こちらは区役所の情報編纂室です。
全部門に向けて、新たな有害超獣個体の簡易対応手順を発行しました。
このマニュアルは、全ての職員が閲覧可能です。
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◆PB-106簡易対応手順
◇名称
トッカン
◇発見者
警備三課記録班
岩井 鈴 (いわい すず) 博士
◇危険度
有害認定
◇簡易対応手順
・市街地で現出した場合、地上4階以上の高さを持つ全ての建物から退避してください
・予知していない現出が確認された場合、航空課への通知を徹底してください
・現出を予知できれば危険性は大幅に下がります、託宣課との連携を密にしてください
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【突貫工作戦】
一つの行動に特化した超獣を駆除するためには、一つの超獣に特化したスペシャリストを必要とする。「トッカン」なる有害認定に対し、交戦対応を決定した区役所が招集したのは、そういった人員だった。
即ち、それを誘導するための「撒き餌」と、それを活動停止に追い込むための「打撃力」を同時に用意できる者。予測から、僅か1両日で現出するこの小型の超獣に対して、以上の2要素を短時間で展開し得る者。
建築課・第6工員斑…通称「アイギス建設」から出向してきた44名の建設作業員たちは、班長が吹くホイッスルによる、鋭く短い号令と同時に、慣れた手付きで対応作戦へと着工した。
大型トラックによって次々と現場に運び込まれる大量の資材は、建材それ自体ではなく、既に組み立てられた「小部屋のブロック」とでも呼ぶべきものだった。
そして明朝に始まった作業は、昼のうちには土台部分を完成させ、暗くなるより前に「小部屋のブロック」の積み立てを終えていた。
既に出来上がった小部屋たちを、間にステンレスの補強材を挟み、まるで積み木のように組み上げていくユニット工法。
僅か19時間で打ち立てられたその「マンション」は、しかし電気も、水道も、引く必要がない。
これは人間が住むためのものではない。
この一帯で、最も高い建造物であることが重要なのだ。
次に彼らが取り掛かったのは、ユニットの中でも特に目を引く、唯一赤い塗装を施された部屋の改装だった。外壁に「巨大な眼のような印」をつけられた部屋に、次々と運び込まれていく「対外秘」と印された資材。それらは、ビルの発破解体に用いられるダイナマイトだろうか。
それにしては多すぎる量を、それにしては偏った場所に、しかし工員たちは次々と運び込んでいく。
やがて、爆薬が部屋の中を埋め尽くすほどになった頃、鋭く短いホイッスルの音と共に、その建築物は完工した。
現場全体に広がる、僅かな安堵の空気、と同時に、班長が声を張り上げる。
「想定個体の現出予想時刻まで約6時間! 撤収開始!」
それから僅か20分の間に、作業員たちは重機を含めた撤収を完了する。
彼らは各々に、会心の手応えを感じていた。
6時間後、自分たちの「成果物」へ、またあの入居者がやってくる。
それは野性の原則に従って外壁へと張り付き、そして印付きの部屋を、自慢の嘴で突貫するのだろう。
工員たちは、上がる火柱を眺めながらグラスをぶつけ合い、一日の疲れを癒すのだ
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より詳細な対応手順へのアクセスには、レベルII以上のセキュリティ・クリアランスの提示、または当該クリアランスを持つ職員による認可が必要になります。