちゃならないのか」という気持ちを解消できない状況であることも珍しくないため、一方通行の動画視聴型の授業では日本語がゼロに近い子どもたちが、それだけで日本語を習得することは難しいのは目に見えていました。
(もちろん、動画視聴教材がまったく役に立たないというわけではありません)

このような状態の子どもたちに、日本語教育機会をオンラインで届けるのであれば、リアルタイムの授業であることや、日本語の先生と子どもが会話をしながら学ぶ双方向性を確保することが必要不可欠でした。

当時、私が知っていたそれを実現できそうなアプリはSkypeだけでしたが、そのころのSkypeは通信の状況がやや安定せず、個人個人がアカウントを登録する必要があるなど、「子どもへのオンライン授業」を考えると不安要素が小さくありませんでした。いろいろなアプリや手段を調べたり、検討したりしてみたもののなかなかこれだ、というものがみつからないまま、最初の発案から2年以上が経過してしまいました。

NICOプロジェクト立ち上げ後に自宅から学ぶ生徒の様子。

Zoomとの出会いで一気に前進

2015年のある日、私たちが実施したクラウドファンディングで出会った寄付者の方が私のオンライン授業への想いを知り、”Zoom”の存在を紹介してくださいました。今でこそ、知名度があがりなくてはならないアプリとなったZoomですが、当時はほとんど知っている方はおらず、「オンライン会議システム」という説明にすら理解が得られづらい状況でした。

また、「子どもがオンラインで学べるわけがない」と言ったご意見や、「ネット環境がない子どもがいるので、(公平性の観点から)オンラインは導入できない」と言った課題などもよく聞かれました。

それでも、様々な方の協力を得て試験運用を重ね、翌2016年には正式にNICOプロジェクトとしてオンライン教育支援事業を立ち上げることができました。以来、少しずつではありますが全国各地で暮らす海外ルーツの子どもたちとYSCグローバル・スクールの教室をつなぎ続けたところ、ようやく地域の方や学校の先生方にもご理解いただけるようになりはじめたのが、2019年ごろの状況です。

そして翌年に起きたコロナ禍。一斉休校期間中には日本語学習機会がまったくなくなってしまった子どもたちが急増しました。こうした子どもたちに対して、YSCグローバル・スクールではオンラインによるサポートを無償で実施することを決断し、学びとつながりを求めて、各地から延2,000人の子どもたちが参加しました。今でも、海外ルーツの子どもたちの学習機会は平時より減少している状況で、オンラインで受講を希望する子どもたちは増加し続けています。

ライストワンマイルを人の手で

Zoomの導入によって、私たちは日本語教育機会へのアクセスがまったくない子どもたちに、少なくとも教育機会を確保する手段を確立することができました。これをモデルとして全国各地の自治体や公益団体などが無支援状態にある海外ルーツの子どもたちへ手を伸ばして行ってくれるよう、働きかけも行っています。

一方で、オンライン授業を着想したころから気を付けていることがあります。

それは、子どもたちの支援の「ラストワンマイルに”人の手”を」ということです。海外ルーツの子どもたちは前述の通り、日本語を学びたくて学んでいるとは限りません。このため、いくらオンラインを通してYSCのような専門支援とつながったとしても、子ども自身が授業が始まる時間にデバイスを立ち上げ、zoomにログインしてくれなければ教育機会を届けることができません。

また、私たちが届けることのできる日本語教育では方言や、地域情報を扱うことができません。共通語の日本語がわかるようになっても、子どもたちの生活の重要な舞台である学校で、友人たちが話している方言がわからなければコミュニケーションがスムーズには行かない可能性があります。地域の中で例えば子どもたちが日ごろ利用している公園の呼び名であったり、スーパーの名前、路線や駅名などを知ることは、その地域で暮らしていく上で、とても大切なことです。

そのため、YSCグローバル・スクールでは「オンラインで届けられることはごくわずか」で、子どもたちの学びを丁寧に見守り、学校や地域生活で必要な情報を子どもたちに伝えてくれるその地域の大人が不可欠という認識の元、地方から利用を希望する子どもたちを「地域で支えてくれる協力団体や個人」を探すサポートを優先して行っています。

時にそれは学校の先生であったり、同じ県内で活動するボランティアであったり、国際交流協会や公益活動団体などであったりしますが、必ず、こうした地域支援先を見つけた上で、協力をお願いし、連携しながら支援にあたっています。

(上・下)最近のYSCでのオンライン活用の様子

広がるオンライン支援

このような取り組みを続ける中で、最近では「自分たちもオンラインで海外ルーツの子どもに教育支援を届けよう」という動きも大小、様々なレベルで増えつつあり、私たちとしても全国でそのすそ野が拡がってゆくことに期待しています。

コロナ禍の中では困難な状況が多数起きていますが、唯一、オンラインという教育手段が広く認知されたことという点においては、前向きに捉えられるできごとでした。

この流れを途絶えさせることなく、学校に在籍しているにも関わらず無支援状態となっている子どもたちをゼロとし、海外ルーツの子どもたちが自治体の状況や環境に左右されることなく、十分な日本語教育機会へアクセスできるようになるまで、YSCグローバル・スクールでは引き続き力を尽くしていきたいと思います。

どうぞ引き続き、私たちのチャレンジと海外ルーツの子どもたちへの温かな応援、ご支援をよろしくお願いいたします。