2013/02/19 20:47

『豪華本製作からみえる、これからの印刷、出版の可能性』


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安野モヨコ『バッファロー5人娘』豪華本製作プロジェクト。今も豪華本の製本過程には、手作業による高度な技術が生きている。進化する印刷技術。製本と印刷のこれからの可能性に迫る。色彩デザイナーへの、オールカラー化についてのインタビュー、安野モヨコさん自身へのインタビューに続き、印刷会社に伺った活動報告第3弾。
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取材・構成:コルク編集部


−出版の可能性を広げるオンデマンド印刷−


ー今回製作をお願いした安野モヨコ『バッファロー5人娘」の豪華本は、製本作業が現在もすべて手作業で行なわれているとお聞きしました。

はい。一部機械に頼る部分もありますが、基本的には今も製本職人の高い技術が必要とされています。
ですがその前に、今回のような豪華本と通常の本とでは、印刷方法に特徴的な違いがあります。



ー印刷方法の違いですか?

印刷には大きく分けてオフセット印刷とオンデマンド印刷があります。
通常大量に部数を刷る本にはオフセット印刷が使われ、1部〜500部ほどの少ない量の本にはオンデマンド印刷が使われます。
オフセットでは版を作って印刷するため、大量の部数を刷る場合にコストを抑えられる。対してオンデマンドは、データを入力してそのまま印刷するため、少量ならこちらの方が低コストですし、細かいオーダーにも柔軟に対応することが出来ます。
今回の『バッファロー5人娘」豪華本はキャンプファイヤーでの限定生産ということで部数が少ないため、オンデマンド印刷を利用しています。



ーオンデマンド印刷で可能になることをもう少し具体的にお聞きしてもよろしいですか?

実は身近なところにもオンデマンド印刷は活用されています。例えば何十万部と印刷される漫画雑誌。プレゼント応募のために、一冊一冊異なるシリアルナンバーが印刷されたページが入っていて、私たちはその番号を専用サイトに入力しプレゼントの当否結果を確認します。そのページ、実はオンデマンド印刷が使われているんです。

ーなるほど。本全体はオフセット印刷で何十万部も刷るけど、カスタマイズが必要なページだけオンデマンドで印刷して、製本の段階で合わることができるのですね。

オンデマンドは、目的に合った本やページの低コストでの印刷を可能にします。この技術は一般的にはまだ認識されておらず、オフセット印刷との違いも理解されていないのが現状です。オンデマンド印刷の認知を広げることで、新しい活用の可能性も見えてくると思いますし、必ず需要もあると思っています。


−製本作業に残る職人の息づかい−


ー今回のような豪華本の製本は、一般的な製本とはどう異なるのですか?

一般的な製本は『折り調』といって一枚の大きな紙を折って製本していく手法がとられます。この手法だと、ある程度の枚数でまとまりがあるため、機械のラインで作業ができる。それに対して豪華本では、1ページずつバラバラの紙をまとめて製本する必要があるため、今も職人の手作業で行なわれているんです。そこにはこれまで蓄積されてきたノウハウや高度な職人の技術が詰まっています。

ー豪華本の背表紙ってとてもしっかりしていますもんね。

豪華本の背表紙には“丸背”と“角背”の2種類があります。ページが開きやすいので丸背の方がいいとされますが、角背の方が本棚に収まった時にしっくりくるという意見もあり、好み次第ですね。漫画の場合読みやすさが大切なので、今回の『バッファロー5人娘』の背表紙は丸背になっています。ちなみにコストは、丸背の方がかかります。



丸背の場合も角背の場合も、途中までは工程が同じです。
まずは本体のページと表紙を開いたときにある見返しに使われる紙を入れた状態で固め、角背を作る。その後、丸背は角背に丸みを出す工程があります。表紙を合わせ、ページが劣化しにくい豪華本用の特別な糊とミゾで中身が落ちないよう全体を締めていきます。
これによって型崩れせず、長期保存がきく豪華本の特性が出るのです。
見栄えを整えるため糊部分を隠すための布をつけたり、スピンと呼ばれるしおり用の紐を付ける作業もあります。今回の豪華本もこの作業を経て製作されます。



ー豪華本の製本作業、とても手が込んでいて驚きました。

様々な材料、道具を使い、たくさんの工程を経て、豪華本は作られます。そこには高度な技術が必要とされ、今も昔と変わらず職人の手作業が支えています


−模索する、出版の新しい可能性−


ーここまでオンデマンド印刷や、高い製本技術を拝見させていただきました。

日本人は品質にとても重点を置く国です。本に関しても同じで、海外は読めればいいという感覚。けれど日本人は「美しい本」がほしい。本としての内容はもちろんのこと、見栄えにも非常にこだわりがあります。そうした文化を支える技術をしっかりと、下の世代に伝えていくことも私たちの責務であり、重要な課題です。

ー今回の『バッファロー5人娘』のような豪華本の魅力についてはどうお考えですか?

豪華本の需要はここ数年少しずつ増えています。
今回のような受注生産限定本・豪華本、専門書など、発行部数は少なくとも必要とされる本は増えてきています。これからの時代、紙媒体でのベストセラーは難しくなるかもしれませんが、電子書籍で気に入った作品の豪華本を、コレクション用に欲しいと思う人が増えるかもしれません。特に漫画は、オールカラー、表紙の箔押し、筆者サインなど高付加価値をつけることができます。

ーそうするとオンデマンド印刷の可能性も広がりますね。

これからオンデマンド技術の需要は増えていくだろうし、今は使い方を模索している最中です。そういう意味でも、今回実施している『バッファロー5人娘』の豪華本製作プロジェクトはとても興味深く、新しい試みだと思っています。ぜひこのクラウドファウンディングが成功して、今後たくさんの作家さんが豪華本を製作する流れができるとすばらしいですね。