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元祖 鯱もなか本店です。
はお楽しみいただけたでしょうか?
今回は当店の社長の夫である私が、フリーターパンクロッカーからトップ商社マンになった後に陥った悲劇、そして独立へと至った経緯についてお伝えしたいと思います。
当時は東南アジアを飛び回りながら、国内の重要顧客を担当し、社内のプロジェクト推進やチームのマネジメントなど、多忙に多忙を極めました。
その結果どうなるかというと、必然的に勤務時間が増えていきます。
働き方改革やリモート化が進んだ昨今では文字にもできない恐ろしい労働時間となり、休みも寝る間もありませんでした。
そのままいけば順調に出世コースに乗れたはずでしたが、取り付かれたように働き続ける日々を2年ほど続けた結果、過労で倒れてしまいました。
身体が悲鳴を上げていたことに気づかず無茶を続けてしまっていたのです。
するとどうなったか。
自分がいないと成り立たないと強迫観念に駆られていたその職場も、他のメンバーだけで何とか回っていくのです。
そこで気づきました。
「こんなに無理しなくても良かったんだ」
「いつしか自分や家族より重視していた世間なんて虚像だった」
そして「自立しよう」と決めました。
その時の私は31歳でした。
紆余曲折ありたどり着いたのが空間活用ビジネスでした。
当初は会社員をしながらの副業でしたが、のちに独立することができました。
空き家や空き部屋を資源として捉え、リノベーションしたり有効活用することで新たな付加価値を生み出すモデルです。
その時既に専業主婦となっていた妻ですが、芸大卒で手先が器用でデザイン感覚が優れているので、サポートしてもらいながら二人三脚で進めていきました。
副業感覚で始めたので安定的な売上を確立するのは容易ではありません。
そこで私が着目したのがブラジル人コミュニティでした。
故郷を遠く離れ、地球の裏側から日本に渡ってきた在日ブラジル人の方が多数存在しています。
そんなブラジル人の一人と私は親友になりました。
彼の名を仮にルーカスとします。
ルーカスは8歳の時に家族と日本に渡ってきました。
わけあって15歳で一人になり、それ以来自力で生計を立ててきた逞しい男です。
100キロ以上ある大男なのでパッと見は怖いです。
彼は家族の愛に恵まれずに育ちました。
それでもその家族が病気になったとき、自分が働いて貯めたお金を全部渡してブラジルに帰らせました。
自分はひどい目に合ってきたが、最期くらい故郷で過ごさせてあげたいと思ったのだそう。
ルーカスは愛の人なのです。
彼には美人の奥さんと天使のような二人の小さな娘さんがいて、子供たちには「何でも自分でできるように」するのが教育方針です。
自分が苦しんだからこそ子供たちが困らないようにと、彼は愛を注いでいるのです。
実際に怖い見た目とは裏腹に、彼はとても熱心なクリスチャンです。
私もよく教会に招かれ礼拝に参加したり、一緒に食事をするなどおもてなしされました。
信仰には馴染みが薄い私ですが、ブラジル人たちの教会に行って驚いたことが大きく二つあります。
一つ目は、賛美歌をバンドスタイルで斉唱し、ロックのライブさながらにスタンディングオベーションが起きること。
二つ目は、礼拝が終わるとBBQパーティーが始まることです。
ブラジルで好まれる牛肉の部位「ランプ」を塩コショウで味付けしたら豪快に焼き上げ、細く切り分けます。
誕生日の人がいる場合は、女性たちがキッチンで沢山のケーキを作ります。
鮮やかな緑や黄色や青や赤のケーキに大人も子供も大喜びです。
彼らブラジル人は教会を中心にコミュニティを形成しており、すっかり私も入り込んでいきました。
底抜けに明るい彼らですが、実は日本語ができずに生活に困るブラジル人もたくさんいます。
言葉や文化の壁が分厚く存在しているのです。
ルーカスはある時「日本人はインド料理屋には気軽に入るけどブラジル料理屋には入らないね」と寂しそうに笑っていました。
そんな壁を取り払い、困っているブラジル人のために住まいなどの空間を提供しようというのが、ルーカスと私の作戦です。
その結果、田舎の限界集落に教会を中心とした相互扶助のコミュニティが生まれ、消えゆくはずだった町に息吹が芽生えました。
この話題が注目を集め、私はルーカスと一緒に地域の高校に呼ばれ、国内での国際交流の事例として紹介しました。
更には、九州の大学に招かれ、衰退地域での「まちづくり」の成功事例として講演するまでに至ります。
いつの間にか独立を実現し、この仕事を生業として生きていくんだろうなと思い始めた矢先に世の中に激震が走りました。
そう、世界中を恐怖に陥れた"あの"パンデミックの始まりです。
次回最終回「出会って跡を継ぐまでの18年 ~廃業までのカウントダウン そして伝説へ 編~」
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